響きあう心いつまでも/グリークラブ香川・団歌

 '04年に逝去された林雄一郎先生はグリークラブ香川の創団(1988年)以来の音楽顧問であった。音楽面のみならず本団のアイデンティティを確立した大恩人である。創団の際に贈られた「響きあう心いつまでも」という言葉は、団のモットーとして今も我々の活動の支柱となっている。

 '05年、その大恩人の一周忌に追悼演奏会を行うにあたり、団歌を作ろうという気運が団内で盛り上がった。5月、練習を終えて近くの焼鳥屋に集った有志を前に、熱血で鳴る栃木氏がコンセプトを語る。林先生が下さった言葉を核として男声合唱を愛するすべての人が共有できる歌を作ろう!

 毎週のごとく焼鳥屋で議論する内に、次第に詩の方向性がまとまっていった。先生の言葉を曲名に戴く、全国合唱コンクール全国大会(1995)パンフの団紹介の結語「楽の音に導かれしは、その者のそこにある証である」を核とする、天・地・人の三部構成とする、擬古文体を使う、固有の名称は入れない、できるだけ七五調などの定型を守る、…。

 多くの仲間たちに意見を聞きながら思いを巡らし何度も書き直し、次第に詩の形ができあがっていった。名古屋出張の折りには、都築会長をはじめ東海メールの幹部の方々にも相談に乗っていただき、主筆・片山氏にあっては宿泊先にもお電話を下さり貴重な提案をいただいた。

 こうして仲間達に磨き上げられ遂に詩案が完成。有志は勇躍、深夜の澤井会長宅に押し掛け、団歌の具体化を建白し裁可を得ることができた。

  しかし当団には委嘱曲の経験などない。今度は、どなたにどう作曲をお願いしていいのか分からず頓挫。まったく途方に暮れてしまった。あぐんだ澤井会長は、2001年から本団を指揮して下さっている北村協一先生に詩案をお見せし、相談することにした。

 6月初め、その北村先生から連絡があった。
 「多田武彦先生に頼んでおいたから」
 
 我々は叫んだ。
 「えっ!?まさか!?ホント!?」

 6/24、多田先生が正式に作曲を引き受けて下さったという会長の報せを受け、さっそく先生に詩案を送った。既にモチーフを描かれていた先生から即座にサジェスチョンがあり、手直しした詩の最終案が多田先生の手に渡ったのは6/26だった。

 7/4、私は澤井会長のメールを見て驚愕した。多田先生から団歌の楽譜が届いた、しかもPC音源も2つ完成させて送って下さったというのだ。詩を渡してたった一週間で完全な形を作り上げたという事実に、多田武彦という創作者の天才と情熱を強く感じざるを得なかった。

 その日の内に先生からいただいた楽譜と音源がネットを介して私の元に届けられた。即座に楽譜をプリントアウト。先生の筆跡で私の名前と詩が書かれているのを見て、私は胸がいっぱいになった。この瞬間、世界の誰よりも私は幸せだった。

 それから私は常に楽譜を持ち歩き、車の中ではCDに焼いたPC音源をエンドレスで聞き続けた。通勤や出張などの空き時間もずっと音源を聞き音取りをし暗譜したので、頭の中で常に団歌が鳴り続けている状態だった。

 それでも、まったく飽きない。むしろ何度も涙がこみ上げてくる。今までこんな経験はなかった。

 本当に歌いたかった歌がここにある。こんな歌があったらいいのに、とずっと願っていたその歌がここにある。まさに仲間たちと語り合った当初のコンセプト通り、男声合唱を愛するすべての仲間に歌ってもらう価値のある曲が完成したことを私は確信した。

 その週と翌週の音取りを経て、翌々週(7/23・24)に行われた北村協一先生を迎えての合宿。北村先生が曲想を施し指導をして下さり、この楽譜は本当の合唱になった。先生は「良い歌ができたじゃない」と笑顔でこの曲を讃えてくれたのだった。

 その合宿の最後、締めくくりとして団歌を歌い始めた時、私の目から突然、涙が吹き出した。

 林雄一郎先生と仲間たちの思いが結実した言葉に、多田武彦先生が曲を付け、北村協一先生が仕上げて下さった。どこをどう探してもこれ以上の幸せはない。私たちは今、比類なき幸せに満たされているのだ。目の前で軽やかに指揮されている北村先生の姿が涙で滲み、仲間たちの歌う力強いハーモニーの中、私の鳴咽は止まらなかった。

 9/19高松での林雄一郎追悼演奏会で初演されたこの歌は、11/13関西学院大で行われた追悼演奏会でも披露され多くの喝采を浴びた。日本男声合唱の歴史を語る上で欠くことのできない偉大なる先覚に導かれ、我々のアイデンティティとして形を成したこの歌の思いを、男声合唱を愛するすべての仲間と共有していきたい。それが私たちの願いである。


「響きあう心いつまでも」

歌ありき
こたえて歌ぞいま生まる
響きあい
ともにいのちをうちならせ
楽の音(ね)は
集うわれらのあかしなれ

星はいま
しずけき夜にささやく
光陰はそら駆けめぐる
彼方よりわれらが心に響きあう

夢ありき
こたえて夢ぞいま生まる
響きあい
ともに天地をうちならせ
楽の音(ね)は
集うわれらのあかしなれ


https://www.youtube.com/watch?v=iZT_jW0fC8c

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2006年3月13日、北村先生は帰らぬ人となった。未熟な私たちに熱意と愛情を注ぎ高みへと導いて下さったかけがえのない恩師を再び失った悲しみは私たちから容易に去らない。この場を借りて先生に心からの感謝を捧げたい。その魂の安らかならんことを。

<2006年5月27日発行「じゃむか通信第32号」より>

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