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『ボージャック・ホースマン』ベストエピソード40選

最近気づいたんだけど、noteってもっと日記とか雑記として使うのがオタクたちのなかでは主流らしいね。(今更)作品紹介とかガッツリ考察書くのはブログでnoteはもっとあっさりした文章を扱うのに長けてるっぽい。今期アニメ視聴と積んでる海外ドラマを両立させたいところだったんだけど、11月は馬アニメに夢中で両立なんて出来ませんでした... 
ボージャックについて書けば、それはすなわち11月分の日記になると思うので今回は、『ボージャック・ホースマン』で印象的だったエピソードを忘れないうちにまとめて書いておこうと思う。できるだけ短く、簡潔に。

前回のnoteでは、日頃深夜アニメを主食としているフォロワーの1人でも多くに、なぜ世界が馬アニメに熱狂しているかを伝えたいとポップな感じで書こうとしたんだけど、今回は観た人向けにがっつりネタバレ込みで淡々と書いていく。


以下ネタバレ

シーズン1

「今を生きろ、ダイアン」(シーズン1-5)

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帰ってこなきゃいい。 ロサンゼルスのいいところはな、誰も人の出身地や素性を気にしないところだ。 気にするのはプールの掃除とかサラダにかけるナッツの種類だとか下らんことばっかさ。(ボージャック)

ダイアンの毒親もとい毒家族を巡る回。4話までの軽い雰囲気が一気に消えて、『ボージャック・ホースマン』らしい暗さが物語に漂い始めてくる。ダイアンは作品を通して"裏"ボージャックと呼べるくらい根本の部分が似ていると思うのだけどそれを証明するきっかけになったエピソードだと思う。ダイアンは、毒家族から離れるため故郷のボストンからLAに移ったが、取り残した家族のことを気にかけている。父親の死体を撒き餌にしてしまうくらい救いようのない家族でも今でもどこかで認めてほしいと願っている彼女の複雑な心境が何とも切ない。ボージャックが「良いエンディングなんて現実の世界にはないし、そんなものスティーヴン・スピルバーグが売れる映画のために作ったものだ」と言い切るのが好き。

原題"Live Fast, Diane Nguyen"は、"Live fast die young"(太く短く生きる)が元でダイアン→die youngという言葉遊びから来てるっぽい。同じボストンが舞台のグッド・ウィル・ハンティングネタが何個かある。

それにしても、当社オススメの「クソ親父パック」をそれでも勿体ないって断ったら「クソ親父でも勿体ないパック」を勧めてくる葬儀屋って一体何なんだよ笑

「望遠鏡で見えたもの」(シーズン1-8)

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いいか、これで幕引きなんかさせないぜ。わかんねえのか、お前はお前のやったことを後悔しながら生きていけ。 生きてる限りずっとな。 絶対に絶対に許されない。 そう思って生きていくんだ……俺は死ぬ、気分なんて良くならねえ。 だからってお前が気分良くなる道具にもならねえ……どんな気分だったと思う。 皆んな離れた、一人残らずだぞ。 仕事の電話がなくなったのは仕方ない。でもお前は?……仕事なんてどうでもよかったんだ。 大したことじゃない。 人生悪くなかったよ、でもあのとき俺には友達が必要だった。なのにお前は逃げたんだ。 俺はそれを絶対に許すことができない。 さあ、とっととここから出てってくれよ!  (ハーブ)

これは権力と裏切りを誇張した物語...ではなく、ボージャックが昔の親友ハーブを久々に尋ねる回。ハーブは駆け出しのころ、ボージャックの仕事仲間であり、有名にしてくれた恩人のような存在。そんな彼は、ゲイであることが世間に知れ渡ってしまい、まだ同性愛への理解もなかった時代ということもあって業界から干されてしまう。結果的にハーブを裏切ってしまったことは、シーズン1で明かされる最も大きな後悔であり、今後もボージャックの回想で何度もハーブは登場する。何だかんだ許してもらえるみたいな安易な終わり方を選択せず、エピソード全体に緊張感が満ちていてかなり印象的だった。

80年代のボージャックは、重度なアルコール依存症の今とは対照的にお酒を断って飲まない。初登場のシャーロットに、LAはタールの上にある美しい街で知らないうちに沈んで手遅れになるのよって例え話されたけどなにも理解してないボージャック... そうなんだよな、もうシーズン1の時点で沈みきってるんだよなって2周目でこの言葉の重みに驚いた。

Now get the fuck out of my house!(さあ、とっととここから出てってくれよ!)のセリフでこの作品初めての"fuck"が使用されている。脚本家はシーズンに1回しかこのワードを使わないと決めていて、しかもそれはボージャックと誰かの関係が修復不可能なときのみ使うとなっている。

「バッドエンド」(シーズン1-11)

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ダイアン、君に遅くないって言ってほしいんだ。 俺、君にいい人だって言って欲しいんだ。 俺は自己中でナルシストでヤケになるけど、でも俺も根っこのとこはさ、いい人なんだ。 君にいい人だって言われたいんだ、ダイアン。 頼むから言ってくれよダイアン、あなたはいい人って。  (ボージャック)

ボージャックは自伝を書き直すためにトッドとサラ・リンを呼び、ドラッグの助けを借りながらも執筆を試みる回。アニメならではのトリップ体験の描写には、ボージャックの罪悪感、トラウマ、不安をこれでもかと見せつけてきて怖い。サイケデリックな世界を抜けぼろぼろになったボージャックはダイアンへ「どうかいい人だと言ってくれ」と懇願する。

この回のボージャックの感情の掘り下げ方の巧みさや悲惨で苦い感じが心を打って『ボージャック・ホースマン』にのめり込むようになった。最終シーズン以外、どのシーズンもエピソード11は、内容がヤバいんでまだ観てない人は覚悟した方がいいと思う。

Death Grips - No Love(トリップしてたときの挿入歌)


おい、あんた「馬か騒ぎ」に出てた馬だろう?

「また後で」(シーズン1-12)

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実はいい人だって思ってる? (ボージャック)

そこなのよ。 私“実は”って信じられないの。 あなたがやってることがあなたの全てだと思う。    (ダイアン)

映画でもドラマでもないのに自叙伝が「ベストコメディorミュージカル」部門でゴールデングローブ賞を受賞してしまう回。『セクレタリアト』の主演も手に入れ、かつてハーブと成功を誓った場所グリフィス天文台でボージャックは馬の少年にヒーローだと言われ、サインを求められる。かつてボージャック少年が憧れていたセクレタリアトは、悲しいことがあっても前に走り続けるんだ、全てのものは君の前にあると言い残し、結局は自殺してしまった。ボージャックは、彼のように子供からヒーローと呼ばれる存在になれたがそれと同時に欠点をいくつも抱えている。真っ直ぐ走り続けるボージャックの行き着く先は、彼のロールモデルと同じ自死なのか、それとも彼なりの終着点を見つけられるのか気になる幕引きになっている。

世界を変えたい、自分の幸せを見つけたいと思っているダイアンにミスター・ピーナッツバターが「僕は、君の味方だけどそんな妄想の国に探し物なんてきっとないよ。世界は残酷で非情な場所なんだ。幸せとは人生の意味を見つけることじゃなくて、下らないバカバカしい日常を忙しく過ごして最後に死んでいくことさ。」って核心をついたひとことをサラッと言うのが好き。(その後すぐトッドと1月しか開いてないハロウィンショップやるぞ!って通常運転に戻るのも面白い)

The Rolling Stones - Wild Horses(挿入歌)

Tegan and Sara - Closer(エンディング曲)


この賞に相応しいのは実際書いたダイアンだって言いながら最後までずっとゴールデングローブ賞トロフィー握りしめてるボージャックに笑う。


シーズン2

「生まれ変われば」(シーズン2-1)

