君に贈るプレゼント

「環くん、ちょっといいかな」
「おー」
環は真剣な面持ちで部屋に入ってきた壮五に、また何か自分一人で抱え込んでいるものがあったな、と思った。
「どした?そんな思いつめた顔して」
「単刀直入に聞くね。環くんは今欲しいものとかある?もうすぐ誕生日だから」
「覚えててくれてたんだ」
それが何だか嬉しくて。
「俺もそーちゃんの誕生日覚えてる」
「そうなの?」
「当たり前だろ。俺そーちゃんの相方だし」
「ありがとう、環くん。僕のことは今いいんだ。環くんの誕生日の方が先だから、先に聞かせてほしいんだ。環くんのほしいもの。なんでも用意するよ」
なんでも、と聞いて環は目を輝かせる。
「王様プリン何個でも買ってあげる」
「マジ?!」
でもすぐにうーんと考えた。
「それだといつもと変わんねーじゃん」
「そうだね。まだ少しあるから考えててほしいな」
「本当になんでいいの?」
「うん。僕が出来ることならなんでも」
本格的に考え始めた環に、壮五は微笑んだ。
「じゃあ僕はこれで」
邪魔しちゃ悪いだろうと部屋を出ようとした壮五を
「そーちゃん、思いついた」
と引き止めた。
「俺、あんたと遊園地行きたい!」
「遊園地?環くんが?僕と?」
「え?ダメ?なんでもいいって言っただろ」
「もちろんいいけど。環くんが行きたいなら」
その時環はにかっと笑う。
「そーちゃんおすすめの遊園地」
「僕は遊園地に詳しくないよ」
今まで育ってきた壮五の環境を考えれば、それもそうかと環は思う。
「じゃあさ、俺が調べる。ゆきりん、ももりんに聞けばどこか知ってそうだし」
確かにRe:valeならよさげな遊園地を知ってそうだ。何しろ、【あの】Re:valeなんだから。
「そういうことなら僕が聞くよ。主役の環くんにさせるのは違うから」
「そ?なら任せる。楽しみにしてるな!」
「僕も楽しみにしてるよ。じゃあおやすみなさい」
「おー」
じゃあなと手を振って、環は壮五を見送る。壮五が部屋を出る時環を振り返った。環はそれを見てまた笑う。
「そーちゃん、まだここいる?あんたならいくらでもいていいよ」
「環くんは明日学校でしょ?」
「いいって少しくらい」
な?と笑った環に、壮五はほんの少しだけ考えた。
「難しく考えずにいたいだけいれば?」
「じゃあお邪魔しようかな」
環が嬉しそうにする。壮五も鏡写しのように嬉しそうに綻ばせた。

環の誕生日は元々IDOLiSH7はオフだった。そして自分らもオフだから案内するよ、ということで何故かRe:valeの二人とダブルデートすることになった。
待ち合わせの遊園地の入場ゲート。先にRe:valeが来ていて、環と壮五の二人を見つけるとおーいと百が手を振った。
「環くん、壮五くん。今日はよろしくね」
まだ冷えるね、なんて千は笑っている。
「よろしくお願いします!」
恐縮しきりの壮五が勢いよく腰を折った。
「壮五、気楽に行こ気楽に!てか、ごめんね。本当は二人だけが良かったと思うけど、壮五も環ももう人気絶頂アイドルだから狙われやすくてさ。四人なら大丈夫だろうし、なんかあったらオレらのせいにしていいから」
「俺達狙われてんの?」
「MEZZO"は万からも念押しされてるし」
「よろしくお願いします!ほら、環くんも」
またがばっと頭を下げた壮五に言われて、環も軽く頭を下げた。
「よろしく。ゆきりん、ももりん」
じゃあ出発!と元気な百の号令と共にスタート。さりげなく手を繋いだ千と百を見た環が壮五を見る。壮五は
「どうしたの?」
と聞くから、Re:valeが手を繋いだことも、それを環が見たことも気づかなかった。
「俺らも手繋ぐ?」
環がRe:valeを指さす。
「ここでは……!」
「ゆきりん達繋いでるよ」
「お2人はいいんだよ。普段からあんな風に仲良いから。でも僕達が繋いだら言い訳できないよ」
「そーちゃんは俺と繋ぎたくないの?」
う、と一瞬壮五は言葉につまる。
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあいいじゃん」
「やっぱりダメだよ」
「あーもーそーちゃんは考えすぎ」
環は壮五の手を取った。
「環くん!」
「置いてかれるよ」
その証拠に、千と百は少し先で立ち止まって待っている。ほら、と壮五の手を引っ張って、Re:valeの元に向かった。

