トイ・ストーリーにみる刹那主義

先日、トイ・ストーリー4が公開されたことに関連して、トイ・ストーリーという映画のメッセージについて述べたい。


おもちゃについては、本質が実存に先んじている。

人間においては、実存が本質に先んじている。

ただ共通して言えるのは、今この瞬間を楽しめるかどうか、という刹那的視点の重要性である。


刹那主義とは、今この瞬間を感情にまかせて生きようとする立場のことだと理解しているが、それについての解釈を多くの人は間違えてしまっているように思う。

刹那を生きるということは、その瞬間を自分の感情に向き合って主観的に楽しもうとする姿勢であり、その瞬間を最も大切にする生き方であると私は考えている。

そして刹那を大切にすることを連続的に行うことは、人生を大切にすることに等しいのである。この解釈をすることで、刹那主義の本当の価値に気が付き、その瞬間を楽しむことに集中する人生を歩めると私は思うのである。


おもちゃは、本質が先に規定されて作られているため、遊ばれること(一緒に遊ぶこと)こそが目的である。

主人公のウッディは、自分にも同じおもちゃにも自分たちがおもちゃであることを何度も語っているが、時々それ以上の心配をすることで冒険が始まっており、それがトイ・ストーリーのストーリーの設定となっている。ただ最終的にウッディがいつも気がつくのは、ドライな意味で自分の本質が自分の意思とは関係なく決まっている現実のことではなく、いつもその瞬間瞬間を大切に生きること・楽しむことであり、ウッディを中心とするおもちゃにとっては子供と遊ぶ瞬間を楽しむこと、それはまさしく刹那主義的な態度である。


おもちゃと違い、人間は自分自身で自分の価値を決定する。役割が予め決まっているおもちゃのように、ある意味では楽な人生ではないかもしれないが、それこそが自由の本質である。つまり、自由とは、「自(みずから)に由(よ)る」ことであり、人間は他の何者でもない自分によって価値を決めなければいけないという窮屈な人生であるとも取れる。実際に、この自由と偶然性の関係に気が付き、虚無主義に陥る人間もいるだろう。

ただ人間の偶然性と自由から虚無主義の立場においても、主に2つの選択肢を人間は持っている。

1つは、自分の存在は全くの偶然であるから、自分の価値は無いとして人生を諦め、抜け殻のようになって過ごしていく、または自殺して人生から外れるという選択である。

もう1つは、自分の本質は予め定まっているものではないため、自ら自分の価値を決め、それに向かって行動していくという選択である。

実存主義を主張した J. P. サルトルは、人間が上記のような自由を抱えていることを、「人間は自由の刑に処されている」と表現している。この表現の意図は、自由は必ずしも高揚感のある感覚ではなく、自分で決めなければいけないという苦しさをもたらすものでもあることであると私は解釈している。

人間が自由の刑に処されている中で、虚無主義を悟った中で上記2つの選択肢のうちの後者を自分で決めることが、人間が能動的に生きることを意識する上では最も納得感のある導きではないだろうか。


おもちゃの場合は、予め本質(生み出された理由・目的)が決まっているため、子供を中心として人間に遊ばれること・一緒に遊ぶことで、本質を全うすることになる。ここには人間のような自由、つまり自分で自分の価値を決めるという選択肢は全く存在しないのである。人間のように、自由の刑には処されていないのである。


最後に、トイ・ストーリーは世界で最も成功したアニメーションフィルムの1つだが、そのストーリーが暗示・明示しているメッセージは今回私が取り上げたもの以外にもたくさんある。いろいろと書きたいのだが、今回は刹那主義というテーマでここまで述べることとする。

トイ・ストーリーの中のメッセージは、多岐にわたると私は考えているが、その中での1つのキーワードは子供だと思う。

子供は、自我の芽生え、考えられなかったことが考えられるようになる過程、感情の起伏、ある事象に対する自分の反応、他人からの視線、親という絶対的に見えるが本当はかなり偏った相対的な存在との関係、自分の中での軸など、様々なテーマを常に抱えている。実はそれは子供に限ったテーマでは全くないのだが、人間は年齢を重ねると、「人間とはこういうものだ」「人間とは働くのが当然だ」などといった固定観念を子供と比べて格段に多く抱えるようになり、それを共有している他人とは違うレールを歩むことを恐れる事が多い。

しかし私が主張しているように、そして今回トイ・ストーリーを通して学ぶことができるように、ゼロベースで「なぜそれはそうなっているのか」を根本から問うことを人間は忘れてはならなと私は常に考えている。

常に自分を否定することができる柔軟性を持った人間でありたい。

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