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DeFiの本質価値①

はじめに 

 本記事ではDeFi(Decentralized Finance)、日本では「分散型金融」と呼ばれる新しい形態の金融サービスについて、「伝統的金融との比較・規制の方向性・投機/バブルの可能性・将来性」について整理することでDeFiの本質価値を明らかにします。メディアやSNS等で一般に主張される内容とは異なった視点を示すことで、次世代金融サービス設計の一助になれば幸いです。 

DeFi概要

 DeFiと呼ばれる各種サービスは2019年頃から広がりをみせ、2020年にはサービスの種類・規模を大きく成長させ、2021年もTVL(Total value locked)ベースで拡大を続け、現在に至ります。DeFiはブロックチェーン技術の応用によって生まれたこれまでの金融サービスとは異なる概念・運営形態の金融サービスです。DeFiの特徴としてとして一般に以下のような要素が存在します。

  • ブロックチェーン技術を活用している

  • パブリックなシステム基盤を利用し分散されている

  • 特定の管理者が存在しない

  • 処理機能が自動化され人手を介さない

 DeFiは現在進行形で進化・拡大しており主要なサービスとしては分散型取引所・レンディング・ステーブルコイン・デリバティブ・アグリゲーター・合成資産などが存在します。DeFiサービスの種類は多岐に渡りますが、多数のユーザー・資金を集めるDeFiは「キャピタルゲイン・利回り」が期待出来るサービスであることが多いという特徴があります。上記カテゴリ以外にもKYC・ペイメントなどのプロジェクトも見受けられますが規模は大きくありません。

 DeFiの特徴として分散型であることが強調される場面が多いと感じますが、利用状況を見る限り分散型金融インフラ・ガバナンスであることよりも「キャピタルゲイン・利回り」を追求していることがわかります。この点は本音と建前ではありませんが、現状のDeFiは次世代金融として高評価を得て拡大しているのではなく、既存の暗号資産に代わるより高いリターンを期待できる投機商品として利用者に位置付けられていると分析できます。

 DeFiは明確なサービス提供主体が存在しないことが多く、セキュリティ・AML等の課題がしばしば指摘されます。グローバルでサービスへのアクセスが容易であり各国の金融規制を無視している状況も見受けられます。またDeFiは自己責任が原則であり、仮にプログラムに不具合が発見された場合であっても保証が受けられるわけではなく自己解決が求められる点が既存の金融サービスと大きく異なります。パブリックなネットワークと分散型の合意プロセスに起因して問題発生時の修正や停止が非常に困難である点にも注意が必要です。

 総じて利用者に高いリテラシーを求める場合が多く、現状使いこなせる利用者はごく一部に限られております。日本人の国民性を考えると保護してもらえる金融サービスが当たり前になっているので一般ユーザーの感覚と合致しないのではないかと私は感じております。

DeFiとCeFi対比・モデル類型

 DeFiとCeFi(Centralized Finance:集権型金融)を比較するとDeFiは以下のような特徴を有しております。これまでの金融サービスとは異なる概念・ガバナンスで運営されており、既存の金融規制とは異なるアプローチ・規制が必要と考えられます。

執筆者作成:DeFiとCeFiの比較                                      

 まず、DeFiプロジェクトは法人化されておらず権利義務の主体となることが困難です。実態として開発コミュニティが存在しますが法的な権限を有するかどうかは不明瞭なことが多いです。法人の場合は株主総会や取締役会で重要事項の意思決定を行いますが、DeFiの場合はガバナンストークンと呼ばれるツールを用いて保有者による重要な意思決定の投票を行います。