最初に4人が向かったのはジェットコースターだった。
「これ乗るの?」
先に声を上げたのは千。
「絶対楽しいから!」
「そーちゃんも乗るよな?俺1番前乗りたい!」
「僕はいいから、環くんだけいっておいで」
「多分、僕と壮五くん、意見が合うね」
積極的に乗りたい百と環。あまり乗りたくない千と壮五。
「ねー、ユキお願い」
「そーちゃん、一緒に乗ろうよ」
「モモ、1人で行ってきて。僕は壮五くんとここで待つ」
「千さん、お供します!」
お供という壮五の言葉が面白かったのか、千が笑いだした。そんな千を容赦なく百は引っ張る。
「モモ!」
「俺達も行くよ!そーちゃん」
百に続いて環も壮五を引っ張る。
「ええ?!」
「1番前は後輩に譲るよ、環、行っちゃって」
「やーりー」
猛スピードで走るし、ぐるんと急旋回もする。環と百は大いに喜んで楽しく声を上げていた。
「楽しかったね!ユキ」
「そうね……」
「最高だったな、そーちゃん」
「そうだね」
環がにこにこ笑っていて、それを見た壮五は小さな笑顔を浮かべた。そんな壮五を見た千と百は顔を見合せて笑う。気づいてないのは環だけだった。
「次!コーヒーカップ!」
「楽しそう!」
環は目を輝かせる。
「これならそーちゃんも乗れるよな」
「大丈夫だよ」
「モモ、ハンドル勢いよく回しそう」
「任せて!」
ということで、千と百、環と壮五に別れてコーヒーカップに乗った。
スタートするとガンガン回す百に習うように、環もガンガン回していく。
「楽しいー!」
「環くん、回しすぎだよ」
「回した方が得じゃね?」
ぐるぐる回るコーヒーカップ。体が合わせて揺れるから、並んで座る2人の体が時折触れる。
一瞬、環の手と目が離れた瞬間に壮五が今まで環が回してた方向とは逆に回した。
「おわっ?!」
「油断しちゃだめだよ、環くん」
「負けてらんねえ」
コーヒーカップが止まるまでお互いで回しあって楽しんだ。
激しいものには乗りたくないと言い出した千に、百が提案したのはメリーゴーランドだった。それなら、と千は軽く馬に跨る。
「ダーリン最高にかっこいいよー!さすがユキ!めちゃくちゃお馬さんに似合ってる!」
「そーちゃんも乗って!そーちゃんも似合うから!」
「う、うん」
環に促されて馬に跨った壮五は
「どうかな?」
と遠慮がちに聞く。
「すーげー似合ってる」
環が声をかけたところで、メリーゴーランドが回り始めた。
千が百の前に来る度に手を振ってるのを見て
「俺にも手振ってー!」
と環は壮五に向かって手を振る。
壮五がそれに気づいて手を振った。
「いえーい!」
嬉しそうに両手で更に手を振っていた。

