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川上健一/四月になれば彼女は

春というのは不思議だ。
何かが終わり、何かが始まる季節。
厳しい冬の寒さに耐え、
待ちに待った季節の到来。
それなのに来てみると
どこかぼんやりした感情にとらわれる。
冬の間に引き締めていた
心と身体はすっかり緩み、
すべてがどうでもよくなる。
朝も昼もたえずけだるい眠気が襲い、
世界の輪郭はにじむ。

そんな怠惰な日々、覚悟なくやり過ごす毎日。
そんなときに限って、
その後の人生を変える一日が襲い掛かる。
目まぐるしく様々なことが起きり、
他の日と同じ一日とは思えないくらい濃さ。
あとから振り返ると、すべてを決めた日。
あの日だったと思い起こす日。
予告なく突然やって来る。

ロマンチックなタイトルとは逆に、
描かれるのは若気の至りそのものの一日。
特に少年が青年に変わる春の日は、
青臭さ生臭さのフルコース。
性の目覚め、喧嘩、スポーツ、仲間、
食欲、暴力、理不尽な大人たち。
その中に一輪咲く可憐な少女が輝く。
掃き溜めにいるからこそ、
鶴はより白く神々しく感じられる。
男の中に淀む灰汁をぜんぶを吹き飛ばし、
少女が現れ、そして去る。

自分を変える日が、まだ僕にも来るだろうか。
高校生はその日を意識せず日々を生きるけれど、
僕はその日が来るのを祈りながら、
準備を続けようじゃないか。
来てほしいと願うだけでなく、
自分で引っ張り込むんだ。

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