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羊文学と氷のホテル

声は透き通るように響いて、今日も一日が終わるように、あなたのことだっていつか忘れる。だから今日のことをどうか、覚えないでいて。

最近音楽をあまり聴かなくなってしまって、代わりに延々と羊文学のアルバムを流している。「音楽を聴かない」という言い方は、一時期浴びるように音に触れて音楽が無ければどこにも出かけることのできなかった頃からすれば、随分と日常の音に紛れてしまったという意味だ。

音楽が救いだった。そこに溢れる感傷や琴線や想像力だけが、唯一の大人になる為の儀式だ。そうではなければ、先には進めなかった。きっと未来には絶望しかなくて、この先にはただ緩やかな上り坂が続いているのだと、思った。そうではないと、音楽を聴いて夢を見た。眠るように音楽に触れて、溢れるように声を歌った。

氷だけの棲むホテルで眠りたい。あなたの肌だけが確かなその住処は、羊文学のアルバムが闇に寄り添うに鳴っている。

氷のホテルには妖精が棲んでいる。氷がいつか命を持つ時には、きっと羽根ペンを取り出して、あなたがいつの日か叶える夢について、あれやこれやのアドバイスをくれるだろう。冷蔵庫がブンと鳴ってコーラが呼んでいる。いつか謳い出した詩の在処は、いつか死ぬ墓の妖精に聞いてほしい。ここには氷しか棲んでいない。

氷の塔は美しい城のように、ホテルには似つかわしくないように尖って、窓だって格子が氷柱のように、光子が煌めいてベッドを照らす。「ありがとう」とお姫様が言うようにティータイムにしてほしい。紅茶だってきっと冷たい。クロワッサンは陽光に照らされて、旅に出る。

「助けて」と謳っていたあなたの声だって、私にはどうやら力が無い、この細い腕には何物も掴めないくらいで、およそ米だって持てない。だからではない、だから独りなのではない、独りだから独りでいたかったのだ、そう許しも命乞いもしていない、ただ存在していたのだ。

アートワークなどはこちらより

羊文学の歪みと美しさ。オルタナティブに輝く邦ロック最前線 | MEETIA http://meetia.net/music/hitsujibungaku-focus-2017/

羊文学『トンネルを抜けたら』インタビュー (2017.09.29) https://1fct.net/interview/interview066#.W2f6VPWQCB0.twitter (via:@felicity_cap)

羊文学「Step」(公式)
https://youtu.be/HC84nW9mpoo

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