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『Nameless Story』④


「トラック運転手 梅澤美波」


「ちっ…詰まってんなぁ」

搬入待ちのトラックの列はピクリとも動かない。待ち時間なんて、この仕事じゃあるあるだ。

「ふぁーぁ…眠っ。んーーっ」

かと言って寝るわけにはいかない。車内で背筋を伸ばし、眠気を追い払う。実はあるある過ぎて、正直もうやることは無い。

「あいつら…元気かな」

スマホの写真フォルダを見返す。特攻服を来た一同は、みんな満面の笑みだった。

レディースの頭を張っていたのは遠い昔。私も気づけば、しっかり働く大人になっていた。

やんちゃばっかしていたあの頃。何にキレていたのかは、もう覚えていない。それでも、当てもなく走った夜道は楽しかった。

“ねぇ、その運転で人の役に立ってみない?”

社長に初めて会った時の言葉が脳裏に浮かぶ。その言葉は今の私の支えだった。

荒れてた私は社長に拾われて、ようやく大人になることができた。

「たまには連絡してみっかなぁ」

感傷に浸っているとコンコンとドアが叩かれる。

「美波ちゃん、お疲れ様。待たせちゃってごめんね」

「全然大丈夫っすよ。それより、何かあったんすか?」

顔見知りの職員さんに尋ねる。

「ちょっと下ろし手が足りなくてね…」

なんだ、そんなことか。私はシートベルトを外した。

「手伝いますよ。そっちの方が好都合っすから」

暇だったから、という理由だけではない。

「ありがとうねぇ。美波ちゃんがいれば百人力ね」

職員さんは次の車に向かった。私は降りてもう1回背筋を伸ばした。

「やりますかぁ」

誰かの役に立ちたい。

そんなこと、あの頃の自分が聞いたら鼻で笑うだろう。

「私も丸くなっちまったなぁ」

自虐的な言葉は誰に聞かれることも無く、青い空に吸い込まれていった。

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