映画『ノイズ』の感想書く

あらすじ

絶海の孤島に突然現れた不気味な男。誰も名を知らないその男に家族を狙われた泉圭太は、親友の田辺純、新米警察官の守屋真一郎と共に、誤ってその男を殺してしまう。それは、圭太が生産した"黒イチジク"が人気となり、国からの交付金5億円が内定、過疎に苦しむ島に明るい未来が見えた矢先のことだった――。(公式サイトより)

https://wwws.warnerbros.co.jp/noisemoviejp/about.html

はじめに

今回は極力ネタバレは無しの方向を書いていきたい。(公式的にもネタバレ厳禁だそうなので)

さてこのノイズという映画だが、原作は筒井哲也により描かれた『ノイズ【noise】』という漫画となっている。映画鑑賞後に、こちらの原作漫画の方も読んだのだが、全くの別物と言っていいだろう。
勿論おおまかな設定こそ共有しているものの、人間関係だったり演出だったり心模様だったり、かなりの変更が加えられている。
自分は基本的に原作がある作品はそちらの方が好みの事が多いのだが、今回に限っては映画の方が面白かったと感じる。

これは原作が詰まらないという話ではなく、映画版の方がより一層洗練されていると感じたからである。映像化されるにあたって追加された、とある一つの大きな設定があるのだが、その設定が映画全編を通して上手く活かされているなと感じた。

キャスト

自分が詳しくないこともあって基本的にキャストの話はしないのだが、今回はしなければいけないだろう。この映画で主演を務めるのは藤原竜也と松山ケンイチである。言うまでもなく映画『デスノート』で同じく主演をしていた二人だ。映画『デスノート』は非常に面白かったし、月とLを演じる二人の姿も未だに記憶に新しい。そんな二人が『デスノート』以来に本格的に共演するというのだから、興味が惹かれない訳が無い。

そんな二人の演技がどうだったかは是非映画館で観てみて欲しいのだが、一つ言えることとしては、やはり圧巻の演技だった。

もう一つ、泉加奈を演じた黒木華なのだが、以前観た『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の名演に正直怖い思いをした。そんな思い出があってか、今作でも彼女を見る度に少し恐怖心を覚えてしまったは申し訳ない。(結果として、間接的に彼女に怖い思いをさせられてしまったのだが)

感想

かなり面白い作品だった。ジャンルとしてはサスペンス映画になるのだろうか。確かに常に緊張感が張り詰めたような作品だった。純粋に物語としてかなり出来がいい上に、尺の中に綺麗に収まっている。加えて演出やキャストの演技の上手さも相まって全体的な満足度は高め。

事の発端はあらすじにもある通り、イチジク農園に現れた不気味な男を誤って殺してしまった事から始まる。実際それは事故のようなものであり、その時点で素直に明らかにしておけばかなりマシな結末を迎えられた事と思う。(ごく一部を除いて)

しかしその事件を隠蔽しようとしてしまったせいで全ての歯車が狂ってしまう。その隠蔽により生じた不和があちこちに波及していき、坂を転がり落ちるようにどんどんと状況が悪くなっていく様は最早ギャグのようですらある。
そんな絶望的な状況を疑似体験できるのがこの映画。何をしても結果的に悪い方向に向かってしまう、という非常に精神に悪い体験をすることができる。

だがそんな絶望的な状況の中でもなんとか島を守るために死力を尽くす主人公たち。そんな中起きてしまう取り返しのつかない事態。その時、最後の引き金が引かれてしまうのだった。

孤島という舞台

今回の舞台は孤島である。孤島で殺人事件と言えばよくあるミステリーかと思うかもしれないが、今作は全く違ったテイストになっている。(ミステリー作品にそこまで詳しいわけではないので適当なこと言ってたらごめんなさい)
肝心なのは舞台が「閉鎖社会」であるということだ。通常の殺人事件であれば犯人にとって「自分以外は全て敵」という状況になってしまうだろう。だが今回はその「閉鎖社会」がゆえに島全体が味方になってしまうのがこの作品の面白い点だ。現代の日本、特に東京なんかでは絶対にありえない程の「ドロドロとした連帯感」を味わうことが出来る。
元々がドロドロとした人間関係なのに、そこにドロドロとした殺人事件が持ち込まれてしまったせいでそれはもうドロドロデロデロである。
ただあくまで今回はその島民側の目線で話が進んでいくため、そのドロドロが不快に感じることはあまりない。

「情けは人の為ならず」という言葉がある。今回は圭太が普段皆の信頼を勝ち取っていたからこそ「殺人をも庇われる」という状況が発生してしまった。しかしそれは果たして最終的に圭太の為になったのだろうか。

殺人とは行かないまでも親しい友人がもし犯罪に手を染めてしまったらどうするだろうか。そこに周りからの同調圧力が加わったり、犯罪を犯してでも守らなければいけない何かが存在したとしたら? そんな事をふと考えさせられた。人と人との繋がりは力でもあり、また枷にもなってしまう。そんな事を改めて感じさせられてしまった。

歪み

序盤から終盤まで、観ていてずっと「とある歪み」を自分は感じ続けていた。結果的にこの物語の行く末を左右したのはその「歪み」なのだが、その丁寧な伏線の貼り方や、それを一気に回収する様には衝撃があった。(予定調和という感覚も正直あったが、それを押しつぶす程の演出の迫力であった)

先程全くの別物と言った通り、原作と映画版のラストは全く異なった物となっている。それはやはりその「歪み」が原因であるのだが、その歪みをある程度全体に散らしておくこと、またそれを回収することで、物語全体に締まりが出てかつ深みも増したように感じる。映像化にあたってのこの改変は、個人的には正解だと感じた。

まとめ

1/3くらいは主演コンビに釣られて観たような映画だったが、やはりその演技力は確かなものだった。おかげで十分に物語にのめり込むことができた。

余談だが、作中で藤原竜也演じる泉圭太の子供時代も描かれていた。当然学生時代の泉圭太は別人が演じていたのだが、その役者さんが藤原竜也の表情や喋り方の特徴を上手く捉え再現していた。おかげで顔は似ていないにも関わらず、「なるほどこの子は泉圭太(藤原竜也)の学生時代なんだな」とすんなり理解することが出来た。この点は本当に素直に感心した。

この作品では時系列の入れ替えというのがちょこちょこ起きていたが、決してそれが話を複雑にすることはなく、寧ろ一層観客の心を惹き付ける効果を持っていたと思う。また原作からの改変部も全体的に上手くハマっていた。

個人的にはあまり漫画の実写化には肯定的ではない。しかし今回のように原作をある程度活かしつつ、別方向のベクトルに凄みを見出し、作品としての完成度を上げてくれる実写化は大歓迎である。

128分と決して短い尺ではないが、その長さを忘れさせてくれる魅力がこの作品にはあると思う。是非劇場に足を運んでみて欲しい。

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