RE+Designing.公的年金制度_01
1. はじめに
本マガジンは日本の社会制度のリ・デザイニングについて考察するシリーズです。制度の各所に綻びが見える日本の社会制度を未来に向けてどのように改善すべきかについて私論を展開いたします。
世の中には様々な立場の方がおり、所属する組織や立場によって異なる利害を有している方が存在するため、誰かにとっての正解は別の誰かにとっての不正解になる場合が存在します。
“万人にとってベストな政策は存在しない”という前提のもと少しでも課題の改善に繋げる考察を心掛けます。
2. 賦課方式から積立方式への移行の必要性
日本の社会保障制度で影響が大きく早急に修正が必要な制度が公的年金制度です。年金財源の問題は様々なメディアでも取り上げられ持続可能性が疑われているのは周知の事実です。
日本の年金制度は「賦課方式」を採用しています。
賦課方式は経済成長と人口増加の二つの要素が維持できなければ継続不可能な欠陥システムです。高度経済成長期には問題ありませんでしたが、少子高齢化が加速している現在は持続不可能なシステムです。
従って賦課方式の見直しは必要不可欠な政治テーマですが、遅々として進んでおりません。これは制度見直し=高齢者に不利な制度変更となるため、高齢者の票獲得に直結するためです。
年金制度が抜本的に修正されないのは政治家が自身の利益と国家の利益を天秤にかけ国家の利益を棄損しているに過ぎません。
年金制度はしばしば「ポンジスキーム・ねずみ講」と表現されることがあります。実態としては正しいですが、国が運営しているため運営主体が逮捕されることもありませんし、改悪されても表面上は制度が維持されている限り、ポンジスキームではないと言い張ることができます。
民間であればアウトでも国であればセーフという事例です。(ダブルスタンダードの実例) これは少し強い表現をすると“賦課方式の年金制度は分別管理が出来ていない不正会計企業の運用と同レベル”と言えます。
積立方式にすることで財源の分別管理が可能となり、自身の資金が不正流用されることを防ぐ可能となります。
3. 積立移行に伴う不足金問題の解決案の思考
年金制度の積立方式への移行を論じる際にしばしば、移行に伴う二重負担が指摘されますが合理的な解決方法は存在します。移行されると不都合な勢力により意図的に触れられていないだけに感じます。
移行に際して発生する資金不足に対してはまず国債の発行で穴埋めをします。合わせて高齢富裕層を対象とした資産課税と高齢富裕層を対象とした相続税強化を時限措置として実行します。
現役層の積立方式への移行はそれほど難しくありません。問題は払った分以上に多く給付を受けている高齢層です。結論としては世代内(高齢者同士)で解決させるという話になります。賦課方式は「世代間」の扶助ですが、人口減少時代において制度が成立しないことは周知です。
よって最初のステップとして、世代間で支えるのではなく世代内で支える形に変更します。そして最終的には「世代」という単位から「個人」という単位へ段階的に移行させます。
これは高齢者の年金維持の為に誰が犠牲になるのか?という話で、受益者が高齢者であれば負担者も高齢者であるべき、という至極真っ当な思考に起因します。
日本の家計金融資産を見ると約2,000兆円あると言われておりますが、その多くが高齢層に偏っています。高齢者間の格差は存在しますが、大きな括り・世代単位で見た場合、高齢層は間違いなく資産をもっています。
高齢者に必要な年金は別の高齢者が負担する制度設計にすることが賦課方式による世代を超えた負の連鎖を断ち切るための第一歩となります。
このような案は高齢者に対して差別的という批判を受けるかもしれませんが、給付と負担のバランスを考えると高齢者の問題を高齢者で解決しようとしているに過ぎず、下の世代に押し付ける現行の賦課方式よりは相対的にマシではないかと考えます。
具体的には資産額●●以上の高齢者(例えば金融資産・不動産・高額動産も含めた純資産1億円以上の65歳以上の富裕層というように定義する)に対して毎年●%の資産課税を課すような形が考えられます。
徴税の手間を考えると金融資産残高ベースなのですが、間違いなく不動産や高額動産が抜け穴になるため、網羅性を確保しつつ簡易な徴税手法が求められます。
この「高齢富裕層資産課税」は目的税として設定し、高齢者への年金給付・医療にのみ利用されるよう法整備します。消費税のようにいい加減な運用にならないようプロセスを厳格に定め、第三者チェックも行い実効性を担保します。
同様の設計で「高齢富裕層相続税」を既存の相続税の特例の位置付けで法整備します。これも対象となる高齢富裕層に相続が発生した際は加重的な相続税率が適用され、高齢者の年金・医療財源として利用される設計です。
当然ながらこれだけでは財源確保には足りないので最初に触れたように年金穴埋めを目的とした国債発行(年金国債)を新たに新設して補います。
制度移行に伴う不足問題を世代内負担で解消出来たら、次のステップに移行します。現役世代は積立を個人勘定で実施しているので現役世代が引退するタイミングでは世代内負担の仕組みを廃止し個人勘定にシフトします。
上記の2ステップを経ることで賦課方式から積立方式への移行が可能となります。積立方式は個人勘定なので401kやiDeCoと基本的には同じです。個人が運用方針を決定し、その結果に従って将来給付を受ける仕組みです。
一度に積立方式に移行が難しい場合には厚生年金から積立方式に移行すべきです。
公的年金は2階建てなっていることから全国民が対象である国民年金よりも対象者が限定されている厚生年金の方が賦課方式から積立方式への移行は負担が少ないと思われます。
厚生年金が積立方式に切り替わると実質的には会社が50%負担してくれる年金制度として可視化されます。401kとの違いは退職一時金払いが選択できず年金方式での受給に限定される点となります。
毎月の給与明細で仮に5万円の厚生年金が引かれている場合は実質的に毎月10万円拠出していることになります。これを40年間、4%で運用したら相当な金額になります。
尚、国民年金はそもそも制度として破綻しているのでゼロベースで持続可能な制度への見直しが必須です。昨年の日経に下記のような記事がありました。本件に各所から批判の声が挙がっているようです。完全に分別管理の出来ていない不正会計企業とやろうとしていることが同じです。
国民年金の議論の際にはベーシックインカム(BI)や生活保護といった関連制度も併せて検討する必要があります。
戦後設計された諸制度は既に制度疲労を起こし正しく機能しておりません。見直しタイミングが訪れています。尚、賦課方式から積立方式への移行にあわせて受給区分の見直しも不可避です。
第3号被保険者区分の廃止が必要です。
本制度は過去においては必要だったかもしれませんが、時代に即しておりませんし合理的な説明ができない制度となっています。
現行の3号制度は払わず受け取るという仕組みであり、「権利と義務・負担と給付」という前提に立つとバランスが取れておらず、特定層を優遇しているだけの欠陥制度なので年金制度改革の一環として速やかに修正されるべき制度です。
時代の変化によって年金という制度の立ち位置が変化しつつあります。公的な老後のセーフティネットという位置付けから、個人勘定の財産形成手段への移行です。制度としては公的な優遇の枠組みは残しつつ、結果の帰属を個人単位に移行する形です。
年金制度を持続可能なものにリ・デザイニングするには避けては通れない道です。いつ・誰が口火を切るかが問題です。
分量が多くなるので本投稿では厚生年金について触れませんでしたが、別の機会で02として取り扱う予定です。
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