一旦お昼休憩をすることになった。
「お腹空いた!」
「俺も!」
「なんでもお食べ」
フードコートに陣取って、お昼ご飯を食べる。
壮五は先輩2人に緊張してる様子だったが、環はいたって普通にハンバーグを食べていた。
「どう?楽しんでる?」
百が聞いた。
「めちゃくちゃ楽しい」
「僕も楽しいです」
「よかった」
「僕も楽しいよ、モモ」
遊園地は賑やかで、目先の楽しみだけを追っているからか、誰1人この4人がRe:valeとMEZZO"だとは気づいてない様子。
友達同士のグループで来てる人も多いから、4人で遊んでいても目立たないのかもしれない。
人目を気にしないでいられるのは楽だった。
次はどのエリアに行こうか、なんて相談していた千と百だったが
「2人はどこか行きたいとこある?」
と聞いた。
「い、いえ!」
「俺も楽しめればなんでもいいよ」
「じゃあユキ。オレ行きたいとこあるんだ」
そう言った百が連れ出したのはお化け屋敷だった。
「嫌だ、僕行かない」
着いた途端千がごね始めた。
「僕も遠慮したいな」
壮五も及び腰。
「だめだよ、遊園地って言ったらお化け屋敷でしょ」
「そんなの聞いたことないんだけど」
「そーちゃんが一緒じゃないとやだ」
「僕はいいよ」
また千と壮五、百と環で分かれている。
「壮五くん。あそこにベンチあるし、音楽の話でもしながら一緒に待ってようか」
「是非……!」
「ユキ、浮気」
「そーちゃんゆきりんといたいの?」
百は千を捕まえるし、環は壮五を捕まえた。
「行くよー!」
「おー!」
千と壮五はなす術がなかった。
お化け屋敷から出た2組は、千がげんなりしているし、壮五も静かだ。対照的に、百と環は
「楽しかったねー」
なんて話している。
「壮五くん。僕ら頑張ったよね」
千が壮五に手を差し出した。
「はい」
その手を壮五が握った。その後ろから
「ゆきりんずりー」
という環の声が聞こえてきた。
そのあともアトラクションを制覇する勢いで回っていき、一通りアトラクションを制覇した後。
「ユキ、オレ休憩したい」
と百が言い出した。
「そうね、僕もそろそろ疲れた。環くん」
「何?ゆきりん」
「あそこでソフトクリーム売ってたんだけど、僕らで買いに行かない?奢るよ」
奢る、と聞いて環は目を輝かせた。
「やったー!そーちゃん、ゆきりんが奢ってくれるって」
「ありがとうございます、千さん」
「いえいえ。じゃあ環くん、行こうか」
「おー」
しかし千は少し歩いたところで足を止めた。後ろを振り返って、百と壮五から自分達の姿が隠れてることを確認すると
「環くん、ソフトクリーム買うってのは口実で君に話したいことがあって」
と切り出した。
「あの大きな観覧車わかるよね?」
「わかるけど?」
「あの観覧車、デートスポットで有名なんだ。夜景、凄く綺麗なんだよ。僕たち、二人で乗りたいし、君も2人で乗りたいと思わない?」
「まぁ乗れるなら」
環は千が何を言おうとしてるか分からない。
「だからね、この後は別行動。元々君たちのデートのカモフラージュで僕らは来てるし夜なら暗闇に紛れられる。それに壮五くんも君の誕生日をお祝いしたいなら2人で回りたいはず。僕だってモモを1人で楽しませたいしね。モモ、あの観覧車凄く楽しみにしているし。誕生日おめでとう、環くん。ここからが本当の僕らのプレゼント」
「ゆきりんかっけー」
「そうでしょ」
「俺もゆきりんみたいになりたい。かっこよくなって、そーちゃんのことゆきりんがももりんにするみたいに大事にして幸せにしたい」
千はそんな環に目を細めた。
「もう環くんはかっこいいよ。それに壮五くんのことを大事にしてるし、幸せにしてる。今日君の隣にいた壮五くん、楽しそうだったし幸せそうだった。あんな壮五くん、僕は見た事ないよ。だから自信もって」
「あんがと!ゆきりん」
「あ、あともう1つ」
「まだなんかあんの?」
ふふ、と千は楽しげに笑う。
「僕らRe:valeからもう1つプレゼントを用意してある。それは壮五くんがくれるよ。最後まで壮五くんとの誕生日デート楽しんで」
「ゆきりん最高!」
「よし、ソフトクリーム買いに行こう。あまり待せるわけにいかないからね」
ソフトクリームを4人分、それぞれがそれぞれの恋人の分を持って百と壮五の元に行く。
「ゆきりん、俺そーちゃんと来れて嬉しいし楽しいんだ。きっかけっていうの?くれたRe:valeにまじ感謝」
「本当いい男だね、環くん」


