夢ねこの思い出

生き物とおもちゃの違いを認識した瞬間を覚えている。

誕生日かクリスマスか忘れたが、私は親からプレゼントされた夢ねこというおもちゃを持っていた。白い毛並みで、電源をいれると「ニャーオ」と鳴き、背中を撫でると前足を動かす。

夢ねこ(名前は付けなかったと思う)で遊ぶ私を見て微笑む両親…のようなことにはならず、鳴き声と駆動音がうるさいという本物のネコなら絶対言っちゃいけない理由で早々に電源を入れることを禁じられた。当時の私も動かないおもちゃに興味はないのでぬいぐるみのハローキティから剥いだ服を着せた後はそのままベッド横に放置していた。今思うと二足歩行の白ネコの服を剥いで四足歩行の白ネコに着せたのかなりヤバいと思う。何がしたかったんだ。キティはそれからずっと全裸だったし。

夢ねこで遊ばなくなって数年後、私はテレビか何かで動物のトリマーの映像を見た。ガキらしく「私もこれやってみたい!」と珍しくやる気に満ちた私は子ども用のハサミで夢ねこの毛を切った。トリマーの人の見よう見まねでハサミを立ててショキショキと。そして案の定ガキが見よう見まねでやったので左右非対称でムラのある仕上がりになった。

それを見て私は
「ちょっとバランス悪くなっちゃったかも。でも時間が経てば元に戻、」
これおもちゃだから毛は伸びない。ずっとこのままだ…

これが私の生き物とおもちゃの違いを認識した瞬間である。夢ねこの毛を切ったことは親に黙っていたので親は知らないし数年前BOOKOFFに売ったので今となっては現物もない。

まだらな毛並みの白ネコのおもちゃがどこかの家庭に買われたのか、それとも売れ残り続けて廃棄されたか知りようがないが、どうせなら子どもの情操教育に役立ってくれればと思う。残酷なことをしたけれど私はそれで学びを得たから。


この記事は雑談アドベントカレンダー2023参加作品です

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