 最大の相違点・課題が金融規制の適用です。金融は規制業種であるため特定の行為には関連する金融ライセンスの取得が求められます。金融ライセンスの取得には監督当局の審査や自主規制団体への加盟等を通じて業務管理態勢、財務資本力、遂行能力等のチェックが存在します。DeFiの場合、実質的に金融ライセンスを必要とする行為と同等の機能を金融ライセンスなしで提供しております。これを金融のイノベーションと評価する人もいるかもしれませんが、金融規制に求められる本質を鑑みるにグレーな逸脱に過ぎず放置は許されない状況と感じます。であれば“DeFiにも金融規制を適用すれば良いのではないか?”と思いますが、前述の運営者が法人ではない点が影響しております。これまでの金融規制は金融サービスを提供する金融機関(仲介者)を事前に審査・登録する方式を採用しておりました。匿名のサービス提供者は想定しておりません。加えてP2Pに近い金融サービスという形式も想定しておらず、金商法等の法律は利用者(エンドユーザー)ではなく金融機関の行為を規制しております。このような背景からこれまでの金融規制のフレームワークでDeFiをコントロールすることは困難であり、金融規制の在り方が問われております。 

 伝統的な金融機関は金融サービスを提供しますが、DeFiはプログラムで自動化された特定の処理機能を提供します。結果的に似た機能を提供する場合もありますが本質は異なります。金融機関がサービスとして提供する場合、利用者に起因しない損害が発生した場合はルールに沿って金融機関が補填等いたします(約款等に記載されており口座開設時に同意する形式になっていることが多いです。)DeFiの場合、そもそも法人でもありませんし責任主体が明確ではありませんので、仮にプログラムに不具合があったり・外部からハッキングを受けたり・脆弱性が問題で資金が流出しても、補填が受けられる可能性は限りなく低いです。当然ながらプログラムのバグは修正されますが、過去に遡って補填されるかは別問題です。この巻き戻しの議論はハードフォークと呼ばれるもので2016年に発生した「The DAO」事件では多くの議論を巻き起こしましたがハードフォークが実施されました。(イーサリアムが新旧に分離したきっかけとなる事件です)ここでのポイントは利用者は何を信用するか?ということです。伝統的な金融サービスは銀行や証券会社を信頼して取引します。DeFiではプロトコル(コントラクト・コード)を信頼して取引します。冒頭で“日本人にはDeFiは流行らないのではないか?”とコメントしたのはこのような違いが背景にございます。

DeFi規制の行方

 DeFiユーザーは「分散型金融」というコンセプトを支持しているのではなく、サービスを通じて得られる「キャピタルゲイン・利回り」を目当てにサービスを利用していると推察いたしました。(少数のユーザーは分散型イデオロギーに共感し利用していると思います)現状のDeFiブーム及びガバナンストークンが高騰している状況は2017年のICOバブルと類似する点もございます。(投機目的の利用者が大半を占める場合、マーケットが崩れることで一気に利用者が消えるリスクが存在します)

 DeFiサービス(例えばレンディング)を通じて得られる期待値は最終的には外部サービスとの裁定取引(アービトラージ)によって一定の値に収斂するはずです。逆説的ですがDeFiによる運用利回りが高ければ高いほど、より多くの資金がDeFiに流入し、結果として裁定取引によって他のサービスとのギャップが埋まることになります。理論上同一サービス間の期待収益は収斂し、いずれフラットになるはずですがDeFiとCeFiの利回りの差は埋まりません。要因として「アクセス手段に起因する参加者の違い・DeFiが抱える本質的リスクプレミアム」が存在するかもしれません。伝統的な金融市場とDeFi市場ではプレイヤーが大きく異なります。結果として「一物一価」が機能しないのだと思われます。また表面的に同一のリスク・リターンに見えるサービスでも表1で示した通り、伝統的な金融サービスとは根本から異なることから、そこに「リスクプレミアム」が発生しているのかもしれません。

 現状のDeFi規制の状況は2017年のICOの状況に近いかもしれません。今後、DeFi経済圏の拡大・消費者事件の発生等を契機に規制の議論が本格化することが予測されます。その際はDeFiを一括りで処理するのではなく、提供する機能に応じ相応しい金融規制が課される方向に議論が進むことが望ましいと考えます。現状は規制対象となる組織が明確ではないことから規制対象外と見做されておりますが(黒に近いグレー)、長くは続かないと思います。 

