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「主婦のつぶやき」~小さな日常~

夫とランチに行った。「ねこになりたい」という住宅街の一角ににひっそりと佇んでいる隠れ家的な店。


ドアを開けると、ウィンドチャイムの音が響く。 そして、まだ若いオーナー夫妻が「いらっしゃい」と柔らかな笑顔で迎えてくれる。 店内はほぼ満席。ひとつだけあいているテーブル席を勧められ座った。
天井から吊るされた大量の観葉植物、窓から自然のあかりが注がれて店内はほど良い明るさだ。
緑が多いからか、店内は清々しい空気感に溢れてる。

信楽焼き、美濃焼の器が展示販売されているのも嬉しい。
私の好きな作家さんのものが多い。

「ねこになりたい」には4匹の猫がいる。
閉店間際、常連さんだけになると、店内に現れる時がある。
大きい順に「ほっけちゃん」「たらちゃん」「いくらちゃん」「ぽっちゃん」
「ほっけちゃん」はあまり店内には出てこない。出てきた時も窓の桟で寝ていてカーテンをあけると「お前いたのか」っていうタイプの猫。

「たらちゃん」は店内を徘徊し、隙あらばお客さんが出入りする時を狙ってドアの外に出ようとする。


いくらちゃん」は少し前までは、指定席でじっとしていたが、雰囲気になれたのかカウンター席で寝たりするようになった。


「ぽっちゃん」はまだまだ、店というより、オーナーのそばにいたくて出てくる。


今日はたらちゃんといくらちゃんとぽっちゃんがいた。
そんな猫たちにも癒される。

店内のBGMも楽しみのひとつで、もとミュージシャンというオーナーと夫はすぐに音楽談義をして仲良くなった。
無造作に置かれていたギターを見ていた夫に「それ、もうならないんですよ」とオーナーが声をかけてくれたのがきっかけだった。


オーナー夫妻は人柄のよさが滲み出てるような方なので、人見知りの夫にしては珍しく一目惚れしたのだ。
普段は「人とは長く付き合わないとわからない」とか言ってるくせに。
まぁ、でもわかるような氣がする。

「おまたせしましたと」テーブルに置いてくれた、なみなみと注がれたコーヒーに口をつける。
挽きたての豆の香ばしさが広がった。


食後のコーヒーを呑みながら、緑いっぱいの店内をぼんやり眺める。
談笑する表情は明るく、漏れ聞こえてくる会話の内容は平和な日常そのものだった.
ここは、私の心を穏やかに、あたたかくしてくれる。

「ごちそうさまでした」「ありがとうございました」
たらちゃんが出ないように気をつけながら外に出る。
青い空が見えた。
心が洗われていくような穏やかさの中で、誰かの視線を感じた。

振り向くと店の2階の窓から小さな女の子が私を見ていた。
「バイバイ」と手を振ると女の子も手を振り返してくれた。

夫も「バイバイ」と手を振ると女の子は誰かを呼んだ。
弟だろう、少し小さな男の子も顔を出して手を振ってくれた。
車が走り出してもふたりは「バイバイ」し続けてくれた。
夫も窓を開けて「バイバ~イ」と手を振っていた。
「子供があれくらいの頃が懐かしいね」とふたりが同時に言った…