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お前と喧嘩はしたくないんだよ。 ただこれだけは伝えとかなきゃと思ってね。幸せになりたいのはわかる。 でも無理なんだよ、ごめんなさい......だけどそれはお前のせいじゃないんだ。 お前はお父さんと私の両方の醜いところを引き継いでしまったんだから。 生まれたときから壊れてたんだよ、お前はね。 だから今になって本を出したり映画に出たり恋人を探したりって新しいことをやって自分を満たそうとしてもお前は満たされない。 お前はボージャック・ホースマン、それは変わらないんだから。  (ベアトリス)

自己啓発のオーディオブックを聴いて無理に明るく振る舞い、人生を変えようとしたら肝心の演技が出来なくなってしまった回。アバンで流れるボージャックの暗い過去から始まり、ボージャックの母ベアトリスとの描写が子供時代、「馬か騒ぎ」時代、現在と映し出される。ボージャックは母の言った偉い人になることができたかはわからないが、TV俳優として成功したにも関わらず決してベアトリスはボージャックを認めようとしなかった。ボージャックが、50過ぎになってまで自己啓発の音声を聞いて人生を変えようとしている根底には、母に愛されたい(認められたい)という願いがあってのことだと明らかになったと思う。それなのに、最後のベアトリスがボージャックに言ったセリフは「お前は生まれたときから壊れている」であってそれを受けての映画でのセリフ「何やってんだよ」は非常に重く、心を抉られるような気分になる。いや〜シーズン2も1話からドぎつい。トッドは癒し

「やり直せるなら」(シーズン2-3)

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無意味な死は恥じることじゃない。 皆死ぬんだから。 (ヘンリー・ウィンクラー)

ハーブの葬式が行われ、久々に「馬か騒ぎ」の家族が再会する回。ハーブが3人の子供たちに残した手がかりを元にハーブが残したかったものを探しにいく。次に葬式で会うときは一番年上のボージャックのときだろうねみたいな話をしてたのにそうならなかったのが何とも悲しい。子役の一人ジョエルは、ブロンドでアメリカ人なのにこてこてのブリティッシュアクセント、そして肥満体型...こんなキャラクターどこかで見たことあるなと思って考えてたら『フレンズ』に出てくるモニカとフィービーの旧友アマンダと特徴が全て同じなんですよね、多分パロディネタ。サラ・リンが義父から性的虐待を受けていたことを示唆する描写がある。まずは、ジョエルとサラ・リンの子役時代の会話で「学校には通っていない」「ママの恋人で写真家の彼が家庭教師」だということがわかる。次に、義父はクマだと明かし、毛を舐めてこれはクマの毛だと断定したことである。そして極め付けは、胸とお腹のあたりに手がプリントされているデザインの服を着ていることだ。この要素については、物語全体を通しても回収されなかったネタだがほぼ確実と言ってもいいだろう。ボージャックに父親像を求めたのにそのボージャックと性的関係を持ったこともこれなら納得できる。『ボージャック・ホースマン』の世界は、動物たちが立って生活しているので二足歩行(Pedo)のクマ(bear)→Pedobear→Pedophilia Bear(小児性愛のクマ)とも読み取れる。サラ・リンのこうした過去を念頭に彼女のエピソードを振り返ると本当に胸が痛む。

「知られざる素顔」(シーズン2-7)

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もちろん私のことはみんな知ってるさ。 私はハンク・ヒパパポタス。 君は誰だ? (ハンク)

ダイアンが大御所の司会者に関する告発をし、トッドは国際問題に巻き込まれる回。シーズン1では、ダイアンvs.毒家族だったが、今回はダイアンvs.男性権力者で男性優位の権力構造について風刺したものとなっている。国民的人気俳優に対するダイアンの告発に対してワイドショーの司会者は、今まで8人のアシスタントが告発した事実を無視し、「いやでもその告発した女性たちはどんな犯罪歴を持ってたのです?」「どんな容姿?」などと問題の本質を無視した反論をしてくる。世間も「バカなブスは黙って引っ込め」、「バカで可愛いだけなんだから引っ込んでろ」と言った告発内容よりも告発した人間の外見に対する反応ばかりでダイアンには誰も味方をしてくれない。そしてトドメは、コルドビア行きの飛行機を待つ疲れた顔をしたダイアンに隣の男性が「笑顔で」と声をかけ、物語は終わる。ハーヴェイ・ワインスタインやケヴィン・スペイシーへの告発が行われる前にエンターテイメント業界の抱える闇を描いた驚異的なエピソードとなっている。

通常、物語とはとくに関係ない騒ぎを起こしているトッドも今回は違く、国際問題を引き起こしているのにメディアはひたすらダイアンの告発を扱っているなどといったマスコミや国民の興味がいかに的を外れたもので真実は世間になかなか広まらないといったことも示唆している。

『ボージャック・ホースマン』を好きな理由のひとつに物議を醸すテーマを扱う際に両サイドに対して皮肉るといった姿勢が好きなのだけどこのダイアン回でも見てとれる。例えばダイアンが告発記事の味方を得るためにマナティ・フェア誌を訪れたとき同じ女性のキャロラインが「私はいつもあなたの味方でしょ 女はこういうとき団結しなきゃ...あらフルーツ!」といった言動は、フェミニズムを本当に理解していない浅はかな女性たちに苦言を呈している。また、女性編集長アマンダ・ハニティも「女が意見を持つのはタブー、綺麗にして笑っていればいい」なんて思ってる男性に気をつけなさいと言いつつ、すぐ部下に「ダメ、このモデルはこっちより美しくないから変えて」と容姿至上主義の男性のような命令をして、矛盾した部分を引き出してる。自分自身ボージャック以外のメインキャラで一番好きなのは誰かと聞かれたらダイアンと答えるくらい好きだし、彼女のフェミニストとしての立場もほとんど肯定的に受け入れているけど必ずしも全てが正しいといえる事柄はないとエピソードを通じて伝えているような気がした。何はともあれ社会派コメディの一面を存分に発揮している回だった。

「蘇るシーン」(シーズン2-9)

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弟が死んだって聞かされたの、自分のせいでね。 でもそれだけじゃない、ここからセクレタリアトは走るのをやめた。 それは気づいてしまったからなのよ。自分のなかで何かが壊れたって、もう元には戻らないってね。 (ケルシー)

ニクソン図書館にケルシーたちと忍び込み、ゲリラ撮影をする回。アバンで語られる回想シーンでは、子供ボージャックが「これはお前が存在してることへの罰」だよと母ベアトリスに煙草を吸わされ咳き込んで泣いている。それに対し、今のボージャックも同じように煙草を吸い泣いているがそこに込められた意味合いが全く異なっている。ボージャックの「俺じゃ無理と思ってたろ?」に対するケルシーの返答"No, I knew."(いいえ、わかってたわ)は、たった3単語だけどボージャックに何よりも寄り添う言葉で彼女と別れたあと男泣きをする姿にグサッときてしまった。そしてそんなケルシーと結果としてハーブと同じような形で別れてしまったのも切ない。
悲しむボージャックに声をかけてほしいアダルトな大人と言えば...

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「元気出してよ、君はいいお馬さんだから」

あと裏で大暴れしているマーゴ・マーチンデールさんが面白過ぎる。

無名でも結構いい生活できてる全ての個性派俳優のための戦いよ!私が流す血は皆のため!!私は個性派俳優のマーゴ・マーチンデール!!!

