ネコのお医者とニワトリ
あるところに一匹のネコがいました。近所のニワトリが病気にかかっていると聞きつけたネコの医者は、人間に化けて診察に必要な機器を取り揃えると、病気のニワトリがいる小屋に出向きました。ネコはニワトリ小屋の前に立ち、ドアをノックして言いました。
「もし、ニワトリさん。わたくしめは医者でございます。具合が悪いとお伺いいたしましたので、診察に参りました。気分はいかがでしょう。ぜひあなたさまの病気を治して差し上げたいので、ドアを開けていただけますか」
それを聞いたニワトリはドアを開けずに答えました。
「やあ、お医者様。わざわざお越しいただきありがとうございます。具合は確かにすこぶる悪いです。しかしこの病気を治す方法をわたしはひとつ確信しております。先生は今すぐにドアから離れ、回れ右をしてそのまま前に進んでください。そうすれば、わたしの病気はたちまち良くなるでしょう」
ネコはニワトリを出し抜き、ドアが開いたらたちまち中に入ってニワトリたちをたらふく食べてしまうつもりでしたが、ネコの「良い人のふり」は賢いニワトリたちにはすっかりバレてしまいました。医者のふりをしたネコは諦めてそのまま家に帰りました。
「猫のお医者と鶏」(中務哲郎(訳)(1999).『イソップ寓話集』岩波文庫 )
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