美大コンプレックスの話

よく聞かれる経歴の話をします。

最初に簡潔に説明すると、私は中高大と理系分野を中心に学び、新卒でイラストとは無関係な中小企業に就職し、今は会社を辞めてイラストレーターとして活動しています。

主に「美大とかに行かなかったけど絵を描いてる人」に関心がある人に向けて経験談として書きます。

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中学生のときから絵を描き始めた。マンガ研究部の絵が上手い子が描いたやつをもらって眺めてはすごいな〜と思ってた。私の周りには常に自分より絵が上手い子がいて、高校に上がってもそうだった。
高校は総合学科だったのでコースが選択できたのだが、その中に美大などを目指す芸術コースもあった。もちろんそのコースを選択する人は絵が上手かったり私には理解できないような芸術っぽい何かを作ったり考えたりする人達がいた。ちょっとノートの端に落書きする程度の私があの中に入ったら絶対に埋もれると思っていたので、比較的得意だった生物科学のコースへ進んだ。生き物が好きだったのでそれもそれなりに楽しくて、中でもクラゲを観察したり描くのが好きになった。
当時まだ下火だったInstagramにイラストを投稿すると、絵を描くアカウントが珍しかったのか褒めてくれる人がいた。pixivなどのイラスト専門のコミュニティでは見向きもされなかったから嬉しかった。

大学はクラゲ好きが高じて理系大学を選びクラゲの研究室を目指した。
絵は趣味で、美大のことは全く考えていなかった。美大に行っても就職できないイメージがあった。そもそも美大に行くほどの才能もないからと進学に関する迷いも悩みもあまり無かった。

大学生になっても趣味で絵を描き続けた。純粋に絵を描くのが楽しいから。
インターネットでちょっと有名になって前より褒められるようになったし、大学の人からも絵を描いてるという認識を持たれるようになった。

イベントなどで「美大ですか?」と聞かれるようになる。私はその道の勉強をしていない割に絵の人気があることを得意げにした。"美大行ってないのに"、"まだ学生なのに"絵が上手ですごいと言われて最初は嬉しかった。
けどだんだんその"○○なのに"という絵描きの多くとは違う境遇をゲタにして実際の能力よりも過大評価させている気がした。私がもし美大生だったら当たり前のレベルなのかもしれない。
私はその道で正当に評価されていないと思うようになった。

それから美大に対するコンプレックスが生まれた。美大の学祭に行っても劣等感で全く楽しめなかったし、美大生の"分かる人"同士の盛り上がり方や共感が私には分からず、ますます私は"分からない人"なんだと思い卑屈になった。美大関係者が特別に思えて仕方なかった。私が知らない作家や文化、展示、言葉、感覚を当たり前に持っていて、説明無しに話が進んでいく。全くついていけない。何を喋ってるんだろうと思い専門的な話に私はいつも取り残された。何故なら私は感覚でイラストを趣味で一人で描いてきただけだから。自ら学問はしていないし、今からやっても遅いと思った。

自分も美大に行っていれば と思うようになった。もっと広い出会いがあってセンスの良いものが身の回りにある環境なら自分の感性も自然と培われたかもしれない。(今思えばこれは完全な環境に対する甘えでしかない。)
けど実際18歳で自己表現をする同世代に囲まれていたらと想像すると、なかなか厳しそうで、私はネットの限られたコミュニティで褒められながらやってきた。褒められてたから続いた。もし美大に行ったら強者達が当たり前に活躍する中で自尊心を保てるとは思えない。負けず嫌いな私ならきっと才能が無いと諦めて別の道を探したと思う。

とは言ってもこれは全部憶測でしかない。その年齢で、その実力のときに、専門を学ぶという経験はもう私の人生では二度とできない。もしああしていればこうなったかもしれない という振り返りはしても意味がない。時は戻せないから。
だったら現実でたどってきた道順を自分で納得して肯定できさえすればいいなと思った。むしろそれしか今出来ることはない。

そう考えるようになってからは学ぶことに前向きになった。高校を卒業してから学ぶことと会社を辞めてから学ぶことは中身は同じでも見え方はきっと違う。けどその違いは今の私の特権だし、それを楽しみにしてもいいかなと思う。歩いたルートが違くてもやりたい事が一つならきっと似たところにたどり着く。

今まで色んな経歴の人を見て話を聞いてみて分かったことは、結局どんなに上手くても描くのをやめたら終わりということ。才能やセンスや努力がいくらあってもなくても、最後に残るのは続けた者だけだ。作るだけでは成り立たない。続けてないと意味ない。続けた人達の中で上手い奴になればいい。

だから私は今までの道順より、とにかく歩き続けようと思う。今のところそれが美大コンプレックスに対する私の答えです。


(最後までお読みいただきありがとうございます。全文無料公開ですが投げ銭が可能なので頑張れ〜と思ったら是非お願いします。2020.12.4追記)

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