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「二度目の幸せ」創作BL小説

「二度目の幸せを望むのは贅沢じゃないか?」

若くして妻を失い一人息子を育てながら静かに暮らしていた浩太郎、新たな恋に臆病になっていた彼は大学生・成海と出会う。けれど朗らかに笑う彼が失恋したばかりと知って……。というお話です。

かなり昔の作品を改稿したもので、カクヨムにも置いていたんですが、カクヨムを撤収したのでこちらにリンクを残しておきます。
よろしければお立ち寄りください。
作品→ https://estar.jp/novels/26036047

冒頭部分、ちょこっとだけ掲載します。全年齢です。


二度目の幸せ


 ……釈然としない。

 セミの声がハウリングする神社の境内を歩きながら、水守浩太郎(みもり こうたろう)は思った。
 片手には虫とり網、もう片方に小学一年生の息子の手を引きながら、すでに三十分近く歩いている。
 息子の手に握られているプラスチックの虫かごには、全く何も入っていない。
 夏休みの自由研究に協力するつもりだったのだが、これでは……。
 父親としての面目が丸つぶれだ。
「……パパ。何にも捕まらないね」
「きっと、虫たちはパパのことを怖れて逃げちゃったんだ」
 そう言っている目の前を、小馬鹿にしたようにアブラゼミが横切っていった。
 やーいやーい捕まえられるもんならやってみろー、と言われた気がして、眉間に皺が寄ってしまう。
 夜型生活のために暑さには弱いし、すでに息が上がりかけている。
「ごめん、蒼太。一匹くらいはいけると思ったのにな……」
「仕方ないよ。パパはお嫁さんも捕まえられないもんね」
 悟りを開いたように、蒼太が身を抉るような一言を告げる。
 たしかに、五年前に妻に先立たれて以来父子家庭女っ気なし。恋人どころか恋愛でさえ無風状態だ。
「ホントに、ごめん。これじゃ研究にならないな」
 蒼太の自由研究のテーマは、「家のまわりの虫調べ」である。
「いいよ。後で見つけた虫を図鑑で調べて書いておくね」
 蒼太は大きな瞳を浩太郎に向けてにこりと笑う。救いになっていない。
「大体、パパは夜行性なんだから、昼間は本気出せないんでしょ?」
 いやその……。先週はそう言って夜中にカブトムシを捕まえに行って、ヤブ蚊の大歓迎を受けただけだった。
 やはり、自分には昆虫採集の才能はないのか。そもそも才能以前に運動神経の問題か。
「今日もお仕事なんだから、そろそろ帰ってスイミン取らないとだめでしょ?」
「だよなあ……」
 確かに昼間の外出に慣れていないせいで、この日差しだけで疲労困憊だ。
 太陽が生気を奪う吸血鬼に見えてくる。というより、太陽にやられるなら吸血鬼は自分か……。
 それに、二人そろって熱中症で倒れるという情けない事態も避けたい。
 しかたなく、力ない足取りで鳥居をくぐって道路に出る。
「パパって虫とりしたことないの?」
「あんまり外で遊んでないからなあ。コツが分かれば大物ゲット出来そうなんだけど」
 言いながら、ぶんぶんと網を振り回す。
 不意に、がくんと何かに引っかかった感触があって振り返る。
「あの……何っスか? いきなり」
 そこには自転車に跨り浩太郎の網を頭に被った若い男が、困惑した顔をこちらに向けていた。
 ……大物をゲットしてしまった。
 浩太郎は思わず顔が引きつってしまった。

 それが古島成海(こじま なるみ)との出会いだった。


もし続きに興味のある方は……続きはエブリスタにて。


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