見出し画像

珈琲缶

 先日、コーヒー道具を紹介したが、一つ大切なものを忘れていた。それは、コーヒー保存缶である。コーヒーはすぐに香味が飛んでしまう。湿気、酸素、それに紫外線が大敵だ。これらを避けるために、これまでにガラス瓶、陶器、プラスチックなどをいろいろ試してきた。そして、ついに数年前、「金属製の茶筒」が一番優れているという結論に達した。以来、銅(大)、真鍮(中)、ステンレス(小)の三つの茶筒を愛用している。図らずも三種類の金属が揃った。
 毎日、このどれかに触れないことはない。金属の硬く冷たくすべすべした感触と中身の豆の乾いた音が心地よい。これから「くつろぎの時間」が始まる合図でもある。

左から銅、真鍮、ステンレス缶

 毎日のように撫でまわしていると、ますます缶への愛着が増してくる。一番愛おしいのは、中の真鍮缶である。これは相当に古いものだ。何十年も昔のものだろう。古物商から僕のところに来たときは、錆や汚れで真っ黒だったが、洗い、磨き、撫でまわしていたら、だんだんと真鍮本来の味が出てきた。その滋味深い風合いにすっかり虜になり、真鍮製の万年筆を2本も買ってしまった。万年筆も握りしめているうちに、こんな風合いになることを期待してのことだ。

真鍮製万年筆

 銅缶(大)は京都の開花堂が有名であるが、かなり高価であるうえに、新品のピカピカしているのは苦手である(負け惜しみ)。古風で落ち着いた風合いになるのには、最低でも10年以上かかるという。それも、毎日撫で回してだ。自分の歳を考えれば、そんな悠長なことはやっていられない。そこで、誰かが数十年間愛用してきたのを古物商で見つけて、僕が引き継いだ。

 ステンレス缶、これは風格、味わいなどには関係ない。ただ機能本意で持っているだけだ。でも、どこかに豆を持っていくときは、小さくて丈夫であり密閉性も優れていて、これはこれで重宝している。ちょうど、豆が200グラム入る。

 コーヒー保存は侮れない。どれほど良い豆を上手に焙煎しても、誤った保存法一つで台無しにしてしまうからだ。たかが「缶」という事なかれ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?