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野球人生「赤石ジョウ編」。短編小説。

プロローグ: 輝き、そして

赤石ジョウの人生は、野球だった。
大阪の超名門高校で4番ピッチャーとして、甲子園大会春夏連覇という偉業を成し遂げた彼は、プロ野球界からも熱い視線を浴びていた。

そして、待ちに待ったドラフト会議。競合7球団の末、彼は東京キングスのユニフォームを手に入れた。夢にまで見たプロの世界で、赤石は新たな伝説を築くことを誓った。

プロ野球界へのステップも、順風満帆に見えた。東京キングスに入団し、プロのマウンドに立った赤石は、新人ながらもその才能を遺憾なく発揮し、デビュー戦で勝利を挙げた。

しかし、彼のプロ野球生活は、予想外の苦難の連続だった。デビュー戦での勝利を皮切りに、7勝2敗、防御率1.77という素晴らしい成績を残すものの、その輝きは長くは続かなかった。

初めは些細な違和感だった肘の痛みが、徐々に彼の投球に影を落とし始める。

それでも彼は投げ続けた。チームの期待、ファンの声援、そして何より自分自身への証明。その全てが、彼をマウンドに立たせ続けた。

ある試合のマウンド上で、重要な局面に迎えた赤石は、決め球のスイーパーを放とうと腕を振り抜いた。

その瞬間、彼の肘から「ブチッ」という音が響き渡った。

痛みと共に、彼のピッチングキャリアに暗雲が立ち込めた。無理がたたり、ついに肘の腱が断裂してしまったのだ。

それから約1年後、手術と長いリハビリを経て、赤石は再び2軍のマウンドに立った。

彼にとって、これは復活への第一歩だった。しかし、運命は再び彼を試す。

大事な場面で再びスイーパーを投じた瞬間、再び肘が「ブチッ」と音を立てた。一瞬の静寂の後、赤石はマウンドにうずくまり、悔し涙を流した。

その年のシーズン終了後、赤石は記者会見を開いた。声を詰まらせながら、彼はピッチャーとしての引退を宣言した。

「この肘では、もう投げられません。でも、僕はまだ野球を諦めません。打者として、東京キングスのために貢献します」と力強く誓った。

第1章:新たな始まり

ピッチャーとしてのキャリアを断念した赤石は、打者への転身を決意し、1年半の間、誰よりも多くのスイングを繰り返した。彼は、打者としての新しい自分を模索し、自らを鍛え上げる日々を送っていた。その努力は、徐々に実を結び始めていた。

2軍の試合の日、赤石は心を落ち着けながらバッターボックスに立った。彼にとって、この一打はただのスタートではない。新たな野球人生の始まりを告げる一打である必要があった。ピッチャーから打者への転身は、多くの人々にとって疑問符だらけの決断だった。しかし赤石には、それを覆す自信があった。

ピッチャーから球が投げられる。

瞬間、赤石のバットが振り抜かれた。

打球は強烈な当たりで、まっすぐに外野席へと飛んでいく。見る見るうちに球場の外へと消えていった。

ホームランだ。

一瞬、球場が静寂に包まれた後、歓声が沸き起こった。赤石の力強いスイングが、彼の新たな野球人生の幕開けを飾った瞬間であった。

この1年半、誰よりもバットを振り続けた赤石。その結果がこのホームランに表れていた。彼の努力が、今、形になって現れ始めていたのだ。

赤石の活躍は、2軍の試合で止まらなかった。その猛烈なホームランの情報はすぐに一軍の監督の耳にも入った。

一軍の監督は、赤石の転身とその後の努力についてよく知っていた。ピッチャーとしてのキャリアを終えた選手が、打者としてここまで成長することは稀だ。しかし赤石は、その稀な例外の一人となりつつあった。

「赤石、彼はただの打者ではない。彼には、特別な何かがある。」

監督は赤石の将来性を高く評価し、彼の更なる成長を期待していた。そして、その期待は間もなく、赤石に対する大きな決断へとつながることになる。

 第2章:一軍デビュー

「ジョウ、お前に賭ける。明日の広島戦、4番サードで出てほしい。」

監督の言葉に、赤石は深く頭を下げた。

「ありがとうございます。絶対、結果を出します!」

この決断は、赤石にとって、予想もしていなかったチャンスだった。一軍の試合で4番バッターとして起用されることは、彼がこれまでにないほどのプレッシャーを感じる瞬間だ。しかし、赤石はそのプレッシャーを力に変えた。昨日までの自分はもういない。今日、新たなステージで新しい自分を証明する時が来たのだ。

試合当日、球場は熱気に包まれていた。

広島戦という大一番で、しかも首位争いの真っ只中。この重要な試合で、赤石が4番サードとして名を連ねることに、ファンもメディアも大きな注目を寄せていた。赤石自身、緊張感を隠しきれないでいたが、内心ではこの瞬間を待ち望んでいた。

赤石の一軍デビュー戦の初打席は、二回裏に訪れた。

スタンドからは彼を応援する声が大きく響き渡る。対戦するのは、広島のエース投手。速球でチームを牽引する彼に対し、赤石はどんなバッティングを見せるのか。全ての目が赤石に注がれた。

初打席、赤石は心を落ち着け、広島戦のマウンドに立つエース投手の投じる球に集中した。初球は空振り。速球に振り遅れたものの、赤石の目には冷静な光が宿っていた。彼にはまだチャンスが残されていることを知っているかのようだ。

