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伴剛峰/小説如月小春 前夜

如月小春。
どれくらいの人が、
その名を知っているのだろうか。
大半の人が知らないのではないだろうか。
聞いたことがあるという人はいても、
よく知っているという人は少ないのでは。
でも一部の人にとっては、
強烈な記憶の中にある名前ではないかと思う。

僕自身もそれほど詳しくは知らない。
けれど忘れられない名前であり、
大きな影響を受けた人だ。
遡ること30年前、
1990年の僕は高校生だった。
地方都市のその外れに住んでいた僕は、
その街の中心にある高校で、
たくさんの初めてと出会った。
すべてが煌びやかで眩かった。

そのひとつが演劇だった。
普段は冴えない友人が、
舞台に上がるとガラリと変わる姿に驚かされた。
そしてそんな友人が仰ぎ見る先に、
先輩のエース男優がいて、看板女優がいた。
看板女優が何度も繰り返す
「メタモルフォーゼ」の言葉。
舞台の真ん中にすっくと立った、
その姿はとても同じ高校生徒と思えなかった。

その芝居の脚本が如月小春さんだった。
その時聞いたその名前、
いつかその戯曲を読みたいと思いながら30年。
だから背表紙にその名を見たとき、
つい手に取ってしまった。
彼女はどういう人だったのか。
彼女が目指したものは何だったか。
30年ぶりのあの戯曲、あのセリフ。
その真相に少しだけたどり着いた気がする。

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