 DeFiでもDappsでもサービスが存在する以上、明確な責任主体が不在の場合であっても開発コミュニティは存在するので実質的なサービス提供主体として規制対象と判断されることもあり得るのでは?という議論もあります。特に多少でも開発コミュニティがサービスを通じて経済的な利益を得ている場合は相応の因果関係が認められると思います。 

 DeFiに対し伝統的な金融機関同等の金融規制の適用は困難でも主体が特定可能な範囲で一定の義務を負わせる動きは考えられます。各国独自の規制とは別にFATFのような国際組織によって一定のルールが設けられる可能性も考えられます。同時に完全な金融規制の適用が困難である以上、ユーザーは自己責任の徹底が問われると思います。グローバルな活動としてはDeFiに特化したものではありませんが、BIGN(Blockchain Governance Initiative Network)という組織の活動が参考になります。

 尚、DeFi向けの規制が制定されても「規制執行可能性」が担保されない場合は無意味となる可能性もあります。これは“ルールは作ったが実際の適用が困難”という場合に発生します。ルール策定時に実態に即した規制をデザインしないと意図した効果が得られず形骸化する恐れがあります。また形式だけの規制の場合、AML・CFT関連のリスクが顕在化する可能性が高まると思われます。 

 課題の多いDeFi規制ですが、どのような形で規制をデザインすることが望ましいのでしょうか。分散型サービスへの適切な規制の枠組みを定めるためのステップとして、「規制のサンドボックス」の適用が考えられます。現状のサンドボックス制度はお世辞にも使いやすいものとは言えませんが、DeFiのような将来性は期待されつつ法律関係が曖昧な分野でこそ、実証を通じて課題や有用性を検証し制度化を推進することが望ましいと感じます。サンドボックスの利用を通じ実態に即した分散型サービスの金融規制が整備されることで規制の形骸化の防止にも繋がります。サンドボックスの適用と並行し金融審議会での議論や間接型モデル(※次回記事で解説)を通じた知見の獲得も重要となります。(尚、サンドボックスは一例でありより使いやすい制度の設立が望まれます) 

 分散型サービスへの別の規制アプローチとして、求められる金融規制をコードに盛り込む対応も検討に値すると思います。実験性の強いアプローチですが、今後の金融システム・サービスの在り方を考えると、一考の余地があるアプローチと言えます。これは“Code is Law”の考え方であり、エンジニアにとっては馴染み深いかもしれませんが、従来の金融規制の在り方とは異なる考え方です。Code is LawはThe DAO事件の際にも話題になった思想であり、分散型サービスの運営に際しては根幹となる重要な概念と言えます。

 これまでの金融規制は規制対象となる金融機関の行為規制によって規制目的を実現してきましたが、今後は分散型金融サービスが普及するにつれ従前のアプローチが機能しなくなることが予測されます。その際に求められる規制とCodeの実装が対となり第三者が監査等を通じて金融規制で求められる要件がCode上に実装されていることを簡易な形で検証できるようになれば、自律執行型の金融システムの原型が出来上がることになります。この段階まで達することによりDeFiを通じて金融システム・サービスの高度化・効率化の実現が見えてくると思います。 

 一部のDeFiサービスは単一機能の提供に留まらず、金融インフラに類似した機能を担っているケースも見られます。その場合「FMI原則(金融市場インフラのための原則)」の適用に関しても検討する必要があります。FMI原則も「従来型金融規制アプローチ=規制される運営主体が存在する前提」となっており、DEXのような形態は想定しておりません。

  分散型サービスへの規制の考え方の参考としては欧州連合(EU)が2020年9月24日に公表した、暗号資産規制の法案(EU法案)が参考になります。EU 法案のプレス・リリースには、 ‘same activity, same risks, same rules’とも示されており、これは、暗号資産業を「普通の」金融業(financial service)と同等に扱うことを意味しております。

参考文献等

本記事の作成に際し、以下の文献を参考にいたしました。

牛田 遼介(10/20 フィンテック協会キャピタルマーケッツ分科会)https://www.fsa.go.jp/policy/bgin/20201020_Fintech_Association_presentation_JP.pdf


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