「大人形」を見に
小屋を東に少し走ると霞ケ浦が横たわり、それに接するように関川地区がある。関川地区は、主要道路や交通機関から離れ、都市の喧騒からも隔絶されて昔からの暮らしが静かに営まれている。
この関川地区では、江戸時代から地域の人々によって、毎年、盆明けの16日に「大人形」作りが続けられている。今年も行ったが、見たのは長者峰集落の一体のみで、代田集落は今年から作るのを止めたようだ。
集落の辻の角に、昨年のが朽ち果ててあった。この1年間、悪霊から集落を守ってくれたが、もう戦いに疲れ果てて、力尽きたという感じだった。「ご苦労様でした。お疲れ様でした」と言いたい。
「大人形」は、藁と竹籠で作った全身に杉の葉を刺して、槍や大刀、小刀などを持たせ、恐ろしい形相の面をつけている。身長は2メートルぐらいある。それを、集落の入り口の辻などに立たせ、外部からやって来る悪者や、疫病、悪霊に睨みを効かして、侵入を防ぐというものである。
昔は、災や伝染病などの悪いことは、村の外部からやって来ると考えられていた。だから、村の入り口や村境などに「塞の神」などの「道祖神」を祀り、悪霊が侵入するのを阻み、追い払う信仰が各地にあった。この「大人形」もその一種だろう。しかし、武器を持った強面の武者の格好しているのが面白い。迫力がすごい。これでは、悪者ではない僕でも夜に出逢ったら恐ろしくなってしまう。
次に、さらに奥まった長者峰の集落に行った。すでに集落はずれの寂しいところに「彼」(または彼女)は立っていた。この集落では今年も新しく作り直したのだ。濃緑の杉の葉を全身にまとい、爛々とした眼で、道を通る者を睨みつけていた。あたりは誰もいない。薄暗くひっそりとしている。隣は、鬱蒼と樹木の繁る古墳と古いお墓だ。背筋がゾクゾクする。
どうして、こんなところに立ているのか、辺りを見回して解ったような気がした。「大人形」の下は、坂になっていて田んぼに突き当たる。昔、この田んぼは霞ケ浦の入江であり、船が着岸して、多くの人々がこの坂道を登ってきたのだろう。「彼」は、船で侵入する「悪いもの」を常時見張っていて、上陸するのを阻止するのが仕事だったのだろう。
しかし、これからは「彼」一人で戦わなくてはならない。もう、援軍は誰もいないのだ。コロナ禍、戦争、災害・・今こそ彼らに活躍してほしい時代だと言うのに。
(追記)
その後(2024/8/26)、知人が確認したら、今年も代田地区に飾ってあったそうだ。僕が見た後、夕方になってから作ったのだろう。
これで安心した。良かった!
二人いれば力を合わせて戦える。
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