契約交渉〜弱者側の立ち回り〜

こんにちは。メーカーにて組織内弁護士をしているramusesuです。本日はメーカーの社内法務の視点から、契約交渉についてお話しします。

1.  B to B取引における買主と売主のパワーバランス

 一般論としてB to B取引においては、買主側の交渉力が強くなることが多いといえます。買主側は不利な契約を締結するぐらいであればより良い条件を提示する他社から購入する、あるいは自製するという選択肢がある場合が少なくないためです。特に買主が大企業の場合、定型的な取引基本契約を大幅に修正することがなかなか認められないことも珍しくありません。

 また、売主側としても、結局製品が売れないという機会損失を被るくらいであれば、少々不利な条件でも契約を締結して売り上げを取りに行くことも合理的である場合が多いといえます。

 このため、売主はポイントを絞って買主提示の契約書を修正する必要があります。以下ではこのような場合における着眼点の例を示します。

2. 修正の例

①交渉の余地を残す

 相手方の免責が広く認められており、当方としてはこれを受け入れざるを得ない条項があるとします。この場合でも「重過失の場合は免責されない」という条項を盛り込むことができれば、いざインシデントが起きたとき、「弊社としては貴社の行為は重過失にあたる余地があると考えている」という主張を、契約書に基づき堂々と行うことができます。

 ポイントは、相手方を交渉のテーブルに着かせることです。仮に上記の例の「重過失の場合は免責されない」という条項がない場合、相手方から「契約書では免責になっているので協議の余地はない」と主張されればそれまでで、後は厳しい裁判に望まなければならないかもしれません(なお、信義則違反とか、下請法や独禁法の問題はここでは考慮しないこととします)。

 とりあえず交渉に持ち込んでしまえば、当初想定していたよりも丸く収まることもあります(ビジネスは常に契約書どおりに進むとは限らないということです。このような意味では、協議条項も決して馬鹿にできません)。

②定義規定を精査する

 例えば当方が製品の供給を独占的に行わなければならないとされているが、実際にはそうもいかない場合、「製品」の定義に着目します。 定義規定の書き方によっては、当該製品に使用されている部品や材料の組み合わせを少し変えてしまえば、独占供給の対象となる「製品」から外れると解釈する余地が生まれてくることもあります(ただし、先方との信頼関係上、上記のように解釈した上で実際に他社への供給を行うか、仮に行うとしてもどのような形式にするかを別途検討する必要があることはもちろんです)。

 定義規定の記載に関する交渉に長い時間が費やされることは珍しくなく、レビュー時も気を抜けません。特に英文契約書ではトリッキーな定義規定が散見されます。

③実務上の対応でリスクを回避できないかを検討する

 一見厳しい条項だが、実際にはその問題は発生しないか、発生したとしてもごく稀であるということもあります。この点をきちんと判断するためには、出てきた契約書や書類だけではなく、取引全体を把握する必要があります。

 つまり、事業部や技術部の動き方、考え方、これまでの取引や研究の経緯を把握し、事業や技術への理解をもっておく必要があります。これらを踏まえて適切に成果物である契約書に反映することは、社内の関係部署へのアクセスが外部の弁護士よりも容易である法務部の存在意義の一つであると思います。

 


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