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『ペンギンズ・メモリー/幸福物語』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第3回

『ペンギンズ・メモリー/幸福物語』 (1985年、日本)
 監督:木村俊士
 声の出演:佐藤浩市、鶴ひろみ、藤田弓子、奥田瑛二、他

今度は日本のアニメーション映画ですみません。
わざと王道を外しているわけではないです。

昔はテレビで放映された事もありますが、
内容が古いのか、権利関係のせいか、
単に忘れられているのか、
今もVHSでしか手に入りません。

松田聖子の“SWEET MEMORIES”“ボーイの季節”をフィーチャーした映画で、
他にも聖子ちゃんの曲が流れます。

当時はお酒のCMでペンギンがこの曲を歌うシーンが流れたので、
40代以上の人は記憶にあるかもしれませんが、
もしかするとCMが先で、後にストーリーを膨らませて映画にしたのかも。

登場人物こそみなペンギンですが、
ストーリー自体はハリウッドの実写映画にもできそうな大人向けのものです。

友人を失い、自らも負傷した帰還兵マイクが、
故郷での英雄扱いを重く感じ、
一人旅に出る。
たどり着いた美しい湖畔の町に滞在する内、
彼の心は少しずつ癒されるが、
そこでも身分違いの恋愛や陰謀などストレスフルな出来事がいろいろあって、
再び旅に出るというお話。

歌手を目指す大病院の娘ジルや、
大物レコード・プロデューサーなどが登場し、全然子供向けのアニメではありません。

ポップなミュージカル場面もありますが、
全体にスタティックなトーンで、
メイン・キャラの声に俳優を起用していて、意外に重厚。

主人公マイクは、アポリネールの詩を愛する寡黙な青年で、
当時流行していたベトナム反戦映画の主人公を彷彿させます。

こうなるともう、
キャラがペンギンである必要など全然ないくらいですが、
それだと企画としては本末転倒なのでしょう。

ただ、この映画のクオリティを格別にしているものが一つあって、
それが、松任谷正隆の素晴らしい音楽です。

孤独感と哀愁漂う、
ハーモニカによるさすらいのテーマ。
心にしみ入るピアノの旋律と、
主人公のトラウマをも包み込む優しいストリングス(シンセ)。

松田聖子作品のアレンジを担当している関係で起用されたのでしょうが、
正隆氏の数少ない映画音楽の中では、
『時をかける少女』(大林宣彦監督作の方)の傑作サントラに匹敵する出来映えです。

残念なのは、このサントラ盤が映画本編と同じくらい入手困難な事。
80年代に一度はCD化されているのですが、
その後の再発売がなく、中古市場を気長に探すしかありません(当然高値で取引されます)。

後に松田聖子主演映画のサントラをまとめたボックスに収録されましたが、
単発では依然として入手困難。
ソニーは聖子ちゃんのアルバムの一環として位置づけているようですが、
その割には見捨てられた感が強すぎます。
神サントラなのに。

私などは、
鮮烈に残っている記憶を頼りに、当時使っていたDTMの機材で曲を忠実に再現し、
それを聴いていたという謎の時期があります。

その後、奇跡的に適正価格で中古盤を入手し、聴いてみて自分の記憶の正確さに仰天しましたが、
これは決して私の能力を自慢しているのではなく、
それほどの長期間に渡って深いインパクトをリスナーに残す、正隆氏の音楽の凄さを謳い上げているのです。

さらに映画本編のVHSソフトもなんとか入手し、久しぶりに鑑賞しましたが、
昔の映画は実写だとどうしても古臭く感じられるのに対し、
本作はさほど古さを感じさせませんでした
(アニメ・ファンにとっては違うでしょうけど)。

しっかりと観られる映画なので、
ぜひDVD化をお願いします(ついでにサントラも再発を)。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)

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