「綺麗だね、環くん」
壮五が観覧車から外を眺めている。その壮五の目がキラキラしてるように見えた。
観覧車の中に入れば静かだ。
人のざわめき、遊園地のアトラクションの飾り、電飾、はたまた、遊園地に続く道路に止まる車のテールランプ。
それらがゆっくり、ゆっくりと遠ざかっていく。
その一つ一つは小さな宝石のように、夜の闇に溶け込んでいた。
時折揺れるゴンドラ。
密閉された空間。
壮五の目は外に向けられたまま。
最初こそ壮五に相手にされず拗ねたくなっていた環は、今、壮五の目に何が写っているのか。それに興味が湧いた。壮五にそっとそっと近づいて、ぴたりと壮五の横に顔を並べた。
壮五は気づく様子がない。
だから、環は黙っておくことにした。驚かせたい、というのもあるし、この後するべきことにはいいきっかけになる。
ゴンドラが最頂点で寸秒止まる。
「1番上についたな」
「そうだね、環くん」
そう、壮五が振り返った時。そっと触れるだけのキスが落ちる。
「そーちゃん油断しすぎ」
そう、これをしたかった。
観覧車に乗る前、千からラビチャが届いていた。
『これは壮五くんには内緒ね?この観覧車、1番上でキスをしたカップルは永遠に結ばれるっていうジンクスがあるんだよ。僕も頑張るから環くんも頑張ってね』
千の言葉をまに受けたわけではないが、千が言うなら信じてみてもいいかなと思った。
それ以上に驚いた壮五の顔が可愛かった。
ガコン、とゴンドラが揺れて、環と壮五の乗ったゴンドラは下降していく。
「楽しいな、そーちゃん」
「うん、楽しいね」
にこにこと笑ってゆっくりと下降していくゴンドラから2人で並んで近づいてくる景色を眺めた。



「ここ景色いいな」
夕飯も終えたレストランのテラス席。まだ春と言えど夜はまだ冷える。それでもテラス席を選んだのは、眺望がいいというRe:valeのお墨付きだったからだ。
このレストランもRe:valeからオススメだった。味も美味しく雰囲気もいい。さすがRe:valeなだけあるとどちらかは思う。
ただ、高校生の環には少し背伸びしたレストランで、店内に入る時ほんの少しだけ躊躇いを見せていた気がする。
「綺麗だね、環くん」
言葉少なに、互いを見ることなく言葉を交わす。環はテーブルに頬杖ついていた。
「そーちゃん」
おもむろに環が壮五を呼ぶ。
「どうかした?」
壮五が環を見た。が、環の視線は外に向けられたままなので、壮五も外に視線を戻す。
「遊園地、あんがと。楽しかった」
「僕も楽しかったよ。環くんが楽しんでくれたのなら一緒に来てよかった」
少しだけ、無言の時間。
なぁ、と環が口を開いた。
「小さい頃に母親に連れられて一回だけきたことあるんだ。まだ理もすーげー小さくてさ。その後父親のこともあって、理とも離れ離れになってすっかり忘れてた。あの時の俺達、楽しく笑ってたの思い出した。楽しい記憶、あんたが思い出させた。そーちゃんと来てよかった」
「環くん……」
「そーちゃん、誕生日に俺と遊園地来てくれてあんがと」
環はいつものようににかっと笑って少しだけへへと笑う。
「僕も環くんの誕生日にこれてよかったよ。僕からの誕生日プレゼント、気に入ってくれたみたいで嬉しいな」
「最高だった」
春の風が吹いて、二人の髪を揺らす。
壮五がくしゅんと一回くしゃみをした。環がそれに笑って
「帰ろ、そーちゃん。風邪ひかれたらやだし」
と普段ほかのメンバーには見せない優しい瞳で壮五を促す。
「そうだね。環くんに心配かけちゃう」
「別に」
レストランを出て、自然と手を繋ぐ。
「そーちゃんは誕生日どうしたい?」
「僕達仕事だよ」
「マジか。でもお祝いさせてくれよな」
「考えておくね」
寮に帰った時、どこからともなく誕生日おめでとうの言葉と
「タマ、ご機嫌だな」
なんていう大和の声が聞こえてきた。
「まぁな」
自慢げに答えると壮五と顔を見合せて笑い合った。

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