投影と投影性同一視

投影と投影性同一視

投影(Psychological projection)と投影性同一視(Projective identification)は防衛機制のうち、対象分離性と対象恒常性を獲得する以前の時期に由来するとされる原始的防衛機制に含まれるものである。

まずはこれら2つの防衛機制の定義を示す。資料によって若干の違いがあり、特に投影性同一視については議論が活発なようである。
投影とは、自己に生じた感情や思考などが、自己に生じていると認めず、対象に生じていると誤解することである。
投影性同一視とは、対象に投影した感情や思考などが、誤解ではなく実際に対象に生じるよう振る舞うことである。

投影
投影の前段階としてまず否認(Denial)が起きている。感情や思考を否認することで不快な体験から逃れることができる。そして合理化、躁的防衛、最小化、反動形成、’投影’など様々な防衛に繋がっていく。もちろん否認だけの場合もあるだろう。

どうして投影するのかは当然わかるはずもないが、否認だけでなく投影することで得らえるものは何なのかと考えてみた。それは”共感”ではないだろうか。共感とは、日本語だと相手の考えに同意するというニュアンスを含む説明が多いが、英語のempathyは”他者と感情を共有すること”である。よって投影は共感を得る手段といえなくはないだろう。

しかし一般的に共感といえば、理解、同意、一体感のような肯定的な文脈で語られる、英語のwikiを見る限り英語圏でも概ね同じだろう。投影の文脈ではあくまで同じ感情を感じているというだけで、むしろ負の感情について取り上げることが主である。しかもそれも無意識な上に一方的なものである。

感覚的には共感といえるのか怪しいレベルの外れに位置しているような気がしてしまうが、それでも同じ感情を共有している状態というのは防衛的に機能してくれるのではないだろうか。のちほど詳しく考えたことを記載する。

冒頭のように原始的防衛機制とは、乳幼児期のまだその感情が自分に生じたのか他人に生じたのかもわからない段階の心の機能に由来しているため、自己の感情が他人に生じているとする投影がこれに含まれるのは尤もである。投影によって得られた共感はあまりにも独りよがりで一方的だが、それが原始的防衛機制らしさとも言えそうである。

投影性同一視
投影はあくまで思い込みでしかないため現実とは違う、そのギャップの存在はその人にとって負荷となる。ではそのギャップをどう処理するか、その方法はいくつか考えられる。

1つめはそのままにしておくことである。客観性を保てていれば「これは思い込みかもしれないが・・・」といった自我違和感を抱えることになる。これはただの投影に含まれるだろう。

2つめは、そんな負荷に耐えられない状態なら思い込みと現実のギャップをなくせばいいのだ。投影した感情が相手に生じるようにすること、これが投影性同一視である。これは境界性パーソナリティー障害(BPD)の患者によくみられる防衛とされているが、自分の思い込みが現実に即していないことに耐えられないから思い込みを現実化するというのは、BPD患者の心性や他の症状とも親和的、というかまさに地続きである。

ちなみに3つめは精神病性の妄想によるギャップの埋め合わせである。質的に別物なので本稿では割愛する。

共感
そして投影性同一視も投影と同様、いや、さらに共感の獲得に繋がる。共感を得るとはどういうことかを考えてみたい。平時であれば同じ物事に対しても感じ方、考え方は人によって様々だろう。しかし同じ感情を共有する場面というのは良いものも悪いもの含めて重大な物事、つまり優先順位の高い物事に遭遇した場面である。なおかつ他人と共有できるということは内界ではなく外界に存在する物事である。なので投影や投影性同一視によって相手と同じ感情を共有している、もしくはそう思い込んでいる状況というのは、自分の外界に優先順位の高い物事が発生した状態を疑似的に作り出すことができ、内界の問題や不安から目を逸らすことができるのかもしれない。想像してみて欲しい、心の中であれこれ心配事が激しく渦巻いている時であれば、たとえ怒りや不満などの負の感情であれど、なおかつ自分の心配事とは無関係な発生源による感情でも、他人が同じ気持ちになっているとそれだけで一時的に気が紛れそうな気がしてこないだろうか。

おまけ、殴り書き
投影性同一視は対象関係論っていう精神分析の分派?のメラニークラインが提唱したそうだが、人間が2人以上登場すると話が一気にややこしくなってしまう。投影性同一視の対象からの影響も考慮しなくてはいけなくなるが、現代精神分析の本をチラ見すると自分らの限界はわかっておりますがといった但し書きがたくさんしてあった。つっこみどころ満載なのは誰でもわかっているのだ。フロイトの時代は仕方ないが、できれば精神分析や力動精神医学の基盤にニュートン力学のような絶対に揺るがない確固たる自然科学的な理論が欲しい。自分はそれは進化論、はやりの進化心理学が使えるのではないかと思うので、生存や遺伝子淘汰、社会適応のメリットの観点から防衛機制を読み解けるようになりたい。

それと、防衛機制とは上手く現象を捉えられているとは思うが、人間の心理は古来から変わらぬ共通要素があり、神話や伝承、おとぎ話、格言のような形で価値のあるものは現代まで残っているはずである。という話がナシームニコラスタレブの身銭を切れに書かれており、実際に古典から有名な心理学に該当するものをいくつもピックアップしていた。そういうものも見つけていきたい。

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