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小砂焼のコーヒーカップを求めて

 今まで愛用していたコーヒーカップを割ってしまったので、栃木県那須郡那珂川町まで買いに行った。僕は、この山深い馬頭地区で、ひっそりと焼いている「小砂焼(こいさごやき)」が好きだ。半磁器の硬質感と民芸調の素朴な風合いは長いこと使っていても飽きがこない。この小砂焼は一見古臭く見えるものの、時代を感じさせる独特の風合いがある。
 この小砂焼の歴史はそれほど古いものではない。天保元年(1830年)に水戸藩第9代藩主の徳川斉昭が、この小砂の地に陶土を発見して水戸藩営製陶所を設立したのが始まりである。以来、藤田家が製陶技術を今日まで伝えて来た。今どき自分の陶土山を持ち、採取して粘土を精製し、製品を作成するまでを一家だけでやっているところを、僕は他に知らない。

 まず、その藤田製陶所に行き、僕の好みの形のコーヒーカップを探したが見つからず、藤田製陶所の陶工であった市川古舟の子孫が築窯した「市川窯」を訪れて、やっと目的のカップを探し当てた。一つ一つが手作りである器は、それぞれの形が微妙に違い色合いや文様が異なる。あれこれ長い時間、眺めたり触ったりして、やっと2個ほどを選んだ。



 目的のコーヒーカップが入手できたので、次は温泉だ。近くに馬頭温泉郷がある。そこには町営の日帰り温泉「ゆりがねの湯」がある。ここは那珂川辺りの高台にあって、湯船から那須連峰、大佐飛山地、高原山火山群、日光表連山が一望できる。泉質は透明なアルカリ泉で、湯に入ると肌がすべすべになる。いい風呂だ。

 風呂でゆっくりしていたら、次第に那須の方角から雪雲が近づいて来た。雪雲に追われるようにして八郷に戻った。
小屋に着いた頃、とうとう追いつかれた。


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