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振り返れば歩いてきた道 #N1グランプリ2020

 なにやら耳に入ってきた自画自賛イベント、N1グランプリ。

 年の瀬に一年を振り返ろう、という話はよく聞くけれど、自らを振り返って褒めちぎろう、というこのむちゃくちゃに前向きな姿勢。最高であります。振り返る、省みる、と言うとどうしても「反省」という視点になりがちだけれど、反省しすぎると良かったところを見失う。ここはいっちょ、「褒めねばならん」という制約を設けて自画自賛しよう、という試み。楽しい。

 振り返りましょう。2020年。

 とはいえ、note を振り返るだけなので、わたしはnote に登録した4月以降のものを振り返ることになります。最新情報で投稿記事は243本。たぶんこれが下書きに入っているのを含めての243本だと思います。

 実は今朝からこれを振り返って、あとで振り返ってみるのに見づらいと感じたので、カテゴリごとにマガジンに分類しました。カテゴリは創作、エッセイ、雑記、定点観測、映画レビュー、の5つ。作品のメイキングとか制作秘話みたいなものは雑記に、連作のあとがきみたいなものは創作に入れました。現状、詩は数が少ないので詩と小説はまとめて創作カテゴリに。今後もっと違う文芸をやっても一旦全部ここにまとめておきます。なお、note には中、長編は書かない(1万字を超える場合はNOVEL DAYS 等他サイトに載せます)ので、小説は短編のみです。

 さて、分類もできたのでいざ、私的ベスト10を。選定基準はほんとに独断。自分の思い入れの度合い、シンプルに自分が好きかどうか、という尺度で選定しました。

第10位

 変わり続ける町で失われゆく光景。その中にかつていた自分。思い出がぼやけて形を変えていくにつれ、景色も変化してしまう町で、はたしてその思い出は実際に起こった出来事なのか、はたまた妄想に過ぎないのか、自分の記憶を疑いたくなることがありますね。80%ぐらい実話のこの話を、不思議な空気感で描けているでしょ。いいんじゃないこの雰囲気。

第9位

 三島由紀夫の作品へ言葉を寄せた小沢健二、の企画もの文庫本を購入して再読し、三島由紀夫の作品を引きながらも小沢健二を称える文章。いやあ、我ながらいいね。この倒錯した構造。要約すれば「オザケン最高」ってことなんだけど、そこに三島を持ち出してきてあーだこーだ言いつつ、さらに、この限定版の帯のついた文庫を買ったことを自慢し、もちろん三島のこの作品自体は前から持っていることも強調する。エグい。「わかりやすい」とか「すっきり」とかからだいぶ遠いところにある文章。これがわたしの味だわ。くどいの。もちろんめっちゃ褒めてる。

第8位

 読書は量より質だよね、ということを妙な感じの権威を引っ張り出してきて語るというスタイル。最近で言えば平野啓一郎が「小説の読み方」っていう本で、やはりゆっくり読むことの良さを説いている。

 こっちを引いた方がnote 的にもいいじゃない、どう考えても。でもあえて宮沢章夫で行くところがいい。なぜなら、平野啓一郎はしっかりじっくり読むことを説いていて、宮沢章夫は読むことからどんどん脱線するから。読み始めるまでに連載を何回消費するんだ、というところからぶっ飛んでいて、やはりわたしが引くならこっちであると。病的な表紙も最狂だし。

第7位

 ちょっとした思い付きで適当に書いてみたのを読み返してみたら自分で「すげえんじゃね?」と思って出したやつ。長いところから収斂されていって最後「幻」になるということだけ考えて、note の画面幅いっぱいからスタートしよう、という風に書いたもの。思い付きで書いたものが良かったからたいして推敲しなかった。天才か。

第6位

 長編の書き出し部分、という想定のもの。続きはまだない。あっさりしているのに部屋の臭いが、けっして良い匂いではない臭いが漂ってくるような空気感があるでしょ。起きて髭を剃っただけでこの男が「自分」と乖離している感じがわかる。この人物は多重人格で別人に身体を明け渡してしまうのだけれど、現実には多重人格でなくても自分の身体性と精神性が乖離している人が増えているから、この感覚はたぶん「わかる」っていう人がいると思う。

