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ファンド分析:投資一任の適切な手数料水準について

1. はじめに

 本稿では「投資一任」を1つのファンド類型と捉え、近年普及しつつあるロボアド・ラップ口座の適正な手数料水準について検討します。一般にラップ口座は対面証券の富裕層向け、ロボアドは少額からネットで若年層向けと認識されています。

 どちらも大きな括りでは「投資一任」に分類されます。ラップ口座の方が登場が早く90年代後半から登場し、ロボアドが日本で登場したのは2015年以降です。 

2. ラップ口座の必要性と手数料水準

 最初にラップ口座の手数料水準を俯瞰します。下の表はミンカブの記事からの抜粋です。これを見ただけで多くの投資家は理解できるでしょう。

参照元:https://itf.minkabu.jp/news/1186

 20年前の運用環境であれば限定的なケースにおいては利用価値が存在していたかもしれませんが、2023年時点の運用環境でラップ口座を選択するメリットは全くありません。 

 対面証券会社は金融庁から顧客の回転売買に関して度々指導を受けてきました。その結果、売買によって手数料を稼ぐのではなく残高を増やすことで稼ぐ方向にシフトしました。ラップ口座は残高ビジネスへの転換として金融機関に都合に良い金融商品と言えます。 

 手数料は項目が多すぎるため各条件への該当も踏まえ一概に●%と言えませんが、高いことだけは分かります。金融リテラシーを判断する基準の1つとしてラップ口座の利用有無を設定しても良いかと思います。 

 運用が優れていても高額な手数料が発生すると長期にわたり市場平均を上回ることは困難です。(これはデータによって証明されている事実です)よってラップ口座は「敗者のゲーム」であると判断できます。 

 一般のサービス業では手数料(サービス料金)とサービスの質が概ね連動しており、単価の高いプロフェッショナルはそれだけサービス品質が高いことが殆どです。しかしながら金融商品にはこの原則が当てはまりません。 

 金融商品の手数料は専門性の証明でもリターン期待値の証明でもありません。これは投資初心者の方が誤解しやすい点で注意が必要です。投資の世界では“手数料は安ければ安い方が良い”というのが原則です。 

 投資の目的は資産を増やすことです。であれば手数料は限りなくゼロに近い水準が好ましいです。同じ投資対象であれば手数料率の違いがパフォーマンスに直結します。

 金融商品のパフォーマンスはプロが商品を選択しようと自身で商品を選択しても変わりません。手数料分だけプロに頼むと結果が悪くなります。 

以下、結論です。 

・ラップ口座には利用価値はない
・現在利用している方は速やかに解約するのが望ましい。

3. ロボアドの必要性と手数料水準

 私が実際に利用したロボアドの評価は以下の記事で整理しております。

 ロボアドは後発ということもありラップ口座のようなエグイ手数料ではありません。ラップ口座利用者の乗り換え先としてロボアドは選択肢として考えられます。 

 とはいえ、日本のロボアドサービスの手数料はロボアド先進国の米国と比較して非常に割高です。日本では1%程度の運用報酬が標準的ですが、米国では0.25%程度まで引き下げが進んでいます。 

 サービス自体は可もなく不可もなくであり、丸投げしたい方の選択肢になりますが、日本のロボアドは何と言っても手数料が割高です。それでもラップ口座よりは各段に手数料体系がシンプル・安価であることは確かなので乗り換え先としては検討可能です。 

 米国のように0.25%程度まで運用報酬が引き下げられるのであればお勧め度は上がりますが、現状の手数料率では自分では何もしたくない方以外にはお勧めできません。

 最初に15分、半年に一回15分程度の時間を確保できる方はロボアドを利用するより、自分でロボアドと似たポートフォリオを簡単に構築することが可能です。 

 ロボアドは最高点ではなく平均点を取るためのツールに過ぎません。基本的にはポートフォリオ理論に則り複数資産に分散したポートフォリオを構築することになります。特に尖ったポートフォリオになることはなく、リスク許容度に応じ株と債券の比率が変動するくらいです。 

 平均点を狙うのであれば別にロボアドを利用せず自分で市場平均に連動するインデックスファンドを購入すれば済みます。具体的には「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」でOKです。 

 株式以外のアセットクラスもポートフォリオに組み込みたい場合は債券と金が候補となります。債券であれば長期債ETFのEDV(0.06%)やTLT(0.15%)、金であればGLDM(0.1%)が候補になります。 

詳細は下記の記事で整理しております。

 ほんの少し手間をかけることで年間1%のコストを削減することが可能です。1,000万円を運用する場合、毎年10万円の差が生じます。小さいように見えてマイナス効果も複利で作用するため長期では大きな差が生じます。 

以下、結論です。 

・1%のコスト差を気にせず丸投げしたい方には検討の余地あり
・少しの手間であれば問題ない方には不要なサービス
※将来米国並みに手数料が引き下げられたら評価は変わります。 

4. 投資一任サービスの進む方向

 全般的に投資一任サービスは手数料が割高で投資家のメリットが少ないサービスです。とはいえ、投資一任が消滅するかといえばそうではありません。

 一般向け投資一任サービスに区分されないため触れませんでしたが、プライベートバンク(PB)が提供するサービスはカバー範囲が資産運用だけに留まらず多岐に渡ります。 

 そのような投資一任を含む総合金融サービスの場合、費用対効果の検証は困難です。通常はサービスにアクセスできないこともあり、本稿では取り上げませんでした。とはいえ参考になる点はあります。 

 PBの総合金融サービスで参考になる点は資産運用をきちんと手段と認識し割り切っている点です。資産運用自体を目的化せず、顧客の目的に沿った金融サービスを提案し、資産運用はそのパーツの1つに過ぎません。

 資産運用を手段の1つと認識し顧客に過剰なリスクを負わせないこと、これは金融機関が肝に銘じなければならない心構えです。 

 PBのような金融サービスのトータルコーディネイトをロボアドのようにテクノロジーを駆使してオンライン完結で誰でも利用しやすい料金で提供すること、これが投資一任の進む方向だと考えます。

 資産運用自体はパーツの1つに過ぎないので、一任サービスだけで顧客の目的が達成されることはありません。金融が付加価値を発揮するには資産運用の結果(利益)と顧客の人生目的をリンクさせ、シームレスな目的達成のサポートが必要不可欠です。

 資産運用は決して目的と断絶された行為ではありません。それぞれの顧客には資産を増やす目的が存在します。その目的達成とシームレスなサービスこそが付加価値の高いサービスとなり得ます。 

 どのように上記のようなサービスを実現するかですが、現在企画を検討中です。アウトラインは既に描けています。人材と資金の調整が必要な状況で、まだ時間がかかりそうです。サービス開発の目途が立ちましたらもう少し具体的な話を記事にいたします。

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