いくら人間と動物が一緒に住む世界といえど『ボージャック・ホースマン』に出てくるキャラクターは、リアルとは程遠い突拍子もない行動するキャラがいなく、マーゴ・マーチンデールさんの凶行はとくに目立って楽しい。

「L.A.からの大脱走」(シーズン2-11)

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やめて、よくもこんな... 30分以内に出ていって、さもなきゃ警察を呼ぶわ。それから今後、私や私の家族に近づいてきたらそのときはあなたを殺すから。 (シャーロット)

ハリウーの毎日に疲れ果てたボージャックがニューメキシコの旧友シャーロットに会いにいく回。長年望んでいた『セクレタリアト』の撮影は上手くいかないし、恋人ともいつもと同じパターンで別れるなどそんなLAでの生活が嫌になって唯一人生で良かったと思える記憶を辿ってニューメキシコまできたボージャック。シャーロットの家族の一員になるかのように2ヶ月間一緒に過ごすが、娘ペニーのプロムの日に事件は起きる。

ボージャックが、友達の未成年の娘に手を出しそうになったのは相当マズいし(法的にOKでも)、その前に本命のシャーロットから振られてその悲しみを埋めるかのように彼女に手を出したと見られてもおかしくない状況だったのは尚更良くない。LAから離れて場所さえ変えれば、自分自身も変えることができると望んだけどアルコールによって築かれる最悪なボージャックをよりにもよってシャーロットに見られてしまい、この事件は彼の大きな後悔の一つとして刻まれた。シーズン1-11のドラッグでトリップしたときにボージャックの幸せだった未来の幻覚では妻として登場していたのはシャーロットだった。彼にとってシャーロットは最後の可能性だったのに見事にぶち壊してしまったボージャックは、何を思うか。OP曲とともにLAに帰るサングラスをかけたボージャックの裏でどんな感情が渦巻いているか想像するだけで心痛い。このシーン、ブレイキング・バッドのシーズン5-15のラストシーンを思い出させた。(私たちの知ってるウォルターはいないとTVで言われていつものOPが流れ始めるところ)

てか、アルコールで意識不明になったマディと付き添いのピートを病院に置き去りにしたことがまさか後の重要な人間関係の伏線になるとは...

初めていつものOPが流れなかったエピソード。Green Day - Good Riddance (Time of Your Life)の歌詞、"It's something unpredictable but in the end is right. I hope you had the time of your life"がなぜかガンジーの言葉として本に書かれてる。

シーズン2におけるFuck使用回。シャーロットの"I will fucking kill you."で使用された。

「海へ」(シーズン2-12)

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だんだん楽になる。毎日少しずつ楽になるさ。毎日やらなきゃいけないのがツラいとこだがな。でもだんだん楽になる。 (ジョギングしてるヒヒ)

LAに戻ったボージャック、独立したキャロライン、カルト船にとらわれるトッド、ダイアンは家に帰る回。まだ修復可能なトッドとの関係のためにボージャックは海へ船を出す。

このエピソードを選出した理由の90%は、いつもジョギングしているヒヒのおじさんがボージャックに投げかけた"It gets easier...everyday it gets a little easier...but you gotta do it everyday, that's the hard part. But it does get easier."(訳上記)とエンディングでコートニー・バーネットが流れたことにある。

Courtney Barnett - Avant Gardener(エンディング曲)


シーズン3

「ボージャック・ホースマン・ショー」(シーズン3-2)

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ちょっとヤダ、2007年って今が2007年?ムートンブーツで仕事に行かなきゃ (プリンセス・キャロライン)

「馬か騒ぎ」から11年後、2007年での出来事を振り返る回。ボージャックは過去の自分のイメージを捨てようと「ボージャック・ホースマン・ショー」を制作することにするが...
過去にタイムトラベルするエピソードはどれも楽しい。2007年のポップソングだったりファッションだったり細かいところまで作り込まれてる。ダイアンとピーナッツバターの出会い、10代のトッド、エージェントにようやく昇進したキャロラインなどボージャック以外は新鮮。タツノオトシゴミルクのCMの仕事をピーナッツバターが受けたとこが判明するなど後のエピソードの伏線になってる小話も盛り込まれている。私は、あなたの「馬か騒ぎ」好きだったけどねとキャロラインに言われやっぱやりたくない!となるも時すで遅し。
“Whassup, bitches!”(吹替:お前らアホばっか!)が部屋に鳴り響く。

♪ Back in '07 I was in a not-successful TV show ♪

「ボージャック最高」(シーズン3-3)

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無力さを思い知らされた......人はときに自分自身の幸せにも責任がある......私は幸せだ。生まれて初めてね。そのことに後悔はしない。自分が本当に惨めなことに気づくには時間がかかる。でもずっと惨めでいる必要なんてない。人は何もかも捨てたときにだけ幸せになる方法を見つけることができるんだ。 (カドリーウィスカーズ)

シャチ・ワールドのダンサーの死体を発見したボージャックは殺人の濡れ衣を着せられる。犯人は誰なのか?ダイアンと捜査を進めていくと、事件は思わぬ方向に舵を切っていくサスペンス回。ユダヤのお祭りで踊ってるボージャック、本当にお前ボージャックか?と聞かれてボージャック・ダンス披露するボージャックを見ることができる。(“Do the BoJack”いつでもすぐ流せるようにしてるボージャックさん...)

自分のことを何度も惨めだとこれから認識することになるダイアンとボージャックにカドリーウィスカーズが辿り着いた先の教えはどう影響するのかっていう視点で考えると実は意味のあったエピソードな気がする。

「水もしたたるイイ男」(シーズン3-4)

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ケルシー、生きていく上で仲間との絆は貴重だ。クビになったのは、オレのせいだよな。連絡しなくてゴメン。 (ボージャック)

紛う方なき神回。ボージャックは、「セクレタリアト」のプレミア上映のため、水中映画祭に参加する。ストーリーは、ちょっと切なくも心温まるタツノオトシゴ赤ちゃんとのファンタジックな冒険、何度もケルシーにコンタクトを取ろうとするも思いは届かない『ボージャック・ホースマン』らしい苦い物語の2つの構成で成り立っていて、実はずっと話せたというオチまで完璧。22分間セリフがほぼ無くても、幻想的な水中世界の美しさがあるため視覚的にも飽きない。

ボージャックの不器用な生き様みたいなのがサイレントな世界だと余計際立っててやっぱこの馬のこと好きだなと改めて思った。まさかボージャックが赤ちゃんにミルクをやる日がくるとはシーズン1のときベビーカーひっくり返したときには夢にも思わなかった笑
「蘇るシーン」(S2-9)でケルシーがボージャックを信じてくれた貴重な友人の一人であったことを踏まえるとハーブと同じような形でボージャックが連絡せずに人生から彼女から消えてしまったのは本当に切ない。

TIME誌の2016年度年間ベストTVエピソードに選ばれた。
第69回全米脚本家組合賞 アニメーション部門、第44回アニー賞にもノミネートされた傑作回。

Oberhofer - Sea of dreams(エンディング曲)

「謎深き恋愛と結婚」(シーズン3-5)

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そう、それだよその通り妥協。そうじゃなきゃ、そのうち歳を取って気難しく孤独になる。その心の穴を埋めようとして、友達や仕事や愛のないセックスに頼る。でも穴は、埋まりはしない。そしてある日、周りを見渡して気づくんだ。皆に愛されてる、でも誰にも好かれてないって。それってとてつもなく寂しいもんなんだよ。  (ボージャック)

トッドとボージャックは、知らない人の結婚式の前夜祭に飛び入り参加し、ダイアンはドラッグでトリップ、キャロラインはブラインドデートをする回。

ボージャックが、説得するときに言ったセリフ"everybody loves you, but nobody likes you"はたとえあなたがハリウッドの人気俳優ではなかったとしてもSNS時代の今は刺さる人が多いのではと思った。
子供なんて絶対持ちたくないって散々言ってたダイアンの妊娠が判明し、Motherf--からの ♪ Back in the '90sでエンディング曲の入り方が完璧すぎる。

(吹替だけどダイアン声変わった?)