第5位

 もうね、わたしのnote ライフを大幅に変えた一本。おそるべきことに、これを書いた時点ではカエデさんとはほとんど交流もなく、ほぼいきなりこの熱量で押し寄せたという…。当初女性だと思われていたのが良かったような気がする。このまとめは、けっこう隠れた名作を紹介してると思う。この中で紹介している作品、どれも粒ぞろいなので読んだことないものがあれば読んでみてほしい。これを書いたのをきっかけに、いろいろなnoter さんに知ってもらえた気がする。

第4位

 いや、マジでうまいわ。これも長編の冒頭という設定で、続きはまだない。この800字を読んでもどういう話なのかさっぱりわからないけど、長編のつかみとしてこのキャラはいいんじゃないの、という気がする。謎のじじいもいいし。謎のじじいのイメージは完全に映画の『アジャストメント』なんだよね。トンマをなんとかしたような中華料理屋で麻婆定食を食いながら思いついたシーン。「象を去勢するような辛さ」ってのは自分的に会心の比喩。

第3位

 私的隠れた逸品。登場人物の性別を隠したまま物語が成立するか、という試み。このぐらいの長さならいいのだけど、性別を感じさせない会話文というのは単調になりがちで、性別は感じさせずにキャラクタ性だけ感じさせるというのは至難の業ではないか、ということがわかった作品。でも雰囲気がいいし、ピンク・フロイドの「狂気」の使い方がいいでしょ。Tシャツが明るみに出ている間、違う時空がやってくる。

第2位

 いいわあ。下北沢に漂う独特の雰囲気があるし、人物がみんないい。「おれ」が少し薄くて、その周りに濃いやつらが集まる。でもちょっと薄い「おれ」がいないとこの四人は繋がらない。そういう関係がいいし、こういうものを書かせたらうまいわ。粗野なんだけど雑なわけではないこういう語り手が得意かな。まともな人間として書くならこういう人物が書きやすい。

第1位

 もうダントツこれ。これまでにnote に書いた作品で一番好きなのがこれ。これもスマホで見ると成立しないけども。文字を読まずに「見る」という体験を提示したかった。これを「俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺、うむ、17文字ある」とか読む人はまずいないだろう。文字をちゃんと追わなかった時点で書き手の術中にある。文字は読むことで言葉になり、言葉になることで意味を得る。しかし文字をどのように並べるかで、言葉と文字を切り離し、文字から意味を剥奪することができる。この作品を読まされると普段文章を読むときに前提にしている常識のようなものが瓦解し、すっぽんぽんで渋谷の交差点に立っているような気分になる。

 わたしは「文章」の底に必ずあると思われているパンツを脱がせるようなものを書きたい。そのパンツこそ、楽園を追放されるきっかけとなった禁断の果実だからだ。

まとめ

 2020年、4月に始めたnote で実に243本もの文章を書き、たぶんこれが大晦日までまだ増えると思うと壮大ですね。note の周辺もいろいろとざわついたりしてますが、わたしは常々「作家と作品は別」と思っているので、仮に犯罪者の作っているサービスだったとしても気に入れば使う。ヤク中の作家の作品だって好きならば読む。良い作品を作った人がロクデナシだろうとヒトゴロシだろうとかまわない。罪を憎み、人もけっこう憎むかもしれないけれど作品は憎まない。だからcakes がアホだろうとnote がタコだろうといい。サービスとして使いやすく、ここでしか交流できな人がいる限りは使うのである。

 とはいえ、我々の課金した金でテロを起こすとかいうことになったらさすがに考えると思うが。

 2020年はけっこう「毎日更新」を意識して書いたけれど、2021年は毎週ぐらいまで頻度を落とします。さすがに長い作品に挑む時間が不足してきているので…。

 でもスタエフやるしついったもやるしnoteも週一ぐらいは更新するので皆さんよろしくお付き合いくださいませ。

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