鉱石病棟のジョバンニ|外伝

カンパネルラと僕がまだ一緒に遊んでいた頃、つまり父さんがまだきちんと僕の側にいてくれて、母さんも元気で、僕もお仕事をしていなかった頃、僕とカンパネルラはよく森の秘密基地で遊んだ。

その頃の僕たちは、森に点在する鉱石を集めては、父さんの所へ持っていき、その鉱石の名前や、組成分、硬度を聴いては、なるほどと頷いて笑った。なんだか賢くなったみたいで嬉しかった。

ある時、森でとても良く光る鉱石を見つけた。鉱石角灯は、鉱石を入れると反応して光る不思議のランプなのだけれど、その時見つけた鉱石はとても良く光って、眩しくて一瞬何が起こったのか分からない程だった。

鉱石が震えて或る方角を差しているように見えた。薄らと光が線上に伸びる。僕とカンパネルラはお互いに顔を見つめて、霧の中を進んだ。まるで図鑑で見たような、大きなお城みたいな存在感の建物は、看板に鉱石病棟と書いてあった。初めて辿り着いた場所だった。

気付いたらカンパネルラがいない。
「ねえ、カンパネルラ、どこへ行ったの?」「いやだよ、ひとりにしないでよ、どこにもいっちゃやだよ」
「ここはどこなの、こわいよ、もうかえろうよ」
肩に手を乗せられて振り向くと男の人がいた。僕はびっくりして尻もちを着いた。「だれなの?」と聞いても言葉はなかった。ただ黙って鉱石の角灯を見ていた。「君はそれをどこで手に入れたんだい?」と男の人は行った。「ひろったんだ」と僕は答えた。「おかしいなあ、それは死の淵でしか見つけられないものなのに」とその人は言った。「君は死でも見たのかい?」
こわくなって僕は全速力で走った。角灯がカタカタと鳴って辺りを照らしていた。「カンパネルラ!カンパネルラどこ!」僕は木の根っこに躓いて大きく転んだ。そして僕は意識を失った。どこかで誰かの呼ぶ声がした。

「・・・ジョバンニ!・・・ジョバンニ!」

目が醒めると僕たちは秘密基地にいた。「・・・君はカンパネルラ?」「そうだよ、ほかにだれがいるっていうんだ」「カンパネルラがいなくなって大変だったんだ」「君は本当に、どこへ行こうとしていたんだい?」「森の奥へ行ったんだけれど、カンパネルラが突然いなくなるから」「気付いたら、ジョバンニがいないから秘密基地へ戻ってきたんだ。角灯はちゃんと持っている?」「・・・あれ、中に入っていた石がない」「どんな石?」「とても良く光る石なんだ。なくすともったいないなあ」「そんな石、初めから持っていたっけ?」「なにいってるんだ、一緒に光るのを見ただろう?」「そうだっけ」「まったく、もうぜんぶ君のせいだ」

そんな風に、僕は鉱石病棟で語ったけれど、それがどこまで本当のことだったのか、今となっては覚えていない。確かなことは、今僕が102号室にいること。そして、これから僕の病名が、告げられるということだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?