「炎上ツイート」(シーズン3-6)

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でも冗談にしてしまえば、少しは怖くなくなるよね。 (待合室にいた少女)

--ucker! ダイアンの爆弾発言ツイートが元になって、ポップスター・セックスティーナが注目の的になり、「中絶」を巡って論争が起きる回。ダイアン回といえば、「知られざる素顔」(S2-7)で女性の告発問題があったけど今回もかなり重厚なテーマを扱ってる。医者が妊娠中絶手術の前に、「赤ちゃんの好きな色が青にもう決まってる」ことを告知したり、「可愛い子犬の動画をBGMはsarah mclachlan - i will remember youで20時間母親のダイアンだけで見てもらう」ことを強要したりするシーンなどがあり、中絶のときにいかに母親だけが懲罰措置を受けているかを訴えている。重いテーマをコメディタッチで描くのがこの作品の特徴だが、中絶手術を生放送でやります!有料放送で!胎児役はエディ・レッドメインでいきましょう!とか相当ぶっ飛んでるエピソードだった。

本当は結婚したいし、子供も持ちたいけど仕事が生き甲斐なキャロラインが自分にはないものを持っている愛する夫がいて、子供も産めるダイアンにチクッと嫌味を言うシーンがあるけど最後は、「誰にも説明する必要なんてないのよ」って仲直りしてノリノリで仕事モードに切り替えるところが好き。

余談だけど、Brrap Brrap Pew Pewの曲一度聞くと耳から離れない。吹替で見てるひとは字幕の原曲の方も聴いてほしい。

シーズンに一度しか言わないFワードの件だけど、前エピソードと今回で区切られているのでノーカンだと思われる。

「ご相談承ります」(シーズン3-7)

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人の素の姿を見るのって物悲しいものだ。気持ちも冷める。 (ボージャック)

読みもしない新聞の購読を止めようと電話をかける回。新聞社クレーム担当のエキスパートで最終兵器"クローザー"が、ボージャックの近況を聞くことで物語は進んでいく。野球以外のクローザーというと、ニューヨークNo.1クローザーこと『SUITS』のハーヴィー・スペクターを思い出してしまう。

アート・ギャラリーでの一件のあと性格俳優マーゴ・マーチンデールが何をしていてたかがついに明らかになる。逃走中に『グッド・ワイフ』にゲスト出演してたとか破天荒過ぎる笑
現実のマーゴがこのエピソードを見て大爆笑してる動画。

「今までに起こった最高のこと」(シーズン3-9)

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あなたは自分を可哀想だと思ってるマゾ野郎なのよ。私が良い事を10個言ってもたった1つの悪い事をいつまでも覚えてるんだから。(プリンセス・キャロライン)

ボージャックとキャロラインがレストランの危機を救いながら、過去を振り返り、お互いの関係を見つめ直す回。ボージャックがキャロラインに「君のことは、俺が他人を愛せる限界までは愛している」って言った後のキャロラインの笑顔が全エピソードの中で一番好き。ボージャックに対して、「セックスさせてくれる母親みたいな人が欲しいだけ」っていうキャロラインの評価はアダルトチャイルドであるボージャックの女性遍歴を見てもあながち間違ってない気がしてならない。

このエピソードで一番好きなジョークは、「金正恩とテリー・ハッチャーだって多くの人に愛されてるから多くの人に愛されるは長所には含まれない」とボージャックが反論するやつ。『デスパレートな妻たち』のときから何となく嫌われてたのは知ってたけど金正恩と並べられるレベルになってたのは笑った。

星10億中412の点数をレストランに付けたサマンサのサイトは実在する。
https://samanthagoestorestaurants.tumblr.com/

「耳が痛い言葉」(シーズン3-10)

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まただよ!また言い訳だ!いい加減にしろよな、クソみたいなことばっかりしてもそうやって自分は駄目だって落ち込めば全部許されるなんて思うのはやめろ!もっとまともになんなきゃダメだ!......いや、ダメだ。ボージャック、言い訳はよせ。君自身が君を壊す原因なんだよ。酒じゃないし、ドラッグでもない。仕事がツラかったなんてことも言い訳にはならない。子供時代も関係ない。原因は君だ。わかった?君が悪い。 (トッド)

ボージャックから次々と友達が去っていき、幸せに思えた日々が崩れ去る回。トッドのボージャックへの説教はマジでツラい。(アーロン・ポールの It's youスピーチはかなりの熱演なので吹替の人は字幕でここは見てほしい)まあ、ロック・オペラでやらかしてその後カルトから救って仲直りして、良好だと思ったところでエミリーの件なのでいくらボージャック目線で物語を楽しんでたとしてもこれはトッド側に同情してしまう。ボージャックが作中いろんな間違いを犯すけどこれが一番見ててボージャック、お前...ってなるやらかしだった。もちろんこの回がシーズンで唯一Fワードが使われるエピソード。It's you. Fuck, man, what else is there to say?で使用された。

メインキャラにステレオタイプのLGBTキャラがいない代わりにアセクシャルのトッドがいて、主人公ボージャックの近くにいる図がこの作品を好きな理由のひとつでもあったので、ボージャックを見限ったのはどの別れよりも個人的には悲しかった。トッドは、ウォルターから離れたら普通にすぐ幸せになれそうなジェシーっぽい。(どっちもアーロン・ポールだし)

「どう考えてもやり過ぎ」(シーズン3-11)

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言ったろサラ・リン、まだ終わりじゃない。この果てしない時間のなかじゃ俺たちなんて皆いつか忘れられるちっぽけなもんさ。だから過去に何をしようと、何を成し遂げようと、大切なのは今だけだ (ボージャック)

Right, Sarah Lynn? Sarah Lynn? ......Sarah Lynn?
悪夢のエピソード11。アルコールとドラッグ漬けでボージャックが傷つけた人を訪れる旅は、目まぐるしくただ圧倒されたが、そこから急にサラ・リンお気に入りの場所グリフィス天文台に移り、プラネタリウムを観て、静かで穏やかな終わりを迎えるという演出には涙してしまった。サラ・リンの最後の言葉が、「建築家になりたいな」だったのも切ない。彼女は以前の「馬か騒ぎ」回想シーンでも建築家になりたいと言っていたり、このエピソードでもプラネタリウム自体が好きなのではなくドームの形状が好きだと言ったり建築に対する愛情は実はかなり前から示していた。「やり直せるなら」(S2-3)でも書いたが、サラ・リンには幼少期に性的虐待を受けた疑惑がある。親の意向だけで芸能界入りした子供時代、学校には通えず、義父からは虐待を受け、国民的ポップアイドルになるも搾取され続けたあとは落ちていき、酒と薬漬けで最後は若くして過剰摂取による死亡という『ボージャック・ホースマン』で一番悲惨なキャラクターと言えるだろう。3歳のときに芸能界に入らず、周りと同じように学校に行き、建築家になる未来があったと考えると...

「傷つけたくない思い出」(S1-3)で、"The only drug I need is horse."というセリフがあるがサラ・リンの死の原因に直結したのは"BoJack"ヘロインなわけで脚本家はシーズン1からこの結末を仕込んでたのかと考えるとかなり驚く。


「成功だ」(シーズン3-12)

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人生はツラいまんまだよ。いずれ良くなると誤魔化しつつやっていくこともできない。俺は毒なんだよ。毒から生まれ出でて触れたもの全てを破壊する。それが俺だ。ここまで生きてきて何も成し遂げてない。誰かの人生にも良い影響なんか残してない。 (ボージャック)

ピーナッツバターはザルで世界を救い、トッドは大金持ちに!?、ダイアンとキャロラインは新しい仕事を得て、ボージャックはリブートされた「馬か騒ぎ」の収録に挑む回。子役の女の子がボージャックにあなたみたいに有名になりたいのと純真無垢に放った一言がサラ・リンの悲劇を思い出させ、ボージャックは荒野に出る。

なんといっても"Nina Simone - Stars"の使い方が上手すぎる。絶望し、疲れ果てたボージャックがハンドルから手を放すシーンからはボロボロ泣いてしまった。こんな余韻を残す作品に出会ったことがなかったのであまりのしんどさに数日他のアニメも海外ドラマのことも考えられなかった。最後の懸命に走る競走馬を眺めるシーンは、ボージャックが憧れていたセクレタリアトが、「悲しいことがあっても前に走り続けるんだ」と言ってたシーンを思い出す。

エンディングの曲を歌っているニーナ・シモンのドキュメンタリー映画が同じくNetflixにあるので良かったら見て欲しい。

Nina Simone - Stars (エンディング曲)


