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ランブン雑談・ボドゲ編 その12 何故 Among Us は軽ゲー扱いなのか

閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。
今回は巷で流行している『Among Us』について、一制作者視点(ゲームルールの観点)から考察していきます。具体的には、類似ゲームである『人狼ゲーム』との差異を比較し、何故『人狼ゲーム』は重い(ハードルが高い)ゲームと認識され『Among Us』は軽いゲームと認識されるのか、またそれはゲーム制作においてどのような意味を持つのかという点について考えていきます。『Among Us』はよく「宇宙人狼」などと呼ばれますが、ゲームに対する世間の認識は『人狼ゲーム』のそれとは大きく異なります。『Among Us』も『人狼ゲーム』も互いに似た要素が数多くありますが、この認識の差がどこで生まれているのかを考察することにより、ゲーム制作においてどのような点に注意すべきか(ゲームの難易度をどのように調整するか)を思考していくことがこの記事の目的です。
ですのでこの記事は「『人狼ゲーム』が苦手だから『Among Us』を食わず嫌いしている」「”人狼ライク”なゲームを制作中だから何かしらのヒントが得たい」という方向けとなっております。
前置きが長くなりましたが、そろそろ本題へ入ります。


『Among Us』とは

『Among Us』とは InnerSloth が開発・販売しているオンラインマルチプレイヤーSF人狼ゲームである。
様々なタスクを行う「クルー」と、それを妨害する「インポスター」に分かれて対戦する「宇宙を舞台とした人狼ゲーム」と考えると分かりやすい。

【『ニコニコ大百科(仮)』より一部抜粋(以下URL)】
https://dic.nicovideo.jp/a/among%20us


『人狼ゲーム』との類似点と差異

『Among Us』は「宇宙人狼」と呼ばれている通り『人狼ゲーム』との類似点が数多く存在します。両者の主な類似点は以下の通りです。

・ゲーム内で定期的に議論が行われる
・少数派は正体がバレてしまった時点で負け
・プレイヤーが途中でゲームに参加できなくなる(タスク以外)
・プレイヤーが得られる情報や考察方法、勝利条件など議論の根幹となるシステム

これらの要素は一般的に「ハードルが高い」と認識される要素です。例えば定期的に行われる議論。これは言い換えれば強制的に発言させられる状況が何回も訪れるということであり、そのたびに推測したり嘘をついたりしなければなりません。これは議論要素のあるゲームに慣れていない人にとってはストレスを感じやすい要素であり、結果的に「ハードルが高い」と認識されがちです。その他の要素も同様に新規参入者がストレスを感じやすい要素となっています。
このように『Among Us』には「ハードルが高い」と認識されやすい要素がたくさん入っていることが分かります。

次に『Among Us』と『人狼ゲーム』との差異を考えてみます。考えられる差異は以下の通りです。

・多数派に少数派を追放する以外の勝ち筋(タスクをクリアする)がある
・役職が存在しない
・ゲーム時間が比較的短い

これらは『人狼ゲーム』における「ハードルが高い」と認識される要素を取り除いた形となっています。例えば勝利条件が複数あるという点。これは多数派からすればある程度推測を放棄しても勝利できる可能性が残る、少数派からすれば自身の行動に言い訳がつけやすくなるということを示します。
また、役職が存在しないという点もハードルを下げている要因の一つです。正体隠匿系ゲームに限らず、各個人に役回りが与えられているゲームはハードルが高くなりがちです。例えば『リーグ・オブ・レジェンド』はチームメイト5人にそれぞれの役割が存在し、それを理解していないとゲームに勝利することは難しいです。しかも、役割を果たせなかった場合にその結果が目に見えやすいので一人一人の責任が大きくなります。このように役割が与えられるゲームはその数だけ立ち回りを覚えなければならず、また背負わなければならない責任も大きくなる傾向があるので当然「ハードルが高い」と認識されます。

このように『人狼ゲーム』と『Among Us』では類似点も差異も存在します。しかし、類似点にはゲームの根幹となる要素が多いのに対し、差異には副次的な要素が多いです。つまり『Among Us』はゲームの本質として重いゲームと識別されてもおかしくない要素がそろっているということができるはずです。


情報が明瞭か否か

前項では『Among Us』はゲーム本質的には重いゲームと認識されてもおかしくないという話をしました。では、何故『Among Us』は軽いゲームだと認識されることが多いのでしょうか。
その原因は「ゲーム中に発生する情報が明瞭か否か」であると考えられます。もっと言うと『Among Us』は「情報が出た際は判断しやすい情報であり、出ないときはとことん出ず情報が無いことに対して不自然さがない」という点が軽いゲームであると認識される最大の要因であるということです。
例えば、『人狼ゲーム』と『Among Us』にはゲーム中に白か黒かを判断するための情報(『人狼ゲーム』なら占い結果、『Among Us』なら目撃情報)に差異があります。『人狼ゲーム』の占い結果には白と黒が存在し、白ならば精査を行わなければなりません(黒なら占い師と占われた人どちらかが明確に人外である)が、『Among Us』の目撃情報には黒しか存在しません。(白確定タスクを除く)そしてゲーム性質上情報を持っていないということが十分にあり得ますので、「情報持っていません」と言っても何の問題もなく、またそのことに対して精査を行うことは困難となります。(ゲーム終盤なら精査対象かも知れないが、本当に何の情報を持っていないということは十分可能性がある)
このように『Among Us』で出る情報は『人狼ゲーム』で出る情報と比べて簡単に処理でき、情報を持っていないこと自体に不自然さがないということが、『Among Us』を軽いゲームであると認識させる最大の理由だと考えられるのです。


