WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』第39話 シーン2 ネーム&3分で読めるレイルロオドのお話「動けぬハチロク」
8月といえば夏。
夏といえば怪談でございます。
わたくしは怖い話あまり好きでも得意でもないので、そうした話を上手にお伝えすることはできません。
のですが
「怪談」をテーマになにか書きたいなぁ、と考えたとき、思い出したエピソードがひとつございますので、それをご紹介いたしましょう。
数年前。シナリオ執筆中のことです。
「このシーンは最後まで書ききってしまおう」的なことをわたくし考えながら指を動かしておりました。
……本当に執筆に没入しているときにはもちろん、そんな余計なことは考えません。
たただたキャラクターたちの動きを逃さず、そのセリフを聞き逃さないよう、ひたすらに集中して物語を紙に落としていくのみです。
つまり「なんとかこのシーンを書ききってから休もう」的なことを思ってしまっているときにはもう、集中力が落ちてしまっているわけです。
そういう状態下での執筆ですので、ミスも出てきてしまいます。
【ハチロク】「そぎゃんこつ! にぃにに言われたくなかと!!」
的なことをわたくしやらかし。やらかしてすぐに気づきます。
「話者違いだ」
上のセリフはもちろんのこと
【日々姫】
が正解なのです。
ので、カーソルを"ク"の右側にもってってバックスペースキーを4度押し、しかるのちに"日々姫"とタイプしなおす。
そうしなければならなかったわけです。
しかし、そのときのわたくしはなぜか思ってしまいました。
【ハチロク】を【日々姫】に置換しよう、と。
そうして置換ウインドウを開いたわたくしは、【ハチロク】【日々姫】と入力し、ほとんど手癖でCtrl+Aを押してしまいました。
すると当該の【ハチロク】が【日々姫】に置き換わります。
わたくしはほっとし、シナリオをそのまま書き進めてファイル保存して。
書き終えて小休止し、見直しをはじめた瞬間に気づいたのです。
「修正したかった部分だけではなく、シナリオ中の全てハチロクのセリフが残らず日々姫のセリフになっちゃってる」
ということに。
かなりの量を書き進み、ファイル保存してしまっていた状況ですので、Ctrl+Zで戻ろうにも戻りきれません。
【ハチロク】を【日々姫】に全文置換したところで、状況は少しも改善されません。
ので、わたくしは全てのセリフを確認しなおし、誤って【ハチロク】となってしまったところをひとつずつ【日々姫】ともどしていくほかございませんでした。
……書いてて思ったのですが、これは面倒なだけであって、さほど「怖い」話ではございませんね。
サーバー管理者の方やクラウドエンジニアの方は恐らく、これとは比較にならないほどに怖いお話、たくさんしってらっしゃることかと存じます。
――みなさまもどうぞ、一括処理とか上書き保存にはくれぐれもお気をつけくださいましです。
さてさて。
こちらも凡ミスによる手戻りを結構発生させてしまったことがある、
WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』のネーム&字コンテ、、
前回は第39話「増発! 増発! 増発!」のシーン1を公開いたしましたので
今回はシーン2をご紹介いたします。
オリヴィパイセンのカッコいいとこが見られるシーンでございます。
メンバーシップ特典記事とはなりますが、よろしければどうぞご笑覧いただけますと幸いです。
でもって短いお話は「うっかりミス」をテーマに書いてみたいと思います。
登場するレイルロオドは、ハチロク。
どなたにも無償でお読みいただけるお話となりますので、もしよろしければご笑覧ください。
■ハチロク■
旧帝鉄8620形蒸気機関車トップナンバー機8620専用レイルロオド。
現所属は御一夜鉄道。
しっかりもので有能なことは間違いないが、だからといって完璧な存在であるわけもない。
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『動けぬハチロク』
「ふ……ぁ……ぁ……」
「おつかれだな、ハチロク」
「あ、いえ、大変失礼いたしました」
噛み殺したつもりでしたが、漏れてしまっていたようです。
「こう単調な時間が続くと、やはり眠たくなってくるよな」
「――双鉄様にはそのようなご様子見えませんけれど」
「いいや、僕もだいぶんぼーっとしてきている」
おっしゃりながら、双鉄様はご自身のシャツの胸元を――
「あら」
「さっきうっかりこぼしてしまった。麦茶もなかなか染みるものだな」
「早く脱いでお着替えになられたほうがよろしいのでは?