シーズン4

「シュガーマン家の別荘」(シーズン4-2)

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Michelle Branch - A Horse With No Name(挿入歌)

A Horse With No NameをBGMに荒野をドライブするボージャック。ブレイキング・バッドでもウォルターがこの歌を運転しながらご機嫌に口ずさんでるシーンありましたよね。シーズン3最終話のハンドルから手を話すシーンといいちょいちょい明らかにBrBa意識してるところがあって気付くと楽しい。

ボージャックの母ベアトリスの過去が明らかになり、なぜ彼女が息子を決して愛さなかったのかが判明する。ボージャックの祖母にあたるハニーのヒステリーを抑えるためにロボトミー手術を行ったシーンがあるけど、当時の精神病治療の歴史とか調べてみたら怖...ってなった。

過去と現在のタイムラインが交差して、愛する人を失った共通点を持つシュガーマン夫人と隣人エディがミュージカル仕立てに"I Will Always Think of You"を歌う演出は同じ場所にいないとわかっていても完璧にマッチしていて感動してしまった。しかも有名な曲とかじゃなくてオリジナル曲ってことにも驚く。

シュガーマンの別荘の壁紙のデザインはよく見ると蹄鉄とドングリのデザインになっている。ドングリは馬にとって有毒なことから、この馬の家系に隠された悲痛な運命のメタファーらしい。

「祈りとお悔やみを」(シーズン4-5)

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ミーティングなんてしてる場合じゃない。人生は短いんだ。ミーティングするならウォーターパークでしよう。 (トッド)

ダイアンは銃規制の問題に巻き込まれ、ボージャックは施設で余生を過ごす母ベアトリスのところにホリーホックと一緒に訪れる回。どっちも内容が濃い...

銃乱射事件が頻発するなか、元々銃所持には全面反対だったダイアンが、女性が怯えないで暮らすために銃を持つべきだって記事を書いたら、女性が武装するようになって、女性による銃乱射事件が起きてしまい、その結果カリフォルニア州における銃規制法案を通過させてしまったお話。女性にも銃を持たせる権利か銃の全面規制だったら規制を選んだ世間に、「銃を愛している以上に女性を嫌っているなんて...」と驚くダイアンに「今更?」と返すキャロライン。ギャグも所々に散りばめられてるため説教臭くないし、オチまで完璧だった。

ホリーホックと会わせるためにボージャックは、久々に認知症の母ベアトリスのもとへ訪れる。が、ボージャックのことを息子だと認識できず、昔彼女の家のお手伝いさんをやっていたヘンリエッタと思い込んでいるベアトリス。「馬か騒ぎ」のDVDに映るボージャックは息子だとわかったので本人の前で寸劇をしてみると、ベアトリスが暴れ出し、家に連れて帰ることになってしまう。病にかかる前、ベアトリスは、番組のことを下らないとこき下ろしてたが、楽しそうに笑って「馬か騒ぎ」を見る母親にボージャックは何ともやりきれない表情になっている。

銃規制問題、ジェンダー不平等問題、映像コンテンツの暴力表現問題、介護問題をぎっしり詰め込まれているカロリーの高いエピソードだった。

ボージャックが初めてFワードをいうエピソード "Fuck you, Mom."

「役立たずのクズ野郎」(シーズン4-6)

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なあボージャック、俺は、州の予算編成のこととかどうやって法律を作るかは知らないよ。知らないことはいっぱいあるけどこれだけは知ってる。誰だって愛される資格はある。 (ミスター・ピーナッツバター)

自己嫌悪に陥るのを繰り返し、自己破壊的傾向のあるボージャックが内からどんな声が聞こえているのかをこのエピソードでは聞ける。自分に対する批判をやめない内からの声と戦うボージャックは、さながら精神疾患を抱えて常にもう一人の自分と話している『ミスター・ロボット』のエリオットっぽい。自己嫌悪の声が聞こえる度に、Blood In The Cutのイントロが流れる演出も良かった。プールサイドで、いつかのウォルター・ホワイトみたく火のついたマッチをプールに投げ込むホリーホックに「皆お前が嫌いなんだ。お前は役立たずでバカでブスだ。と言う声が後ろから聞こえる。」と相談される。「この声って10代特有のものだよね?」という質問にその声は消えないと知ってながらも「ああ。」と返すボージャック。ひとつ前の話で、ボージャックがホリーホックにもう嘘はつかないと宣言したが、ボージャックの優しい嘘でビタースイートに終わる感じが好き。

K.Flay - Blood In The Cut(エンディング曲)

「ルーシー」(シーズン4-9)

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プリンセス・キャロラインがメインのエピソードで一番好きな回。曽曽曽孫娘ルーシーが祖先であるキャロラインの最悪の一日を未来の授業で紹介するという線で話は進んでいく。ルーシーがこの話はハッピーエンドだというから希望を求めて視聴者は話の展開を待つがそれはミスリードでオチは妄想というなんとも切なくキャロラインを愛おしく思えるストーリーだった。誰にも涙を見せず、車でただひとりペンダントを握りしめて泣くシーンマジでジーンってきた。この作品に出てくるどの男よりも男の部分を持ってるかっこいい女性なんですよね、PCは。僕が『24 -TWENTY FOUR-』のなかで好きなシーンのひとつにシーズン3の最終話で感情が溢れ出したジャック・バウアーが車で今まで誰にも見せなかった涙を流す男泣きシーンがあるんですけど、それと同じくらい感極まる瞬間だった。プリンセス・キャロラインをジャック・バウアーと並べて語るnoteは日本でここだけだと思う。
話を戻すと、キャロラインは、得意な仕事のことになると手段を選ばないような一面もあるけど、男運が悪くて、不妊の問題も抱えているなどシーズンを追うごとに判っていって、そのバックグラウンドのもとにこのエピソードなのでそりゃ泣いてしまうよねって話。1周目は、ボージャック目線でばかり見てたのでうるっと止まりだったけど2周目で大号泣した。

Tank and The Bangas - Oh Heart(エンディング曲)

「時の流れはただ」(シーズン4-11)

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その子のために自分の夢を捨てちゃダメ。私みたいにあの男に人生を毒されちゃダメ。あなたは学校を卒業して看護師になるの。そして誰かと出会う、いい人と出会って家族をつくるでしょう。でもその子は諦めなさい。お願い、ヘンリエッタ。私を信じて、私の二の舞にならないで...(ベアトリス)

認知症のベアトリスから世界はどのように見えてたのかがわかる回。ボージャックのことをヘンリエッタと呼び続けたのは、この二人がベアトリスにとって最大の後悔であることに関係してたのだとわかる。ベアトリスの悲惨な半生を知ってしまうとボージャックが悪いのは、元凶の母親のせい!とか簡単に決めつけることすらさせてくれないのが『ボージャック・ホースマン』の苦みであり深みだと思う。終盤初めてボージャックのことを息子だと気づくシーンがあって、最初ボージャックは、用意してた罵倒を言おうとするんだけど思い直して「ここはミシガンの別荘でクラッカージャックのピアノを聞いてアイスを食べてるんだ」って教えてあげるところも唸らされる。ボージャックは、言葉にできないほど複雑な感情だったと思うし、これを美談として捉えることなんて今までこの作品を見続けた人ならできないはず。エピソード11がどのシーズンでも悪夢なのは何となく気づいた上で挑んでも見終わったときはただただ呆然としたよね。いや、本当にしんどい。ベスト鬱エピソードだった。

「今何時ドットコム」(シーズン4-12)

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私が業界に入ったのは、物語が好きだから。物語は癒されるし、刺激を受けるし、自分の知らないいろいろな世界を経験させてくれる。でも気をつけなきゃいけない。物語ばっかり追いかけてるとね、自分の人生も物語だって錯覚してしまうから。でも違う、人生は人生なんです。悲しいけど...だって時間が無さすぎるから... (プリンセス・キャロライン)

「フィルバート」を会社役員たちに売り込みに来たのになぜか人生は物語じゃないと語り出すキャロラインから始める回。このセリフ、メタ的に視聴者に対してどんなにツラい、現実的すぎる話をしてもあくまでこれは物語だよって製作者からのメッセージだと思うんですよね。シーズン3の完成度もかなり高かったけどシーズン4はとくに救いようのない話がエグすぎたっていうのは絶対視聴者も気づいているはずです。そんな『ボージャック・ホースマン』ファンの皆んなにこれは物語だと再認識させたのでは?と思ってます。人はそう簡単に変われないというメッセージ性は前々からしつこく提示してきた作品だったけど、ここを区切りに人生は物語ではないというテーマが加わったようにも思えるので真意はよくわからないのですが。。。
次のシーズンのネタバレになるのですが、シーズン5は作品ファンへのメタ的批判をシーズン丸々つかって成し遂げるんですよねこの作品。だから、物語は物語ってきちんとわかってるよな?次はもっとすごいことやるから感情移入しすぎるなよ?っていう意味合いなのかもしれませんね。
Whittagut dittagoo yittagoo gittaguys thittagink?(皆んなはどう考える?)

