少年の日の思い出

小学生の頃、クラスメイトとよくサッカーをして遊んでいた。
地元のサッカークラブでキャプテンを務めていた
ツバサくんは放課後になると僕らに声をかけて校庭へ駆け出していった。ツバサくんはいつもサッカーボールを肌身離さず持っていた。

そんな彼はある日を境に、ぱったりとサッカーをやらなくなってしまった。机の横にぶら下がっていたサッカーボールも見当たらない。
「あれ、ツバサ?もうサッカーやらんの?」と聞くと、「ああ…いや、そういうんじゃないけど」と歯切れの悪い返事が返ってくる。

「なんかサッカーであった?ボールも持ってきてないし。大丈夫?」

「ボールは友達。何もないよ。僕達の間には何もなかったんだ…。」

そこで僕は全てを察した。そして、なんと無粋な質問をしてしまったのだろうと後悔した。
彼はサッカーボールを愛するあまり、一線を超えたのであろう。要するに球姦(キュウカン)をしたのだ。

優しいツバサくんは心配する僕らに気を使わせまいと、次の日からは再びサッカーに参加するようになった。
そこで彼はいつも持ってきているサッカーボールに加えて、もう一つ小さなボールを取り出した。
そのボールは薄いピンク色で、触るとほんのり暖かく、産毛の生えたものだった。

僕はこれがツバサくんとサッカーボールの愛の結晶であるとすぐに気づいた。
このピンクのサッカーボールは使い込まれるうちに、白黒の立派なボールに成長するのであろう。
即ち、パンダと同じである。
僕はとても察しが良い。

ボールが一つ増えたというのは僕らにとって、とても喜ばしいことであった。そしてその新しいボールでサッカーをすることとなった。

試合中盤、ゴール前で僕とキーパーが1対1の状況。絶対に外すことはできない。右足に全ての力を込めてシュートをするも、ポストに嫌われる。無念。

相手のキーパーがボールを取ると「あれ?」と不安な声を漏らした。

どうした、どうした?と皆が集まってくる。

「このボール、さっきまで暖かったのに凄く冷たくなってる。柔らかかったのにカチカチになってるし…。」

僕らはボールを置いて逃げた。皆も薄々それが愛の結晶だったと気づいていたのだろう。ツバサくんは呆然とボールを抱きしめて1人立ち尽くしていた。走りながら少し振り向くと、彼の冷たい眼差しはこちらへ向けられていた。僕は気づかないふりをしてそのまま家へ帰った。

そしてその日の夜、警察から電話がかかってきた。暑まで来て欲しいとのことだった。

「刑事さん…ボールは友達です。僕達の間には何もありませんでしたよ…。」


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