シミはたしか、すぐに水洗いすれば軽減できると習ったような」
「そうなのか? ではそうしてこよう」
とくに急がぬ足取りで、双鉄様が居間を出ていってしまわれます。
一人になると――
「ふあ――あ――ふああああああああああああ」
……ああ、大きなあくびが出てしまいたした。
双鉄様がいらっしゃらないと、わたくし、随分はしたなくなってしまうものですね。
「ですが……この仕事量です」
増発となって増えるのは、乗務回数だけではございません。
それにともなう乗務報告書等等の書類作成も、比例して増えてしまいます。
「……どれほど面倒でもレヱルショップで書いてしまうべきものですね、やはり。
持ち帰るだけでこれほど捗らなくなってしまうだなんて」
「戻ったぞ」
「あら!」
「日々姫と真闇姉が持たせてくれた。
僕らそれぞれに差し入れだそうだ」
双鉄様の手のお盆の中には、大きな石炭と、大きなおにぎり。
湯呑みに入った真水とお茶と。
「集中も切れてしまったことだし、腹にいれてから再会するか?」
「あ、ですが……」
あとほんの3項目。
それだけ埋めれば、ひとまずの区切りがつくところまで来ています。
「あと少しだけ進めてからだと、わたくしは」
「なら、そのようにするがよかろう。僕はお先に小休止だ」
「はい」
……あと少し、なのですけれど、その少しをなかなか終えられません。
双鉄様が美味しそうにお茶を飲む音、おにぎりをお食べになる音、上質の瀝青炭の乾いた香り……
どれもがうずうず、わたくしのお腹を刺激します。
(……ですが、あと少しなのですから――あ!)
そうしましょう、思うと同時に聴覚、嗅覚センサを切ります。
これなら嫌でも集中できます。
あと2項目――あと1項目――――――っ!
「区切りがつきました!」
言うと同時に手を伸ばします。
双鉄さまがひどく驚いたお顔でなにか
「あむっ――っ!!!?」
これ、違う――石炭じゃっ!? って、そうだ、センサを切りっぱなしで――
「ハチロク! お前おにぎりを」
「あわっ、あうっ――ンッ――えっ」
しっかり噛んでしまっています。
少しくらいは飲み下しても、無理やり燃やせそうですが――
「動くなハチロク。あーんしろ。いいか、噛むなよ?」
「あーーーー……っ!!?」
双鉄様の長い指が、わたくしの口を……
口内のごはんつぶを、丁寧に取り除いてくださっています。
「ほうへふはは」
「しゃべるな。大丈夫だ。話ならあとでいくらもしよう」
「はひ」
……じいっと動かず、動けずにただ、双鉄様に身を任せるだけ。
(ご迷惑をおかけして……恥ずかしくって、申し訳なくて、なさけなくって――)
けど、だけど――
(……それに幸せを感じるなんて――わたくし、浅ましいレイルロオドです)
;おしまい
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いかがでしょうか?
ほっと気が抜けた瞬間こそが、うっかりミスとの逢魔時な気がします。
「もう少しで家だ」等々、そうした瞬間こそに、お互い引き締めてまいりましょうです。
そんなこんななWEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』。の過去話。
どなたにも無償でご確認いただける0~7話はこちらで
それ以降のまとめはメンバーシップ特典で
それぞれお読みいただけますので、よろしければどうぞご笑覧いただけますと幸いです。
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