『3分で読めるレイルロオドのお話』ハチロク稀咲の担保教室&WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』第10話全ネーム&字コンテ公開
WEBTOON作品『レヱル・ロマネスク0』の第10話、金策のネーム&字コンテの方、今回でひととおりまとまりますので、全部一気にメンバーシップ特典として公開させていただきます。
無償で確認できるネーム等についてはこの下で書く「3分で読めるレイルロオドのお話」のあとにご案内するよういたします。
さて。
今回の短いお話は、ネームの方で登場してくる「担保」がなにか――
正しく理解できているかどうか甚だ不安なハチロクが、
専門家である稀咲に教えを乞う、という内容になっております。
よろしければ、どうぞご笑覧いただけますと幸いです。
■宝生稀咲■
湯医学園の学園生にして、隈元銀行御一夜支店長を務める才女。
父が頭取であるため「親の七光り」と見られがちだが、
そのレッテルを自力で剥がすだけの優秀な実績をあげ続けている。
「ほしょう」と口にしたときに、話の流れから
「保証」なのか「補償」なのか「保障」なのかを正しく読み取れるかを、
相手がどの程度の金融知識を有しているのかの判断材料のひとつにしている。
■ハチロク■
旧帝鉄8620形蒸気機関車トップナンバー機8620専用レイルロオド。
旧式機+事故修復機というダブルハンデを負っているため、性能面やメンタル面には不安なところを抱えるものの、
気品、立ち居振る舞いに秀でたものをもつ、日ノ本撫子なレイルロオド。
資産というものを所有するようになったのがつい最近なため、金融知識は乏しい。
■「ハチロク稀咲の担保教室」■
(あらすじ)
ハチロクに問われ、担保について解説する稀咲。
話の流れから、元忠は双鉄のどこに担保価値を認めたのかを
熟考していくこととなります。
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「元忠様からあったとお伺いしたのです」
「父から? 何が?」
「双鉄様を担保に、というお話が」
「ああ、あったね、確かに」
父も随分な物言いをするなと感じたけれど――
ハチロクくんにしてみたら、どういう伝わり方をしたにせよ……
「それで、心配になった?」
「いえ――心配うんぬんというより先に」
ハチロクくんの形の良い眉が、良い形のままへにょんと下がる。
「その……わたくし、きちんと理解できてないように思いますので」
「なるほど? 『担保』について勉強したいということかな」
「はい」
ほっとした顔。
「稀咲様ならきっと、間違いのないご教示をくださるのではないかと考えまして」
「まぁ、ね」
担保についての理解をせずに、融資を行うことはできない。
「約束の不履行により損害が生じる可能性があるとするよね……
例えば、ハチロクくんが――」
ハチロクくんの所有物というなら、一つしか思い浮かばない。
「8620を、他の鉄道会社に貸さねばならなくなったとする。
双鉄がその約束を強いられた、などしてね」
「はい……双鉄様がお約束をされてしまったのなら、わたくしに異論はありませぬ」
「貸したことに対しての謝礼は発生するとして――
貸している間に故障でもされ、それで御一夜鉄道での営業運転に支障がでたらただごとではないよね」
「もちろんでございます。万一そのようなことになってしまいましたら……」
少し待つ。
けれど続く言葉は出てこない。
――剣呑極まるハチロクくんの目つきが、言葉よりもなお雄弁に、なにかを物語っているようだけれども。
「ただごとでは済まない。だから、その”ただごと”で済ませないために、損害が生じた場合の補填物を予め用意しておくのさ。
それが、担保」
「はぁ……」
わかったような、わからないような返事だ。
できるだけ理解しやすくと運んだつもりだったけれども、最後で少し急ぎすぎてしまったのかも。
なら、もう少しだけ言葉を足そう。
「8620を10日間他者に貸し出す。貸出料は100万円。貸出中に8620が営業運転できなくなってしまった場合の担保として、営業運転不能の間に代走できる、他の機関車を用意してもらう」
「あああ! 左様なものでございますか。担保とは、つまり……あらかじめ、差し押さえ物件を用意いただいておく」
「ああ、うん。その理解で大丈夫」
担保という言葉がピンとこなくて、けど差押えなら理解できてる。
つまりがそれは、ハチロクくんが経験を重ね続けてきた――帝鉄末期のひとつの景色なんだろう。
「では、元忠様に双鉄様がお金を借りて、双鉄様がそれを返済できない場合には――双鉄様が元忠様に差し押さえられてしまう?」
「双鉄が担保となることを了承した場合、という前提もつくけど――そうなるだろうね」
「差し押さえられますと、双鉄様は転売されてしまうのでしょうか?」
「いや、転売する――つまり金銭的な利益を求めるのであれば、双鉄を担保に求める必要はまったくない」
でなくて、人的担保……言い換えるなら、右田真闇氏あたりの資産家を保証人とするよう求めればいい。
「だから、転売等が目的ではなく。差し押さえが叶ったのなら、父は双鉄を手元に置きたいのだろうね」
「それはどうしてでございましょうか?」
「どうしてってそれは――」
優秀な人材に決まってるから。
――言おうとした言葉が喉に絡まって、それで疑問を自覚する。
(優秀な人材というのなら、それこそ右田真闇氏を担保として求めるべきでは?)
人的担保――金銭的な補償をさせるという役割ではなく、
物的担保――ハチロクくんの称するところの、差し押さえられる人材として。
(真闇氏ではなく、双鉄ならではの価値……若さ? 体力? それらも別に代替できる人材はいくらでも確保できるだろうし)
となると、性格的な部分かな? ボクの思考とはかなり小気味良く噛み合うし、例えばボクの補佐役だとか――
「んぶっ!?」
「稀咲様!?」
思考をなめらかにしようと口に運んだ紅茶。
それがそのまま、なめらかになりすぎた思考によって、口から吹き出しそうになる。
「どうされたのですか?」
「いや、その――ちょっと咳き込みそうになってね。
喉の調子が今ひとつなのかな。ごほんごほん」
「まぁ、お大事になさってくださいね。
と、申しますか――」
ああいけない。
ハチロクくんが腰を浮かせかけてしまった。
このこは本当、人間よりもよほど人間らしい気遣いをしてくれる。
「……ああ、うん。ごめんね」
普段だったら引き止める。
けど――説明すべきは説明したし。
「ボクは少し、熱っぽくなってきちゃってるから」
;おしまい
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冒頭ご案内した、無償でご覧いただける
『レヱル・ロマネスク0』0~7話ののネームはこちらとなります。
よろしければどうぞご笑覧ください。
(それ以降のまとめはメンバーシップ特典です)
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『レヱル・ロマネスクゼロ』の字コンテ掲載時には、その字コンテがネーム化されたもの、および推敲過程でボツになった未公開ネーム画像などがあるときには、そうしたものも公開していきたく思っております。
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