RE+Designing 所得課税
1. はじめに
本マガジンは日本の社会制度のRE+Designingについて考察するシリーズです。制度の各所に綻びが見える日本の社会制度を未来に向けてどのように改善すべきかについて私論を展開いたします。
世の中には様々な立場の方がおり、所属する組織や立場によって異なる利害を有している方が存在するため、誰かにとっての正解は別の誰かにとっての不正解になる場合が存在します。
“万人にとってベストな政策は存在しない”という前提のもと少しでも課題の改善に繋げる考察を心掛けます。
2. 所得課税の抜本的見直しの必要性
個人の所得課税は大きく分けると「所得税・金融課税」に分類されます。前者は給与所得等が該当し、後者は有価証券投資の利益が該当します。前者は累進課税で後者は分離(一律)課税です。
大枠はどの国でも同じですが運用実態は国によって大きく異なります。
上記データを初めて見たときは本当に驚きました。
日本では諸外国と異なり日本では所得税5%以下が納税者の60%、10%以下で80%を占めます。欧州では10~20%がボリュームゾーンで約80%を占めており、米国では20%超が35%を占めています。
日本では所得税をほとんど払っていない層が60%にも達します。10%以下が80%を占めるのは異常です。普通に考え所得税の見直しを検討するのであればボトムとトップの差を縮小すべきです。
具体的には最低税率を10%に変更し、最高税率を40%に引き下げます。(私論です)
上記の通り現状の所得税は所得金額の区切り方と税率の上がり方がいびつです。もっとシンプルに公平な形に修正が必要です。
例えば税率の上り幅は一律で5%として課税所得の区分は現在の所得区分の上限値の二倍が次の所得区分の上限にするなど一定の規則性を持たせるべきです。
現状の課税所得は極端に金額レンジが狭い区分と広い区分で差が生じており特定層を優遇しているだけにしか見えません。このような歪んだ課税所得の区切り方と税率が不公平感を招いていることは間違いないでしょう。
現行制度は課税所得900万円以下(額面ではありません)、実行税率23%の層が極端に優遇されており、900~1,800万のレンジの33%の層が割を喰う形となります。
都市伝説かもしれませんが、23%のレンジが優遇されているのは制度を設計する公務員の年収帯だからとも言われています。官僚が自分達の税金を安くコントロールしたかったので半端な23%という税率が設けられたという説です。
普通であれば25%か30%になるはずです。23%という半端な数字には何か意図があり、それが上記のような推測に繋がります。
修正案の所得税率は一見すると富裕層優遇措置に見えますが、規則性を持った所得区分と所得税率で設計されている点を考慮すると、どの所得層に対してもフェアな仕組みと言えます。
現状は過度に低所得層を優遇する設計となっており、その結果が先程の表にある所得税率10%以下が80%を占めるという地獄のような社会を招いています。
課税所得区分の問題に加え各種の「控除」が所得税率に大きな影響を与えているのも事実で改善の必要性があります。日本には様々な控除枠が存在しますが、多くが特定層への優遇となっており制度を歪めています。
・所得税の課税控除の種類
①雑損控除
②医療費控除
③社会保険料控除
④小規模企業共済等掛金控除
⑤生命保険料控除
⑥地震保険料控除
⑦寄附金控除
⑧障害者控除
⑨寡婦控除
⑩ひとり親控除
⑪勤労学生控除
⑫配偶者控除
⑬配偶者特別控除
⑭扶養控除
⑮基礎控除
控除枠、正直多すぎです・・・
類似した控除はグルーピングして纏める必要があります。例えば⑤と⑥、⑫・⑬・⑭はぱっと見で合算しても問題ないと分かります。
⑫・⑬・⑭・⑮は雇用を歪めている面もあり廃止した方が良いかと思います。⑮基礎控除を廃止する代わりに「給与所得控除」を現行の固定額ではなく、収入に応じた%控除に変更するのが良いと思います。一律で10% or 15%くらいが妥当ではないかと思います。
累進課税自体が高額所得層に対するある種の罰則ですが、社会の安定を保つため一定の累進は避けられず、所得税は税体系の中で累進課税を導入しやすい税であることも事実です。よって累進課税という枠組みは残しつつ、負担が一部の層に偏らないように見直しが必要です。
修正案では現行の9倍の税率差が4倍まで縮小され、不公平感も緩和されております。
大切な納税者である富裕層の国外移転の回避、所得税収の増加を狙うのであれば所得税率のフラット化は積極的に検討すべきです。結局、所得税の過半は一部の高額所得者が賄っている現実を受け止め、反感を買わないようにするのが得策です。
政治家は多数を占める低所得者にきちんと社会の負担を分け合う制度を理解させる努力が不可欠です。尚、岸田政権(財務省)が主張する1億円の壁は前提が誤っており正しい主張ではありません。
