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借金のあるアテネ人

 あるアテネの農家の男は、生活に困って金貸しから借金をしていました。ある日金貸しが家に来て、金を返すように言いました。男は相変わらず生活に困っていたので、返すのをもうすこし待ってもらいたいとお願いしましたが、金貸しはもう待てないと言いました。金貸しは一匹の豚を飼っていることを知っていたので、その豚を売って金にして、それでもって返済をするように提案しました。他に借金を返す元手になるものを持っていなかった男は泣く泣くそのたった一匹の豚を売ることにしました。

 男と金貸しは豚を連れて買い手の元に行きました。買い手は「この豚は子どもをよく産むのか」と聞きました。男は豚が借金分の金額で買い取られないと大変困ってしまうので、できるだけ高く買い取ってもらえるように大袈裟に返事をしました。

「よく産むなんてもんじゃありません。信じられないほどの数の子豚を産みますよ。それに、時期によって雄と雌も産み分けられるのです。雄の豚のいけにえを必要とするお祭りの時期には雄の子豚を、雌の豚のいけにえを必要とするお祭りの時期には雌の子豚を産みます」

 買い手は男の話を信じるか信じまいか迷っている様子でした。それを見た金貸しは間をあけずに言いました。

「なあに、驚くのはまだ早いですよ。ヤギのいけにえが必要な祭りの時期には、なんとヤギの子どもを産むんです」

 金貸しの話はとんでもない話でしたので、買い手にはとても信じられませんでした。金貸しの話が嘘であるなら男のことも信じることができないということで、その豚を買い取ることは出来ないと言いました。

 突拍子もない嘘をついてしまったせいで、男と金貸しはお金を得ることができませんでした。金貸しは男に金を返してもらうのに猶予を与え、男は農業にせいを出して1年後には借金をきちんと返済しました。

「借金のあるアテナイ人」(中務哲郎(訳)(1999).『イソップ寓話集』岩波文庫 )

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