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『シーズ・レイン』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第5回

『シーズ・レイン』 (1993年、日本)
 監督:白羽弥仁
 出演:染谷俊、小松千春、菊池麻衣子、他

こちらは知る人ぞ知るシンガーソングライター、染谷俊が主演した青春映画。

VHSで発売されたきりですが、
関西ローカルでは神戸でロケをした映画特集でTV放映されていました。
私がDVDに録画しているものは、
2002年10月の放送となっています。

青春映画としては、まあ他愛のない内容ですが、関西人、
特に私のような阪神間で生まれ育った人間としては、
特別な想いのある映画ではあります。

本作は、神戸のみならずその周辺エリア、
あまり映画の撮影には縁のない西宮や芦屋の風景もふんだんに登場するし、
その多くは観光地ではなく、普通の街角だったりします。

監督自身この地域の出身で、
共同で脚本を書いている岡田恵和は関東出身ながらも、
ドラマ『ビーチボーイズ』や『ちゅらさん』で売れっ子になった後、
同じ阪神間を舞台にした映画『阪急電車/片道15分の奇跡』の脚本を担当しています。

また、撮影の阪本善尚は、
尾道三部作をはじめ大林宣彦作品をたくさん手掛けた人。
コンビを組む照明の中村裕樹も、岩井俊二作品を多数担当しています。

つまり、スタッフ・ワークはかなりしっかりした映画で、
主演の若者たちをフォローするかのように、
脇役も中堅やベテランで固めていて意外に豪華キャスティング。

関西の大林映画のファンにとっては、
阪本キャメラマンが阪神間を撮ってくれるのも嬉しい事で、
海と山が近く、坂道の多いこの地域は、
地形や風景も尾道と共通点が多いです。

そしてこの映画の2年後、
一帯は阪神淡路大震災によって無惨に破壊されてしまいます。

この映画に映っているのは、
震災でめちゃくちゃに破壊される前の阪神間の姿。

主人公の家となっている日本家屋も、実は白羽監督の祖母の家で、震災の時に半壊したそうです。

今この映画を観て感じるのは、
この頃はほの明るくて穏やかな、
良い時代だったな、という事です。

もちろん当時もそれ以前も、
悲惨な事件や事故はたくさんありました。
自分自身が気楽な大学生だったから、
ノスタルジックにそう感じるだけなのかもしれません。

しかし本作を観ていると、ストーリーはほろ苦い結末を迎えるにも関わらず、
それとは別の次元で、
映画全体にどこか楽天的で、大らかな空気が漂っているように思うのです。

この93年、スピルバーグは
『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』を、ほぼ同時に製作しています。

彼のデビューから『ジュラシック・パーク』までと、それ以降
(奇しくも撮影監督をヤヌス・カミンスキーが一手に担ってゆく時期)のスピルバーグ映画を比較してみると分かりやすいです。
今や彼がどんなにエンタメ志向が強い作品を撮ろうと、背景に必ず暗さと重さがある。

日本映画にも、ほぼ同じ事が起こっています。
本作は、ゼロ年代以降に製作された、
ヒリヒリするような生きにくい現実と暗い影を反映した映画たちとは、
根本的に世界観が違うように感じられるのです。

少なくとも、世界がどんどん悪い方へ向かっているような絶望感や、
劇中の虚構を厳しい現実が浸食してくるような感覚は、背後にあまりない。

そして恐らく、
私自身が以前ほど手当り次第に多くの映画を観なくなったのも、その時期からかなと思うのです。
そのあたりからどうも何か、
映画を観るのに少ししんどさが伴うようになってきます。
映画が現実逃避のファンタジーとして成立しない、
むしろ成立するとバカみたいに見える時代に入ってしまったような感じでしょうか。

物語は、
不器用な主人公を取り巻く三角関係を軸に、
高校生6人の稚拙な恋愛を描きますが、
まだバブルの頃の華やかな風俗は残っていて、当時の基準からしても、
等身大の若者を描いているとは言えません。

それこそ、神戸の山の手の有名なリゾート施設でパーティーを開いたりして、
彼らは相当に現実離れしたセレブ学生だと言えるでしょう。
だけどその能天気な軽さが、
今の私たちには救いでもある。

染谷俊を主演にしただけあって、
ピアノの弾き語り場面もありますが、
この挿入歌“同じ空を見てた”がすごく良いバラード曲
で、
私もよく耳コピして弾いていました。

なのにエンドロールの主題歌は、
所属レーベルの先輩だった大江千里(彼も阪神間の有名大学出身ですが)が歌っていて、
映画界、音楽業界のパワーバランスを匂わせます。

02年のTV放映時の解説
(かつて深夜放送の映画では、こういう丁寧な字幕解説が感じの良いBGM付きで流れていて好きでした)によると、
監督は「今も神戸在住で、FM神戸のパーソナリティも務めている」とのこと。

それも現在はどうか分かりませんが、
彼は後に『神戸在住』という映画(あくまで原作物で、自身のドキュメンタリーではない)も監督しています。

手堅い技術で丹念に撮られているし、
阪神淡路大震災前の神戸、阪神間がふんだんに映る映画は稀少ですから、
デジタル化を切に希望します。

いつかDVDになった暁には、
震災から16年後、
表面的には災禍が目立たなくなった阪神間で撮られた『阪急電車/片道15分の奇跡』(有川浩原作、東北の震災があった2011年に公開)と連続で観てやりましょう。

今でこそ神戸にフィルムコミッションが出来て、映画撮影に積極的な街になりましたが、
当時は大森一樹作品など一部を除けば、
この地域で撮られた映画なんてほぼありませんでした。
このテーマにご興味がおありの方は、
大森監督の『さよならの女たち』あたりも是非ご覧ください。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。 
(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)

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