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狐の剃刀(きつねのかみそり)

栃木県の山里を走っていたら、チラリと山の斜面に赤い花が咲いているのが目に入った。「ああ、きっとキツネノカミソリに違いない」と思ったが急いでいたので、帰りに確認することにした。

やはり、そうだった。斜面一面にキツネノカミソリが咲いていた。春先にいち早く球根から細長い葉を出してしげらせるが、他の草が繁茂する夏には枯れて、今度は花茎を伸ばしてお盆の頃に鮮やかな橙色の花を咲かす。名前の由来は、花の色がキツネ色で葉の形が剃刀に似ているからというのだが、今頃の季節、花の少ない林の中でこの植物がよく目立つので、花に注目した名前があるはずだと探したら、やはりあった。「キツネノタイマツ」、「キツネバナ」などとも呼ばれているようだ。この方がいい。

 あの、ほっそりした姿や木漏れ日のさす寂しい林にひっそりと花咲く様子は「狐」にふさわしい。また、いかにも狐の出そうな林の中で何もない地面から、突然、花茎を伸して花を咲かせる様子も、狐に化かされたかのようだから。

キツネノカミソリは、以前はユリ科だったが今はヒガンバナ科に分類されている。ヒガンバナと同じ仲間だ。これは遺伝子解析した結果で分けたのだろうが、そんな面倒な事をしなくても解るではないか。ユリ科が明るく清楚な少女に対して、ヒガンバナ科は妖艶な年増の女性のイメージである(笑)。ちなみにキツネノカミソリの花言葉は「妖艶」、「悲しい思い出」。

きっと、この花の間で昼寝をしたら、妖しい美女たちに囲まれた夢が見られるかもしれない。・・・目覚めたらキツネノカミソリの群落の中で、全身が切り傷だらけ。



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