見出し画像

店長、煙にまかないで .1

大人の階段を登らして店長。

私、もう十七歳、タバコだって吸えるの店長。
私を追い返さないで店長。
あなたの吸口が欲しいの。






高円寺はいつでもゲロの匂いがする。


人間的なゲロ。
こんな街で安酒を飲んでる人間なんて大したものを食って育ってないんだ。まともな教育も受けてない。

まともな人に育つわけがない。


自分の彼女に
「お前は月、そんで俺はお前を照らす太陽だから。」

そう言ってペアのタトゥーを入れるやつなんてまともなわけがないんだ。



健二郎と別れてもう3ヶ月が経った。
家からやっと健二郎の匂いが消えた。


それでも、私の腕に彫られた月が消えない。
太陽はとっくに消えたのに。


今日、ゲロの匂いに目をつむって高円寺に来たのは
やっと月を消滅させるお金が貯まったからだ。


作るのにも消すのにもお金がかかる。
タトゥーを考えたやつを滅ぼしてやりたい。
月も太陽も地球も健二郎も、

全部全部滅ぼしてやりたい。


どこかで拾った流木みたいな看板に
「TATOO RAIN」
と書かれたその店は、東高円寺の商店街の外れにあった。

店内に入るといかにも大麻をやってそうなやつの音楽がかかっている。


「誰??」


誰……?そっちこそ誰だよ。
突然声をかけてきたその失礼な男は、どうやらこの店の店員のようだった。




「…14時に予約した朋音です。」


「……。」



「トモ…ネ……??」


外人みたいに発音するな。いや、外人なのか?もしかして。



「もしかして、モネちゃん??健二郎の元カノの」


なんで?
なんでここでその名前がでてくるの?


どこまでいっても健二郎が消えない。


まるであの日、私の家のカーペットに健二郎が吐いた
ゲロの染みのように。







~続く~




神保町にあるシーシャ屋さんのスタッフが暇な時に書いています。
この記事はフィクションです。実在の団体、個人には神に誓って一切関係がありません。

本当かどうか、ぜひシーシャ屋さんにいらしてください。
感想も来店もお待ちしています。

スタッフ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?