勝負の揺らぎと情報の明確さ

前項で『Among Us』が軽いゲームであると認識される理由について述べてきました。
では、実際に議論を中心としたゲームを制作する際にはどのようなことに注意すれば良いのでしょうか。『Among Us』と『人狼ゲーム』との比較から、以下のようなことを意識するとゲームのハードルを下げうると考えられます。

・勝負の行方に揺らぎを持たせる
ここでいう”揺らぎ”というのは、運や不確定な情報による決断によって勝敗結果に影響を及ぼす要素の事です。『Among Us』においては「タスクを行う際に生じる各プレイヤーの行動」にあたります。タスクを行う事自体には運の要素はありませんが、その結果として殺害現場を見つけたり、また全く情報を持ち得なかったりすることはプレイヤーだけでは制御しきれない事象です。このように”揺らぎ”が存在すると、少数派のプレイヤーはその”揺らぎ”を言い訳に言い逃れを行うことができます。当然言い逃れがしやすいのであれば少数派の負担が軽減されますし、また多数派も推理しきれなかった時にそのことを”揺らぎ”のせいにすることができます。
この”揺らぎ”を上手く利用したボードゲームとしては『タイムボム(作:佐藤雄介)』があげられます。プレイヤーが爆弾を解除できるかどうかは運にゆだねられており、この”揺らぎ”によって言い逃れがしやすくなっています。
また、”揺らぎ”は初心者と上級者とのレベル差を縮めたり、負けたときに「運が悪かった」とプレイヤーが感じられたりするので正体隠匿系ゲームに限らず利用できる考え方です。
ただ、”揺らぎ”を大きくしすぎるとプレイヤーに不快感を与えてしまう点には注意が必要です。

【”揺らぎ”について書いた過去のnoteURL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/na15024a9ad76?magazine_key=m0883efc7f551


・精査を行いやすい情報を提示する
誰が少数派かを推測するための情報の精査が簡単であればゲーム難易度は必然的に下がります。『Among Us』においては目撃情報や白確定タスクなどがこれにあたり、これらの要素により『人狼ゲーム』と比較してゲームのハードルが下がっています。
この”精査を行いやすい情報”を上手く利用したボードゲームとしては『白雪姫のアップルーレット(作:オカベニアス)』があげられます。『白雪姫のアップルーレット』には正体を探るためのヒントを得られるカードがあり、これが推理の足掛かりとなります。このカードで得られるヒントは基本的に偽ることができないので精査を行う必要が無く、盤面を分かりやすくしてくれます。
ただ、精査を行いやすい情報を多くしすぎると当然少数派は生き残ることが難しくなってくるので情報量のバランスは意識する必要があります。

以上のことを気を付けると議論主体の正体隠匿系ゲームのハードルを下げることができるのです。


最後に

今回は『人狼ゲーム』と『Among Us』との比較からどのようにすればゲームのハードルをさげられるのかについて考えてきました。もちろんゲームのハードルを下げることが絶対に必要というわけでは無いですが、間口の広いゲームをデザインする上では必ず考えなければならないことだと思います。私自身まだまだ制作について勉強しなければなりませんが、今回の記事が少しでも皆様の参考になれば幸いに思います。

また、私事ですがゲムマ2021春にて正体隠匿系ゲーム『Mole in the Cult』を出展することが決定いたしました。このゲームは議論主体のゲームながら”アンチ人狼”を掲げたゲームであり、今回の記事でまとめたことを意識して制作が行われています。この記事の考えに賛同していただけた方ならきっと満足していただける作品となっておりますので、何卒よろしくお願いいたします。

最後までお読みいただきありがとうございました。需要があるかは分かりませんが、これからもこのようなゲームの本質や制作に活かす方法を考える記事も書いていきたいと思いますので応援よろしくお願いいたします。

『チキン・ラン』
多人数短時間(4~7人、20分)、自由な交渉とシンプルな数比べ
キャッチコピーは「―破産か、罵倒か―」
【紹介動画(YouTube) URL】
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【ボドゲーマ通販 URL】
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『B級映画制作委員会』
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【紹介動画(YouTube) URL】
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【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/b-kyuu-eiga-seisaku-iinkai
ゲームマーケット2021春
『Mole in the Cult』出展予定
旧名:カルトとモグラ
多人数中量級(4~8人、60分)、じっくり遊べる正体隠匿系ゲーム
キャッチコピーは「裏切者には粛清を」

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