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『チキン・ラン』ゲームデザイン備忘録~一章:方針決定~


【目次】

序章 ボードゲーム=題材+ゲーム性
★一章 方針決定
二章 ルール作り
三章 テストプレイ
四章 テーマ決め
五章 まとめと感想

【この章のポイント】
・3つの柱を立てる
(制約、やらせたい事、嫌いな要素)
・決めた柱は絶対に動かさない、逆にそれ以外の事柄には無頓着になる
・創作は模倣、0からではなく他の作品を改良するくらいの気持ちで

ゲーム性作成の際、おおよそ3つの方針を決めることによってルール作りに移行できると考えています。

①制約
ここでいう制約というのは、ゲーム性に関することではなく「どのような客層を狙うか」や「想定するゲームの規模」といった実際にゲームを作る際の条件のことです。ここがあやふやだと折角面白いゲームを作ったとしても様々なトラブルが発生してきます。例えば制作時間に限りがあるのであれば、あまり規模の大きいゲームは作れない、といった感じです。

ここで決めておきたい事柄の例としては以下のようなものがあります。

・プレイ時間、人数
・ゲーム難易度、ターゲット層
・コンポーネントの容量、制作時間、予算

上記の全てを決めなければならないわけではありませんが、決められるならなるべく多く決めておくべきです。

『チキン・ラン』では、「他に重量級ゲームを制作していた」「身内の環境的に多人数ゲームが好まれる」という条件から“短時間、多人数ゲーム”という制約をつけました。


②やらせたい事
ここでいうやらせたい事とは「このゲームを通してプレイヤーに体験して欲しい事柄」や「どのような能力を競わせたいのか」といったゲームの面白い点のことです。ここで迷う人は少ないとは思いますが、注意点として一つのゲームにあまり多くのやらせたい事を詰め込むことはやめた方がいいです。理由は簡単でルールが煩雑になりやすいからです。何故そうなるのかは次の章で書きますが、とにかくやらせたい事は多くせず逆にここで決めた内容だけは絶対に変更しないという強い意志が必要です。

『チキン・ラン』においては「土地(モノ)の価値がプレイヤーの行動や意思によって変動する」=交渉力、せり力を争わせたいと決定しました。


③嫌いな要素
ここでいう嫌いな要素とは、ゲームをプレイしているときに起こり得る不満点のことです。ここを意識できるとルールを作る際に非常に楽になりますので、常日頃から不満点を考えておくと便利です。自身の感じる不満点全てを排除することは難しいですが、最初に確認しておくことで不満点の要素を含むルールを作らないで済みますし、何より完成した時自身の満足度が高くなります。

『チキン・ラン』で取り除いた嫌いな要素はこの章の最後に載せておきます。長文かつ個人的な意見が多いため参考程度に。


これら3つの方針を決定することで、自身のイメージに近いゲームをスムーズに制作することができるはずです。そして大切なのは

・この方針はゲームが完成するまで絶対に変えない(③を除く)

・この方針以外の要素や設定は、この方針を守るためならばためらわず変更する

ということです。この意思を強く持っていないと、ルールを作成する上で難航してしまう可能性が高まります。なので、具体的なルールを作成する前のこの方針決定はどの工程よりも重要です。制作することに慣れていないとついこの方針決定をおろそかにしてしまいますが、具体的なルールよりも方針決定の方が大切であると肝に免じていただきたいと思います。

また、制作を行う際は以下のイメージを持っていると楽になるかもしれません。

自分にとって最高に面白いゲームとは

(好きだけど不満のあるゲーム+好きな要素)
÷不満な点-余計な要素+スパイス

または

(好きなゲームA+好きなゲームB+…)
÷不満な点-余計な要素+スパイス

※ただしこの最高に面白いゲームは制約の範囲内とする

つまり、制作とは模倣であり0から作るのではないということです。「それだとパクリだと批判されないか?」と考える人もいますが、必死に考えて作ればそのような指摘に対してもしっかりと反論できます。また「それじゃあオリジナリティに欠ける」と考える人もいますが、他の作品との相違点を言えるのであればそれはすでにオリジナルの作品です。これだけ多くのゲームが発表されているなかで完全なオリジナルを作るというのは不可能に近いことなので、「○○に似ている」なんて指摘は行おうとすればいくらでもできるのです。

ちなみに『チキン・ラン』は「モノポリー」と「フラムルルイエ」、またいわゆるチキンレースと言われる行為(崖に向かってアクセル全開で車を発進させ、途中でブレーキを踏んだ方の負け)を参考に構想しました。


本章はここまでとなります。記事の後ろに「『チキン・ラン』で取り除いた嫌いな要素」を載せておきますのでそちらも参考にしてみてください。最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみください。

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【『チキン・ラン』で取除いた嫌いな要素】

・運の比率が高く競技性に欠ける
非公開情報ゲームを制作する際にはほぼ必ず運の要素が入ってきます。しかし、運の要素が強すぎると競技ではなくギャンブルとなってしまうので調整する際は注意しています。


・暗記するべきことが多い
暗記すべきことが多くなると、最終的に暗記できる量が多い人が勝利するゲームになっていきます。暗記力を競うゲームを制作したいのであれば別ですが、暗記力は極論相手プレイヤーがいなくても競技として成立するため、複数人でプレイしているのにソロプレイみたいなゲーム性となります。初心者と上級者のレベル差を縮める方法として暗記の比率を高める手法がとられることがありますが、盤面整理の上手な上級者は暗記に使える脳のリソースが多いのであまり解決策になっていないと私は考えます。

なお、「○○の早さを競う」や「相手に干渉する術のないゲーム」もソロプレイ感が強くなります。


・トップ以外の価値がない(一位以外負けのパターン)
トップ以外の価値が無いということは、言いかえれば最下位になることによるデメリットがないということです。つまり、上下の振れの大きい行動を行い、上振れるのを待つというプレイが最も強い動きとなります。これを面白いととらえるかどうかは人それぞれですが、私はそれよりも「一つでも上の順位を取ることが大切(完全順位制)」または「1点には1点の価値がある(一位以外負けだと二位以下の人の1点は0点の価値となる)」ゲームの方が競技性として優れていると考えているので、トップ以外価値のないゲームはあまり好みではありません。また、トップ以外にも価値を持たせることにより、後述するキングメイクの問題も解決します。

しかし、世の中のボードゲームはトップ以外の価値がないゲームが大多数です。その理由は1プレイでゲームを完結させる必要があるからです。トップ以外の価値があるということはすなわち複数回プレイすることが前提となるということなので、プレイ時間の長いゲームではこの前提を達成できません。またプレイ時間の短いゲームだとしても複数回行う事をルールに組み込まなければならなくなるのでトップ以外の価値をつけるゲームの制作は必然的に難しくなる傾向にあるようです。

・キングメイクが発生しやすい
キングメイクとは、事実上逆転ができなくなったプレイヤーの行動によりトップの行方を決定づけられる状況になることです。本来逆転のできなくなったプレイヤーは他の人の順位に影響しないように立ち回るのが望ましいのですが、これはあくまで紳士協定であり誰一人他の人に強要することはできません。ですので、そもそもキングメイクが発生しにくい、または下位プレイヤーも最後まで争いに参加できる動機づけ、もしくは最後まで勝敗の分からないゲームシステムにすべきだと考えます。

・脱落者が出る、または逆転できない人が長時間ゲームに拘束される
短いゲームならいいのですが、長いゲームでこのようなことが起きると多くのプレイヤーが「やらされてる感」を抱くことになります。なるべく多くのプレイヤーが最後までゲームを楽しめるゲームデザインを心がけたいものです。


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