そもそも金融所得は労働所得とは性質が異なるため分離課税となっており、両者を合算すること自体がナンセンスです。金融課税を合算対象として税率引き上げの議論を展開するのは財務省の悪意しか感じません。
3. 金融所得課税の見直し
日本の金融所得課税は所得税15%+住民税5%の20%となります。(復興税除く)これは金額の大小に関わらず一定です。仮に金融所得課税を見直すのであれば分離課税制度は維持しつつ、税率を諸外国にように段階性にすることが考えられます。
個人的には一律の方が好ましいと考えますが、差を設けたい(増税したい)場合は以下のような設計が考えられます。1億円の壁が本当に存在するか怪しいですが、1億円超の所得層からどうしても多く課税したいのであれば上のレンジを設ける必要があります。
下表の25%・30%が新たな区分で1億円以上の所得層が対象ですが、この場合も今度は壁が10億円以上にスライドするだけでどのように運用しても壁は生じます。
問題は税率で判断しようとすることであり、「納税額」で判断すれば課税所得に応じて絶対額は増えており問題視するような事態は生じません。
表では上限を30%に引き上げる代わりに、5%・10%・15%のレンジを新たに設定しています。庶民の資産形成を促進し今後も続く増税に備え、老後資金を蓄える意図をもって3,000万円以下のレンジは現行より負担税率が下がる設計となっております。
この場合、多くの個人投資家は10%以下の税率が適用されることで税負担が減り、国民の資産形成が加速し、2,000兆円の個人資産が証券市場に流れることで、「投資から貯蓄」の流れを作ることができます。
実質的なメリットを付与せず掛け声だけでは個人資産が動かないことは過去10年で証明されており、明示的に「飴」を用意して市場への参加を促す必要があります。本案のデメリットは1億円超を稼ぐ富裕層投資家にとっての制度改悪であり、海外移住を加速させるリスクが存在する点です。
しかしながら既に億越えの投資家は資産管理会社を活用しているケースが多く、個人と法人に適切に所得を分散させている方も多いです。この場合、デメリットをゼロには出来ませんがある程度は緩和することが可能であり、実質負担は名目ほどではありません。(とはいえ富裕層からすれば嫌なものであり、海外移住リスクはゼロではありません)
また並行して損益通算の範囲も見直しが必要です。俎上に挙がっている項目として利子所得(銀行預金)、デリバティブ損益(FXなど)です。これらは20%分離課税ですが株や投信と損益通算が出来ません。金融課税の見直しの第一歩として損益通算範囲の拡大です。
次に金融商品に分類されながら金融所得課税の適用を受けていない商品の見直しです。二項有価証券に分類される匿名組合持分などは特定口座の対象外で、雑所得等の区分となり総合課税の対象となります。これを20%分離に変更し株式等との損益通算を可能とすることが必要です。
ここまでは必須の対応であり、今後の検討事項としては「仮想通貨」の扱いです。性質的に有価証券の金融所得課税に分類するのは適切ではない気がしますが、現行の雑所得総合課税は不公平です。
総合課税で実質55%の税率が課されるのであれば、給与所得との損益通算を認めるべきです。
仮想通貨は大きな損失が発生する可能性の高い取引に分類されます。この所得が総合課税で累進課税の対象になるにも関わらず、他の所得(給与・事業所得)と損益通算できないのは、明らかに不公平です。
よって有価証券とは異なる分離課税方式にするか給与等との損益通算を認めるか等の一定の是正が必要です。
所得税・金融所得課税どちらにおいても高所得層は既に大きな額を支払っています。世界には多くの税金を納めてくれる富裕層を優遇する国が存在します。世界は過去より狭く移動は容易です。税制次第で富裕層は大胆に居住地を移動します。
民主主義の欠点の1つが多数決による意思決定です。一見すると公平に見えますが、権利と義務(負担と給付)のバランスが釣り合うことが困難な制度です。優遇される層と冷遇される層が必ず生じます。
富裕層も多少の冷遇は我慢できますが歪みが大きくなると国家を見限ります。日本には「社畜」という言葉が存在することから日本人は「家畜根性」が高いので国家を見限り「棄国」を選択する個人は多くないと思いますが、今後は徐々に増えるのではないかと思います。
個人として投資家としては不確実で不安定な社会を生き抜くためにも、社会制度全体を理解すること、今後の潮流を理解すること、自立可能な資産を早期に形成すること、制度を理解した賢い行動、が必要不可欠です。
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