とにかく、キャロラインは次の大きな仕事をゲット!トッドは無性愛者のなかで出会いが!ボージャックは妹ができた!皆幸せで終わり!!!!!!!

...ではなく、ダイアンとミスター・ピーナッツバターは離婚の危機に瀕してダイアンの涙でシーズン4の幕を閉じる。バカだけど陽気で周りに好かれるミスター・ピーナッツバターの問題が段々と明るみに出てきて不穏になってきたね。"everybody loves you, but nobody likes you"が一番刺さるのってPB、あなたなのでは......?

ホリーホック「でも...お兄ちゃんがいたことはなかった。」からのボージャックの顔アップ→EDの流れ完璧だったね。ホリーホック、原語の声優さんも吹替もめっちゃ声可愛い。

Jenny Owen Youngs - Wake Up(エンディング曲)


シーズン5

「電球のシーン」(シーズン5-1)

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なあボージャック、このドラマで今シーズンテレビ界に一波乱起こそう。(フリップ)

This is going to be a sensational season of television.
本当になりましたね、シーズン5は。フリップの声は吹替も上手いけど根暗でナードなボソボソ声を完璧に演じているのがラミ・マレックなのでそっちも是非聞いてほしい。シーズン5から登場のジーナの声優さんは、ブルックリン・ナインナインのローザで有名なステファニー・ベアトリスが務めていたりして声優陣が豪華。

LAという搾取できるものなら死ぬまで搾取し続ける街のことを歌ったLos Agelessの歌詞の意味を考えるに、バックで踊り続ける魚はお金のために死ぬまで性的搾取され続ける対象と受け取ることができる。多分これはこのシーズン段々と正気を失っていくボージャックと重なっている。歌詞の“But I can keep running. No, I can keep running.”にあるようにセクレタリアトのどんなにツラいことがあっても前に走り続けるんだと言った通りに走り続けたボージャックに待ち受ける未来は果たして... と考えさせられたのでこのエンディングは、名エピソード揃いのシーズン5でも印象的なシーンとなった。

St. Vincent - Los Ageless(エンディング曲)

「さらば老犬」(シーズン5-2)

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あなたがベトナムにいく本当の理由は、もうすぐ元夫になる人が他の誰かにキスしているのを見てしまったから。最初はこう思う、「あれは、今だけ。酔った勢い。パーティーだもん。」でも彼は、あなたにしたのと同じように彼女の背中に手を回した。それは支えてるよって意味。かつてあなたを安心させてくれた仕草。あなたは悟る。自分はもうしてもらえないんだって。そして再び心が壊れる。もうこれ以上壊れることはないと思えるほど壊れた後なのに。もう大丈夫、そう思っていても別のやり方で壊される。 (ダイアン)

ダイアンが祖先の故郷ベトナムへの旅に出る回。周りは自分と似たような顔ばかりと最初は非ロサンゼルスな日常を楽しんでいたが、ここは故郷じゃないし、自分はただの観光客だと気付く。ダイアンのベトナムに行く本当の理由を語る最後の苦いシーンにシーズン5も「ボージャック・ホースマンは人生」が始まったなと身震いした。

PBと最終的にくっつくのがダイアン(白人声優)じゃなくて、ピクルス(ベトナム系アメリカ人声優)なのは何か意図があるのかなって思うよね。ダイアンの声優の件は、本記事の主題を超えるため、本格的な議論は他日を期したい。

異国の地でチキン・4・デイズを食べてるのに笑う。(自分もこの前インドに行ったとき帰りの空港でカレー以外のものがとにかく食べたくてケンタッキーを貪った経験を思い出した。)

ベトナムバージョンのエンディングテーマについての制作秘話はコチラ

エンディング曲

「チュロスはタダで」(シーズン5-6)

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「馬か騒ぎ」を下らないとかリアルじゃないって言う人もいるでしょう。だけど、番組を続けなきゃならないからハッピーエンドはなし。それ以上リアルなことって?俺はないと思います。 (ボージャック)

伝説のチュロス回。ボージャックが、母親の葬式で22分間ノンストップで弔辞のスピーチをするっていう水中世界冒険回くらい尖った演出が印象的。それにしても『ボージャック・ホースマン』の世界ってドラマもクソもなくいきなりはい、葬式回ですって始まるから驚く。一番最後にベアトリスが出てきた回とかちょっとボージャックと繋がりがみえたかと思いきや、その後とくに何もなく死ぬ感じが「死」に意味を持たせようとしなかったハーブのときから徹底しているなと思った。ボージャックの弔辞は、"I See You"を巡る物語なんだけど最終的に感動するオチになるわけでもなく、終始あっちいったりこっちいったりする話なのに目が離せないのは、視聴者が完全にボージャックに共感し、その複雑な気持ちを汲み取ろうとしてるからなんだと思う。あとは、背景のアニメーションがほとんど変わらず、変わるのはボージャックの表情くらいという要素もボージャックの話を聞き入るように仕向けられててアニメ上手いな〜ってなった。

国内外問わず、全シリーズ通してこのエピソードが一番好きという意見はちょっとネットで調べればごろごろ出てくる。BoJack Horseman is over and everything is worse now.とよくコメントしている外国人がいるけどその元ネタはこの回の“My mom is dead and everything is worse now.”から。

「無防備な深み」(シーズン5-10)

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シーズン5の特に後半3話に関しては、非常に鋭い指摘をしている記事があったので先に共有する。

このブログにあるように加害者としてのボージャックが、この10話あたりから視聴者たちに突きつけられ、バックグラウンドがあっても人を苦しめてきた事実はそこに明らかに存在することを再認識させられる。

「フィルバート」のプレミアパーティーでボージャックは、

このドラマの1番すごいところは、フィルバートはみんなのなかにいるということだな。というか、オレたち自身が彼。だって誰だってあるだろう。ひどく後悔してることって。オレもかなり酷いことしてきたけど、それがこのドラマのテーマなんだ。つまり、その...みんな酷い人間だ、だからみんな大丈夫...みたいな?そう、それはすごくパワフルなメッセージだと思う。

と作品について紹介して、ダイアンは激怒する。監督のフリップに配信を中止するよう言ったセリフがこれだ。

私は、彼を弱いところがあって親しみを抱かれるキャラにした方がテレビ的に良いと思ってた。でもフィルバートによってひどいことばっかりするバカな人を正当化することになるなら、悪いけどこれ、世に出すことは出来ない。

この後もシャーロットのことを持ち出して批判をするシーンがあるが

(悪いと思ってないんだ?と聞かれ)もちろん思ってるよ!ずっと悪いと思い続けてきた。でもな、言っとくけどさ、むこう(most of these women)はきっと覚えてないよ。......ボージャック・ホースマンの犯した罪に一番苦しんでるのはオレ自身なんだよ。......オレは前に進んでやる。......オレは変わる気なんてない。

とボージャックは、被害者面をする。誰かを傷つけ、後悔し、反省するけど一番苦しいのは自分だと開き直る。この二人の議論を聞いたあと、ボージャックの負のループはまだ続くのかと思わされたし、正直今までとは違うかたちの幻滅をした瞬間でもあった。でもこの回の感想を調べると、「ダイアンは何事にも白黒はっきりさせようとしすぎなところがある」や「サラ・リンについてはボージャックだけの責任じゃない。もっと複雑な背景がある」などダイアン批判をしている人が多数いて驚いた。ダイアンの言葉は、原案者ラファエル・ボブ=ワクスバーグからの作品ファンへのメタ的批判であるのでボージャックに共感し過ぎていた視聴者ほど苦虫を噛み潰したような気分になるエピソードだった。

性格俳優界の重鎮マーゴ・マーチンデールさんがアップを始めたようです...

