『ノース/小さな旅人』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第8回
『ノース/小さな旅人』 (1994年、アメリカ)
監督:ロブ・ライナー
出演:イライジャ・ウッド、ブルース・ウィリス、他
『恋人たちの予感』『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナー監督による、
子供版ロードムービー。
垢抜けた笑いのセンスが際立つ小品です。
ライナー自身によれば、
評論家からは酷評され、観客にも愛されずヒットしなかったという事ですが、
実は私、この映画がライナー作品の中でも特に好きなのです。
優等生でスポーツ万能のノース少年は、
両親から愛されていないと感じている。
そんな彼が親のフリー・エージェント制を提唱。
法案は議会を通過し、社会問題へと発展。
裁判によって彼は、定められた期限内に新しい両親を見つけなければいけなくなってしまう。
ここにみるライナーの語り口は、正に才気煥発。
軽快なテンポで進めて行く呼吸の良さ、
適度なパロディ精神、
個性溢れるキャラクター造形など、
それはそれは器用な演出ぶりで、
その見事な手腕には思わず舌を巻きます。
重厚な人間ドラマや『ミザリー』のようなサスペンスなど、
手堅い職人監督と思われがちなライナーですが、
実はこういう、登場人物が一切笑わないポーカーフェイス・コメディが得意な人なのです。
本作は正に、彼の初期作品『スパイナル・タップ』や『プリンセス・ブライド・ストーリー』の系列に連なるクール・コメディ。
それは、かつてライナー作品の撮影監督でもあった、
『メン・イン・ブラック』『アダムス・ファミリー』シリーズのバリー・ソネンフェルドや、
『ブルース・ブラザーズ』『アニマル・ハウス』のジョン・ランディス監督などが得意とする分野でもあります。
物事を少しずつデフォルメしながら、
あくまでクールなタッチを貫徹するスタイルが特色。
原っぱで野球をしていたノース少年は、
ストレスと悩みで試合に集中できなくなり、
全てを放り出して森の中へと入ってゆきます。
そこへいちいち挿入される、ブルース・ウィリスのすっとぼけたナレーション。
「子供には誰でも心落ちつく秘密の場所がある。ノースにもそれがあった」
少年は森を抜け、川を渡り、野原を横断して、
いつの間にか意外な場所に落ち着きます。
オチの前の大袈裟なフリと、上っ面の生真面目な態度。
作品のトーンが明瞭に定められる瞬間です。
ロブ・ライナーは、作品のイディオムに関して常に意識的な監督なのです。
ハワイ、アラスカ、パリ、北京、テキサスと、
ノースは旅先で様々な両親候補と出会いますが、
そこに豪華キャストを投入するのもライナーらしい所。
アラスカではキャシー・ベイツとグラハム・グリーン、
テキサスではダン・エイクロイド、
アーミッシュの両親は『刑事ジョン・ブック/目撃者』のパロディで、
アレクサンダー・ゴドゥノフとケリー・マクギリス本人らが特別出演。
各自の出番が少ないせいか、
贅沢な出演者と内容のスケールに関わらず、
この作品にはどこか愛らしい小品のような雰囲気があります。
又、ここでのブルース・ウィリスが、とても良い。
大作の彼とは違う、さりげなく淡々とした調子が、妙にこの作品のテイストとマッチしています。
また、子供たちが社会の主権を握る設定ゆえ、
子供の悪役や子供の手下、子供の裏切り者まで出てきますが、
それらを演じる子役達の、生き生きとして芸達者で、なおかつ自然な事といったらありません。
ちなみに主演は、天才子役時代のイライジャ・ウッドです。
ハートウォーミングなラストは予定調和とも言えますが、私は気に入っています。
過程をどう描くかが映画なのであって、ラストはこれでいいのです。
それにしてもこの映画、なぜそんなに評価が低かったのでしょうか。
分かりやすい内容で結構メジャー感もあるのに、DVD化されていないのが不思議です。
まあ、「超大作よりも気の利いた小品が好き」という私の性質が世間一般とズレているのかもしれませんが、
度を超して安っぽいB級映画が毎月大量にソフト化される一方、
こういった良質な作品が無視されている現状は、私には理解できません。
DVD化希望。ぜひ。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)
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