見出し画像

2020年の短歌

昨年は歌会も出られず、歌誌にも参加せず、ほとんど短歌を発表することができませんでした。とはいえいくらか作っていたものがあるので、まとめてここで発表したいと思います。


ミキサーで混ぜていいもの駄目なもの混ざらないもの全部嫌いだ
ココナッツみたいな夢を割っている信じたいんだ中身は甘い
発電所みたいに夢を吐き出してコンセントみたいに絡まっている
やあどうも初めまして僕の声独りを一人ひとり増やして
おびえるよ君が世界を感じてるそれを感じていると感じて
「お弁当始めました」ワタシ翻訳で「生きています、生きていきます」
喫煙所だったところにできた町ハチの死体を運ぶアリンコ
二メートルごとに結ばれる唇 音楽室のような正しさ
ふるさとの星座を見ずに過ごすから夏は公共放送みたいだ
カップ麺辛いやつだけ残されていつか会おうね指切りげんまん
いつからかみんなの部屋は結ばれて文通をするぬいぐるみたち
空中を飛んでいるのがオンライン空が見てたらオフラインだよ
背景を宇宙にしたら少しだけ白髪が誇らしげに映えてる
休みです/休みです/休みです/休 手帳に夢をいっぱい書ける
A冷凍/BC冷蔵/D解凍 一つぐらいは曖昧でいい?
地図だけが楽しみの日々地図のない世界でなくてよかったよかった
思い出を主食にして生き延びる五分でお湯を捨てるタイプの
五分だけ近所迷惑ノーカンタイム三拍子で泣きわめこうよ
この町に帰ってきたよななつ星 銀河系の優しい形
百円で買ってしまってごめんなさい サボテン様の奴隷になります
夏だってさ 夏になってた窓の外香りは最初から知らないさ
今日もまた初めて会った二人へとアクリル板がキラキラ光る
電子辞書があればだいたい幸せで「影」とか「海」をどんどん学ぶ
新しい浄水器が届いてたまだ生活は続いてくらしい
「遠い空、見に行きたいよね裏のボク」「熟睡してるぜ表のボク」
ある、ない、ある、ない、ある、ない 文フリを待つ心から花弁が散る
手の届く範囲で手が届かないボニーピンクが似合う天井
自転車に乗って六月の学校へ 初めて見る君たちのところへ
できるだけ缶コーヒーは甘くあれ円柱型の宇宙を借りる
それぞれのマスクがあって目があって居眠りしている頭があって
駅前の重機は今日も太陽をつかみたいのかやたらと伸びる
久々の大きすぎる青空に飛行機雲があったとしよう
自転車でドンキに寄って帰ろうか 元気みたいだと心をなでる
クレジットカードで買える幸せが自転車の籠から零れている
空白/太陽/雲/雲/空白/月 空って正しいね空なのにね
業務用フォーが消費されていくようやく業務も帰ってきたね
洗濯機が合唱する昼 このあと授業録りますねよろしく
大相撲観たいだけ観れる夏塩をまくふりなんかしている
少しずつ明るい夢は朽ちていくニコニコ動画で栄養補給
高校生カップルが座っていたベンチに秋の予告一粒あった
祈り(十時までに荷物が届きますように)憂い(十二時が来ますように)
「このバスは新町に行きますか」「そういうバスで私はありたい」
三日間君のことを忘れてたそれぐらいにそれぐらいの日々
雷が一つ一つ光ってるああいう風にあきらめていこう
ペンだこが筆箱一つ分あってすべてが中学生のやつで
都合よく生きていくからエクセルをどんどん方眼紙として使う
カップ麺辛いやつと再会しまた今度だよ指が痛んだ
MDを引っ張り出して二日間僕は僕の僕になれるよ
今月はみんなの部屋はバラバラでぬいぐるみには心音がない
ミキサーで混ぜていいもの飲み込んでほぼ虹色の明日が欲しい
海流がぶつかる場所で別れよう雲になって西へ東へ
「嫌いだけど気になる人」って言われてるあだ名はきっと口内炎だ
偽札が通貨になっていくように何度も「愛しているよ」と言った
十年後素敵な人になる予定そんな私にラブレターフロム私
僕だったものがとても美しく佇むさまを見続けている
カーブミラー越しに見えたカマキリの瞳が映す風のぬくもり
登山用でかい鞄に詰め込んだ生きるためには必要な夢
変身ができるベルトがあるけれど悪の自覚もとってもあって
漫画家と呼ばれてすでに二十年ハンチングとは言い出せなくて
「将来はいずれ生まれる僕みたいな人を助ける僕になりたい」(NHK短歌佳作)


サポートいただければ、詩集を出して皆様にお届けしたいです。文字が小さくてむっちゃボリュームのある詩集を作りたいです。