「迫真の演技」(シーズン5-11)

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女性の首を絞めるな!と雄弁に語り、一時はフェミニストのアイコンにまでなったボージャックが現実を見失ってジーナの首を絞めて危うく殺してしまいそうになる回。依存してた鎮痛剤は、オピオイドっていうやつで日本に住んでるとあまり馴染みのないように感じるけど、アメリカだと中毒性が高くてリハビリ施設に通っても再発する可能性が高いドラッグとして問題になってるらしいね。これまでのシーズンでもドラッグによるトリップをサイケデリックな世界観で表現してきたが、今回はミュージカル仕立てでボージャックのトラウマや後悔を映し出してていつも以上に容赦ない描写だった。そして毎回ボージャックの前に現れる階段を登ると急に暗転し、トゥルーマン・ショーのラストシーンのような静の空間がそこにはある。エンディングの音楽はODによる臨時体験なのか、安らかで穏やかなまま終わる。

シーズンに1度だけ使用されるFワードは、ジーナの"What the fuck is wrong with you?"で用いられている。

「選択肢は2つ」(シーズン5-12)

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どうも、ボージャック・ホースマンだ。知ってるよな?見てわかるだろ、超有名人だから。さっき電話したし。オレがここに来たのは助けてほしいから。(ボージャック)

ジーナの「ボージャック・ホースマンに首を絞められた女として人々の記憶に残りたくない」というセリフが虐待や暴行をされた被害者がなかなか声をあげられない被害者の苦しみを訴えていて、最終話でもボージャックの罪の重さを突きつけてくる。でもいつものシーズンの終わりのボージャックと違うところは、罪を犯したのは自分だけど自分も可哀想なやつだからねみたいにせずダイアンに助けをリハビリ施設に入るところ。アルコールとクスリが抜けた「アンチヒーロー」ボージャックはどんな物語を次のシーズンで見せてくれるのかと“Under The Pressure”を聴きながら考えさせてくれる。

“This is going to be a sensational season of television.”で幕開けしたシーズンは、ラミ・マレック演じるフリップがプリンセス・キャロラインの口紅塗って“Oh, fish!”するのがオチでちょっと笑った。ボヘミアン・ラプソディでフレディ・マーキュリーやったりジェームズ・ボンドとキスしてボンドガールの仲間入りする俳優キャリアとやっぱり関係あるんですかね。。。

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The War on Drugs - Under The Pressure(エンディング曲)


シーズン6

「馬、リハビリへ行く」(シーズン6-1)

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12ステップてさ、多すぎだって。12もやってらんないぞ。『それでも夜は明ける』を見て奴隷だった12年はあっという間だったとか思うか?(ボージャック)

アルコールがボージャックの人生をどう蝕んできたのか過去の記憶をめぐり描写した回。サラ・リンの死がボージャックのアルコールにまつわる最悪の出来事だったのは、わかるけど最終シーズン1話目からその話題くるんだって誰しもが驚いたよね。軽いジョーク的な肩ならしもなしに、本質をついてくるロケットスタート。母親の愛を一番必要としてた時期に与えられず、ウォッカを飲んで母ベアトリスの膝で眠る幼少期ボージャックに胸を打たれた。

今まで全シーズン12話だったけど、最終シーズンはパート1とパート2の8話×2の16話構成になっているのと12ステップの話は絡めてるのかな。母ベアトリスの武勇伝と同じく煙草全部で一回で吸ったり、施設で水をやってるのがタチアオイの花(英名:ホリーホック)だったりとネタが散りばめられている。

South of France - Comme Ça (離脱症状のときの挿入歌)

「新規クライアント」(シーズン6-2)

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プリンセス・キャロラインの子育て奮闘記。「ルーシー」(S4-9)だったり「チュロスはタダで」(S5-6)などの数々の傑作回を監督したAmy Winfreyがこの回でも担当している。あまりのタスクの多さに分裂した姿で画面に何体ものキャロラインが描写されるのは彼女の心情を的確に映し出してて面白い。『デクスター』で仕事と殺人と育児を全部成し遂げようとするんだけど、育児疲れでいつもは有能なデクスターがとんでもないミスを犯すエピソード思い出した。話を戻すと、ヴァネッサ・ゲッコーとの会話はとくに印象的で、「共通点が多いのにどうしてずっとお互い嫌ってきたのかしらね?」に「私は嫌ってなんかいないわ、嫌いだったの...?」というのにはミスリードに驚愕した。たしかに2周目フラットで話を追うとゲッコーから特別な悪意はなかったんですよね。ライトソケット君の隣で「子供に名前をつけるにしてもライトソケットとか変な名前はつけられないでしょ」って言ってしまったりするジョークも面白かった。(アメリカでもキラキラネーム問題ってあるのかな)娘のプリンセス・キャロライン・プロジェクト(仮)ちゃんの名前もルーシーにようやく決まる。

「ハッピーになれる話」(シーズン6-3)

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考えてたの、LAに来たばっかりの頃に作ってたグリルドチーズサンドイッチのこと。お金全然なくて、友達もいなくて、仕事もなくて、それで最高のグリルドチーズサンドイッチを作ることにハマった。安上がりってこともあったけど、作ってる間はね、情けない人生だなんて思わなくて済んだ。で、飛行機のなかで思ったの。また、グリルドチーズサンドイッチを作ろうって、長いこと作ってないから。でも大好きだし、それにきっとハッピーな気分になれるから。それに自分でグリルドチーズサンドを作るのってね、どこでもできるからいい。でしょ?(ダイアン)

ダイアンが各地を回り、社会派番組を制作する回。ダイアンvs.シリーズはvs.国民的人気男性スター、vs.中絶問題と、vs.銃規制問題などヘビーな議題ばかりだったけど今回は大企業。フィリップ・モリス・ディズニー・FOX・AT&T・AOL・タイム・ワーナー・ペプシコ・ハリバートン・スカイネット・トヨタ・トレーダー・ジョーズを買収したホワイトホエールとかいう暗黒メガコーポが相手。ラスボス臭がすごい。ホワイトホエールの社長のモデルは、口髭といいウォルト・ディズニーなのでしょうか。

Fialta - High Above Chicago(エンディング曲)

「落ち込みの全国代表」(シーズン6-7)

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ボージャックは、全国各地を回って、大切な人々に会って思いを伝える。トッドと普通にランチして馬鹿話してるだけで嬉しくなる。シカゴのダイアンには、助けを求めるよう勧めてくれた感謝を伝えに行く。ダイアンは、逆に助けが必要な状態だったからこの訪問タイミングは完璧だったね。ホリーホックと再会したり、プリンセス・キャロラインに出産祝いを渡したり、ミスター・ピーナッツバターとたまたま旅先で出会ったりもする。クロスオーバーエピソードをついに実現できて「人生最高の日だ...」ってピーナッツバターが泣き出すところでなぜかこっちも感極まってしまった。底抜けに明るいウザいくらい陽気な犬だけどこんなに感情を出して喜ぶことはどのシーズンでもなかったので余程嬉しかったんだろうなって伝わってくる。

