[映画]転がるビー玉

 今夜のU-NEXT は『転がるビー玉』。2019年の作品。

 何者かになりたくて、何者でもない自分に焦りを覚える。努力は身を結ばず、歩みゆく道は先細りしていていつの間にか身動きが取れなくなる。抱いた夢はいつしか降ろせない荷物と化し、ひたむきに生きる自分を押しつぶそうとする。はてしなく夢を見せる町、東京。その、日の当たらない場所に光を当て、ビー玉のようなわずかなきらめきを集めようとした作品だと感じた。

 渋谷の解体寸前のマンションをルームシェアして暮らす三人の女性。編集者、シンガーソングライター、モデル。いずれも駆け出しで、見果てぬ夢を抱きながら日々を懸命に生きている。この作品は彼女たちの日常を、匂い立つほどのリアリティで描いている。東京で夢を追いかけたことのある人なら、小さなシーンの一つ一つが自分の思い出と重なるかもしれない。

 続けるということが才能だ、とよく言われる。でも本作には、「諦める才能」という言葉が登場する。続けられるのは才能だ、という言葉は残酷だ。なぜなら、続けられるのはたしかに才能ではあるのだけれど、それだけでは夢をかなえることはできないからだ。そして「叶えられるだけの才能」も「諦める才能」もなく、「続ける才能」だけがあった人は叶わない夢を追い続け、取り返しのつかないところへ追い込まれる。この、夢を追いかけることのマイナス面はあまり語られることがない。しかしこの作品はそこにスポットを当てる。彼女たちは三人三様の夢を追いかけているけれど、このエンドロールの後、その夢を叶えそうな人物はいない。なんとか折り合いをつけて続けていくのか、あるいはすっぱり諦めて別の道を行くのか。

 苦しみながらも時に衝突し、時に笑いあい、支え合える友を持っている彼女たちは強い。ルームシェアというのは必ずしもうまく行くとは限らないけれど、この三人の場合、一緒に暮らすことのプラスの効果がとても大きいように見える。本作のポイントの一つは、三人のルームシェアがもうすぐ終わる、という設定にありそうな気がする。再開発による解体が決まっているマンションで、いずれ退去しなければならない。それをわかった上で、三人での暮らしが営まれている。

 ラストシーンの後、おそらく三人は別々の道を進むことになるのだろう。彼女たちがそれぞれに幸せになることを願ってやまない。

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