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川魚専門店 『川せみ』

田舎を走っていて、ふと、この道は、昔通ったことがあるかもと思った。昔とは4、50年ほど前の昔。まだ、息子が幼い頃、家族で宇都宮のおばあちゃんの家に行くのに何度か通った。
しばらくしたら「川魚専門店『川せみ』」の看板が現れた。これを見て、「間違いなく昔通った道だ」と確信した。当時、街を抜けた田んぼの中に、一軒だけポツリと小さな店があったのを覚えている。手前には川が流れている。店の名前が『川せみ』というのも印象深かった。場所と生業を上手く表している良い店名だと感心した。

懐かしくなって、車を止めて店に入ることにした。記念に何か買おうと思ったのだ。店内は、大きな水槽がいくつもあって無数のドジョウが泳ぎ回っていた。「こんにちは」と声を掛けたが、店主のおじいちゃんは、テレビの高校野球に夢中で返事がない。店内を見回しても、僕が買うような物は見渡らない。まさか、生きたドジョウや小魚を買って帰ってもどうしたらよいのかわからない。家内も料理してくれないだろう。再度、大きな声で挨拶したらやっと気づいてくれた。他に何かないかと聞いたら、黙って奥のショーケースを指差した。中には、ドジョウ、小鮒、モロコなどの佃煮のパックが入っていた。いずれも、醤油だけで煮込んだもののようだ。

僕は「もろこ佃煮」を1パック買った。モロコは、田舎の子供たちにとっては一番身近な雑魚かもしれない。学校から帰って、たも網を持って近くの田んぼに行き小川を探ると面白いように獲れた。あまりに簡単に獲れるので魚の価値ランクとしては低かった。そのモロコの味はどんなものか、楽しみであった。我慢できず、車の中で摘んで食べてみたら、塩味が効いてさっぱりして美味い。川魚特有の臭みはない。白いご飯と合いそうだ。
でも、その後の家族にいろいろあった事が効いているのか、少しほろ苦かった。


<参考までに>
『川せみ』からもらった袋に、下記の主な営業品目が書いてあった。
◎ すっぽん、わかさぎ、しらうお、もろこ、ふな、こい、あゆ、どぜう、なまず、天然うなぎ、川がに、川えび、淡貝、たにし、しじみ、たなご、その他観賞魚、色鯉・金魚、水ソウ一式、川魚漁網類、魚業券など取次

さすが、「川のことなら何でも揃う」とうたっているだけに豊富だ。


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