熊本パンタグラフ03

【熊本パンタグラフ】1

 noteまえがき

 個人誌に載せた「熊本パンタグラフ」を、再編してnoteで掲載します。熊本の観光地紹介と、その場所を題材にした詩を合わせたものです。一人でも多くの人に熊本の魅力が伝われば、と思います。

 序文

 熊本に来て、十六年が経過した。今や、一番長く住んでいる土地である。
 初めて訪れたのは、後期入試の時だった。博多駅から乗った特急有明は満員だった。まったく知らない名前の駅ばかりで、早く熊本にと願いながらデッキで立っていた。
 熊本駅に着いてからも大変だった。ホテルまでどうやって行けばいいのか、いまいちわからない。とりあえず市電に乗り、中心街の近くで降りた。アーケードを進んでいき、なんとか到着することができた。
 次の日も歩いて大学に行こうとして、迷った。タクシーを捕まえようとしたが、なかなかつかまらない。熊本は、最初から私に試練を与え続けた。

 関西に戻りたくて仕方がなかった。難波、梅田、天王寺。懐かしい街で遊んだ日々へと帰りたかった。
 それでも住めばナントヤラで、今は熊本を楽しんでいる。最初は、周囲の人が様々な場所に連れて行ってくれた。熊本は観光業がそれほどうまくやっている土地ではない。わかりにくかったり、宣伝下手だったり。それでも行ってみると魅力的なところはたくさんある。
 新幹線開業以来、徐々にではあるが観光客にやさしくなってきたとも思う。黒川温泉のように、全国的に人気になっている場所もある。
 未来は明るいと、信じていた。

 様々なことが変わってしまった。熊本城すら、どうなるかわからない。阿蘇の、あの大きな橋がなくなってしまった。
 いまだ、余震の続く中でこれを書いている。まだ安全が保障されない中で、熊本に観光に来てください、とは気軽には言えない。それでも、今後熊本を支えていくには、観光業が柱になっていく必要があるだろう。
 熊本には、魅力的な場所がいっぱいある。私は、あまり人が行かない場所に行ってきたと思う。皆が知らない熊本を、少しは知っていると思う。だから、伝えていけはいいんじゃないかと思う。
 すでに電車はほとんど復旧している。けれども、大好きな南阿蘇鉄道はまったく復旧のめどが立っていない。あの線路に、再び列車が走る日が来ますように……との願いを抱きながら、熊本のことを少し紹介させてください。


草千里

 土曜日は部会があって、深夜まで皆で楽しむのが常だった。時には徹夜した後にテンションが上がって、「そうだ、どこかに行こう」となることもあった。
 そんな感じで、初めて阿蘇に連れて行ってもらった。
 熊本市内からも、阿蘇の山々はよく見える。そして、渋滞さえなければ意外とすぐに行ける。ちなみに初めて訪れた人は、「カルデラってどこ?」と聞く事が多いのだが、だいたいの場合すでにカルデラの中にいる。
 阿蘇には草原が多いが、これは野焼きをして人工的に作っている。広々とした土地の中で、牛が優雅に草を食んでいるのを見ることができる。そして最も有名なのが、草千里だ。草原と丘、そして池。子供たちは走り回るだけでもずいぶんと楽しそうだ。
 ここからは阿蘇山頂が近いのだが、噴火の影響で手前までしか行けないことも多い。また、霧で何も見えないこともある。ある意味、存分に自然を実感できる場所なのである。


噴煙が上がり
匂いが流れてきているのに
どうしても君は山頂に行きたいと言った
また来ればいいさ そう言ったけれど
未来はわからないよ 君は言った
せめて少しでも近づきたいと
君は草原を走った
その間にもほんの少しだけ
草が成長して
阿蘇に未来が訪れていた

  

菊池渓谷

 どこから写真を撮っても絵になる場所というのがある。菊池渓谷は、まさにそんなところである。
 少し歩くので、覚悟はいる。あと、紅葉の時期は駐車場に入るのにもしばらく並ばなければならない。
 それでも、行って損はない。とにかく、澄んでいる。不思議なほどに、澄んでいる。水も空気も、そして土までもが純なるものでできていると感じる。

こんなに完成された場所を
映画で例えるのはやめようよ
これからは
他のものを菊池渓谷で例えられる
その度に思い出せばいいさ
済み渡っているだろう
映画では表せないほどに


南阿蘇鉄道

 立野から高森までを結ぶ。阿蘇の外輪山を臨みながら走る列車は、何回乗っても飽きない。カフェのある駅や長い名前の駅。路線は短いながらも見どころは多い。
 現在は一部が再開した。かつて接続する予定だった高千穂鉄道は、台風被害の影響で廃線になってしまった。
 なんとしても、もう一度乗りたい。

緑にはいくつもの種類がある
駅に止まる度に
新しい緑を探す
季節が変わる度に
新しい緑を探す
記憶の中ですら
緑は常に変化している


つづく


    


サポートいただければ、詩集を出して皆様にお届けしたいです。文字が小さくてむっちゃボリュームのある詩集を作りたいです。