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池永陽/下町やぶさか診療所 いのちの約束

命は意外にしぶとい。
しなやかに自らを改善治癒しようとする。
でありながら、同時に脆い。
失われる時にはあっけなく失われる。
そして失われてしまえば、
もう取り戻すことはできない。
死は命よりもはるかにしたたかだ。
下町のたまり場のような診療所、
やぶさか診療所シリーズ第二弾。
主役は意思、舞台は診療所ということで、
生死のやり取りが引き続き行われる。
救ったはずの生が、
死から遠いと思われた命が、
誠実に生きようが、必死に暮らしていようが、
死は狙った獲物は逃さない。
また生も、時に魅入られたように、
死へと取り込まれていく。

そんな生死の深刻さと裏腹に、
物語の中では執拗に外見の美醜が語られる。
企業ではハラスメント意識が高まり、
メディアはコンプライアンスに震えあがり、
子どもたちの間ではあだ名が禁止となる。
深い交流より、
当たり障りのないコミュニケーションを
ベースとする社会では、
美醜に関する表現・こだわりは異質に映る。
一方で交流に際して、
外見は重要な要素にある。
人はそこを避けて他者と関わるのは難しい。
モチベーションになり、
ある意味、根源的な欲求たり得る。

多様性は大事だけれど、
率直な想いというものも大切に思う。
ただ率直な発言によって、
多様性の大事な部分が
失われる可能性があることも事実。
そして生と同じく、
一度失うと取り戻すことは難しい。

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