次の球、投手はさらに強気のストレートを投じた。その瞬間、赤石のバットが振り抜かれる。

「カーン!」という響きと共に、打球は美しい放物線を描きながら、バックスクリーンへと吸い込まれていった。

スタンドは一瞬の静寂に包まれ、次の瞬間、爆発的な歓声が球場を埋め尽くした。打者としての初打席で、初本塁打を放ったのである。

その後の2打席目、3打席目は凡退に終わったが、赤石の表情には動揺の色はなかった。そして迎えた4打席目、試合は最終局面に差し掛かり、東京キングスは逆転のチャンスを迎えていた。ベースには2人のランナー。この一打が、試合の命運を分ける。

赤石はバッターボックスに立ち、深呼吸を一つ。対する投手も、この大一番のプレッシャーを感じながらも、最高の一球を赤石に投じた。しかし、その球は再び赤石のバットに捉えられ、

「カーン!」という音と共に、今度は逆転のスリーランホームランとなり、またしてもバックスクリーンを破った。

一夜にして、赤石は東京キングスの救世主、いや、プロ野球界の新たなスターとして戻ってきたのであった。彼の伝説的な一軍デビュー戦は、チームメイトやファン、そして野球界全体に衝撃を与えた。

試合後、ヒーローインタビューで赤石は言った。

「ただいま帰ってきました。これからが本当のスタートです。皆さん、応援よろしくお願いします!」

その言葉に、スタンドからは大きな拍手が送られた。赤石の復活と転身は、多くの人々に感動を与え、新たな野球の歴史が始まった瞬間だった。

第3章:チームの変革と試練

赤石の一軍デビュー戦での衝撃的な活躍後、東京キングスの雰囲気は一新された。チームメイトたちも新たな意欲を持って、日々の練習に取り組むようになった。しかし、この新たな風は試練ももたらし、特に赤石に対するマークは日に日に厳しくなっていった。

ある日の練習後、赤石はチームのベテラン選手、佐藤と話をする機会を持った。

佐藤「おい、赤石。お前のおかげでチームの雰囲気がガラッと変わったな。みんな、お前に刺激を受けてるよ。」

赤石「ありがとうございます。でも、まだまだです。チームを勝利に導けるよう、もっと頑張らないと。」

佐藤「その精神、見習いたいもんだ。ただ、気をつけろよ。他チームもお前のこと、しっかりマークしてる。特に、お前のバッティングにはな。」

赤石「はい、分かってます。でも、それが僕にとってもチームにとっても、いい挑戦になると思ってます。」

佐藤「そうか。お前のその姿勢、チームにもいい影響を与えてる。お前がいると、みんなも前向きになれるんだ。」

赤石「チームのためにできることを精一杯やります。佐藤さんも、これからもよろしくお願いします。」

この会話を通じて、赤石とチームメイトとの間には強い絆が生まれていたことが分かる。そして、チームは困難な時期も乗り越える力を内に秘めていた。

連敗を重ね、一時は首位争いから脱落しかけたが、赤石の努力とチームメイトたちの支えがあって、東京キングスは徐々に形勢を逆転させていく。困難な時期を経て、チームは再び首位争いに加わり、リーグ優勝の可能性を秘めるまでに回復した。赤石の存在が、チームに新たな活力をもたらし、困難を乗り越える力を与えたのであった。

第4章:最終戦、そして結末

シーズンの終盤、東京キングスと広島レッズの間での激しい首位争いは、ついに最終戦まで持ち越されることになった。その最終戦は、まさに両チームの運命を左右する試合となった。地元広島のスタジアムは、この大一番を目撃しようと満員の観客で埋め尽くされていた。

試合開始早々、赤石は先制の2ランホームランを放つ。その一打は、彼らの勝利への強い意志を示すものだった。しかし、その後の展開は予想外のものだった。広島レッズは徐々に点を重ね、ついには逆転に成功する。それでも、東京キングスは諦めなかった。最終回、粘り強い攻撃でランナーを満塁にし、そして、その大事な場面で赤石が打席に立った。

赤石はこれまでにない集中力を発揮し、広島の抑えのエースが投げ込んだ決め球のフォークを見事に捉えた。

カキーンという打球音は、彼の全力のスイングを物語っていた。

しかし、打球は思ったよりも上がらず、、セカンドが反射的に頭上に出したグラブに弾丸ライナーが、ギリギリ収まり、アウト。

ゲームセット。
優勝は3年連続で広島レッズとなった。

地元広島のスタジアムは歓喜に沸き、その一方で、赤石や東京キングスのチームメイトたちは、言葉を失うほどの悔しさに包まれていた。シーズンを通じての努力、そして最終戦まで持ち越された熾烈な首位争い。その全てがこの瞬間、悔し涙となって流れた。

しかし、この結果が東京キングス、特に赤石にとって意味のないものではなかった。彼らはこの悔しさを糧にしてさらに強くなることを誓い、来シーズンへの強い決意を新たにした。赤石はチームメイトに向かって言った。

「皆さん、頭を上げましょう。今日のこの悔しさを忘れずにいきましょう、そしてこれが俺たちのスタート地点です。来年は絶対に、俺たちの手で優勝を勝ち取りましょう。」

その言葉は、チームメイトたちの心に深く刻まれた。彼らは敗北を乗り越え、より強い絆で結ばれた。この最終戦は、ただの終わりではなく、新たな始まりの瞬間だったのである。

その年の赤石の成績
70試合 打率333 本塁打31本 打点81 


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