平和があらんことを

良い最終回だったね...
といかせてくれないのが『ボージャック・ホースマン』。いやでも真面目な話、大抵の作品だったら最終回と納得してしまう出来でしょ、この回。

James Henry Jr. - Take Me Down Easy(エンディング曲)

「いい傷」(シーズン6-10)

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今、回顧録を書かなくちゃ一生書けない。書かなきゃダメなの!だってこれを書かなきゃ今までの人生で受けてきた傷が全部いい傷じゃなくなる。ただの傷になるの。ただ単に傷ついただけ。惨めだった時代が何もかも無意味になる。あなたは、こう言いたいわけ?ハッピーな人生を送って女の子探偵の本を書いて明るくて人気者で良い両親がいればよかったって?じゃあ今までの人生は何? (ダイアン)

ダイアンをメインに扱ったエピソードってこの回を含めてたったの4つしかないんだけど、結局全部ベストエピソードに選出してしまいましたね。鬱といえばボージャックもだけど彼のうつ症状とダイアンのは全く異なるってのも興味深いポイントだと思う。ボージャックの場合は、攻撃的になったり、無謀な行動をしたり、自殺を試みたりしてた。一方、ダイアンの症状としては、意欲低下、過食などが挙げられるっていう。性別での違いってよりもダイアンにはガイがいたし、そういう二面性を訴えているのかな。
抗うつ薬の服用を受け入れたダイアンの体形が明らかに変わるんだけど、誰もファットジョークにしたりせず、ただ淡々と抗うつ薬のメリット、デメリットを提示してくるのもこの回のかなり気に入っている部分。

過去の傷に意味を持たせたい、何も意味もなく傷ついたなんていう事実だけにしたくないというダイアンの気持ちは痛いほどわかるけど幸せになって欲しくてしょうがない。

ボージャック被害者の会、ジーナに続いてペニーもパニック障害になってたことが判明してついにボージャックが過ちのツケを払う雰囲気になってくる...

「コピーをコピーした馬」(シーズン6-12)

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こういうことね、サラ・リンが子供の頃にあなたがお酒を飲ませ、それから彼女は依存症に。彼女がハイの時にあなたは関係を持って、シラフのときに死因となったヘロインを渡したのよね?それで自分の身を守るために救急車をすぐ呼ばなかった。彼女は生きてたかもしれないのに。だけどあなたは女性を支配してないと思ってる。(ブラクスビー)

サラ・リンの死に関する新事実「空白の17分間」が報じられ、ボージャックは世間から大バッシングを受ける。2回目のインタビューでブラクスビーにこれまでの悪事を暴かれ、畳みかけてくるんだけど全て正しいっていうのがなおさらツラい。ボージャックは、女性をとくに意識して傷付けているという意識はないと思うけどブラクスビーに指摘された通り、パターンは確かに存在するだろうね。加害者のボージャックを醸し出すレベルの前シーズンと違い、全面にむけて押し出してくる。アルコールやドラッグの依存から脱することができても、名声を手軽に得たいという欲求は止められず2回目のインタビューを決行してしまったので、この馬はもう救いようがないのではと視聴者に思わせたのが最も壊滅的な瞬間だったかもしれない。

「途中で見た景色」(シーズン6-15)

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ボージャック、反対側なんてないぞ。これで終わり。(ハーブ)

OPのラストでプールに落ちるボージャックだったり、ナルキッソスを題材としたポップアートに描かれていたのもプールで溺れている馬だったりと予兆はあったけどついにそのときがくるとは... ボージャックが招かれた奇妙な晩餐会の出席者は、シーズンの“死”を揃い踏みさせた面子となっている。ハーブ、サラ・リン、ベアトリス、クラッカージャック、コーデュロイに加えてジェシカ・ビールに燃やされたザック・ブラフやなぜか父親として出てくるセクレタリアトとかなりカオス。

セクレタリアトの詩は、自殺願望がある者へのメッセージな気がしてならない。皮肉ではなく、率直に、死は容易じゃないし、誰も死後に実際何があるかなんてわからないというシンプルな答え。でもはっきり言って、ただ圧倒されただけで、2回観たくらいでは咀嚼しきれなかった。観る側の器の問題だと思う。人生の痛みと生きることの広大さ、美しさを26分間に凝縮して摂取させられてた気分なんだけど、上手く表現できないのがただ悔しい。

エピソード15だけど、実質最終シーズンの「悪夢のエピソード11」として用意されたいわば究極のエピソード。IMDbでも『ブレイキング・バッド』の神回「オジマンディアス」と比較して賞賛している人が多かった。

「続けられれば...」(シーズン6-16)

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人生ツラいがいずれ終わる。(ボージャック)

人生って、ツラいけどそれでも生きていかなきゃ。(ダイアン)

“Mr. Blue“が流れて、ボージャックとダイアンがお互いにたまに何かを言おうとするんだけど躊躇って結局言わず、静かに空の星を見上げるラストシーン本当に良いよね... 誰よりもお互いのことを知り尽くしているし、言葉によってその場が台無しになることも理解してる。綺麗な星空とちょっぴり切ないエンディング曲で終わる。ハッピーエンドもバッドエンドも必要ない、ただ次の日がくるだけ。人生でしょ、このアニメーション。これ以上ない終わり方だった。

トッドの“It was nice while it lasted, right?”(続けられればいいんだろうけど)は、エピソードタイトルにもなってるけど製作陣の願いのようにも思える。普通のアニメだったら仲直りして元の関係に戻るんだろうけどボージャックトッドは、2度と親友にはならないんだろうな。それでもこうやって話せるくらいにまで関係性が回復したのは、トッドが作中の誰よりもピュアで人(馬だけど)の一面だけでその人を判断しないからってのはありそう。多様性に配慮してるアピールだけの作品にステレオタイプのLGBTキャラを出す必要はなくて、トッドみたいな存在が増えればいいのになぁ。

プリンセス・キャロラインは、ボージャックの元カノのなかで彼の傍にい続けた唯一の存在だったけど、それ故トラブルに多く巻き込まれてたのでそんな彼女のハッピーエンドは誰しもが喜んだと思う。ボージャックとのラストシーンで、自分の幸せのために境界線は引くけどあなたを間接的に応援するわみたいな感じが良かった。PCにとっての最善の道だと思う。

メインキャラでボージャックのもとに最後まで残り続けるのが、ミスター・ピーナッツバターというのも興味深い。シーズン1でボージャックが一方的に嫌ってた正反対の性格のPBは、ただボージャックの親友になりたかっただけでそれをついに叶えられた。彼らの友情は、これからも続くし、一生クロスオーバーエピソードごっこができるので、一番幸せになれたのはもしかしたらPBなのかもしれないね。

Catherine Feeny - Mr. Blue(エンディング曲)


一応、全エピソードをランキングにすると...

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最後に

全然短く、簡潔にできなかったね... 全76話中40話をベストエピソードとして選出するという暴挙に出てしまった。ボージャックとダイアンが好きなのでどうしてもその2人が関わってくる回中心になっちゃってるかなとは思ってる。トッドやプリンセス・キャロラインが1番好きだという人もちらほら見るのでそういう方には納得のいかない選出だったかもしれないけど、お許しを...
腐るほど書き散らかしたのに、まだ語り足りない感があるな。


IndieWireとか海外大手サイトが選ぶ歴代アニメ第一位とかで『ボージャック・ホースマン』が紹介されてることがあるんだけど、正直アニメっていうよりも完全に海外ドラマなのでそこは頭切り替えて観た方がいい気がする。大人向けカートゥーンアニメとかお高くとまった呼び方が好きじゃないし、馬鹿にしてたけどこの海外アニメの価値だけは本物だった。

もし1人でも読んでくれた方がいたなら、ありがとうございました。

それでは、今回はこの辺で。

BoJack Horseman is over and everything is worse now.


参考にしたサイト


『ボージャック・ホースマン』
原案:ラファエル・ボブ=ワクスバーグ  
Netflixオリジナルシリーズ 
シーズン1~6独占配信中


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