[映画]17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

 今夜のU-NEXT は『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』。2018年、オーストリアの作品。

 描かれているのはフロイトがウィーンからロンドンへ亡命する直前という時代。働くためにウィーンへ出てきた若者と、老フロイトの交流を描いている。1930年代終盤、ドイツ軍による侵攻が始まる時代ということでナチスの台頭といった情勢は描かれているものの、主軸はあくまで主人公の青年と老フロイトの交流にある。

 ここに登場するフロイトは穏やかな風貌のプロフェッサーであり、葉巻を楽しみながら青年の相手をする老紳士として描かれている。しかしこの時期、フロイト自身もかなりひどい状況を超えてきているし、亡命する直前ということでこんなふうに穏やかでもいられなかったのではないかという気はした。

 未熟な若者を通してフロイトを描くという意欲的な試みではあるものの、当時の社会情勢、ウィーンの置かれた状況、青年の未熟な恋愛、老フロイトの言葉など、どれも中途半端で、結局この作品はなにを一番伝えたい作品だったのか、ということがはっきりしない。タイトルは邦題としては「フロイト教授人生のレッスン」となっているけれど、肝心のフロイト教授は主人公の青年にたいしたことは言わない。なんらかのアドバイスっぽいことは言うけれど、それはフロイトならではという言葉ではない。フロイトの人生レッスンであるとするならば、もっとフロイト自身の主張に照らした内容でじっくり青年と会話するシーンなりが必要であったろう。

 ただ、フロイトを演じたブルーノ・ガンツの遺作だそうで、彼の演じたフロイトを世に遺したという意味は大いにある。このフロイトは一般にフロイトとして知られている人物像よりもだいぶ柔らかいし、本人の肖像と比べても、表情も柔らかい。フロイトらしいのかと言えば微妙ではあるけれど、ブルーノ・ガンツのフロイトだ、という意味ではやはりこれが見られたことは嬉しい。

 印象としては『小説家を見つけたら』や『グッドウィルハンティング』など、青年をお爺さんが導く作品に近い。そこにナチスが絡んでしまうことでテーマが取っ散らかったような気がする。

 フロイトは登場するがフロイトを描いた作品ではない、と言えそうだ。

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