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てんぐの銀英伝考察:帝国領侵攻作戦におけるフェザーンと地球教団とトリューニヒトの意図

noteの方はちょっとご無沙汰しておりました。先日、ファミ劇でノイエ銀英伝の一挙放送をやっていたので、その流れで久しぶりに銀英考察記事を書いてみます。

一挙放送で邂逅編と星乱編を見てると、色々今までとは違った見方ができるものでして。その中のひとつに、銀英史上屈指の愚行とされる同盟軍による帝国領侵攻作戦(アムリッツァ星域会戦)があります。

端的に言えば、悪い意味での中道派のサンフォード政権が、来るべき選挙で勝てるようにってだけの理由で、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に私的なルートを通して渡された大攻勢計画を最高評議会で可決してしまったのが、この帝国領侵攻作戦発動までの経緯ですが、その水面下では様々な人物や陣営による別の思惑もあったように見えます。

というわけで今回は、決して表面には浮かび上がらず、あるいは実現することもなかった、その思惑についての考察をしてみます。

フェザーン自治領の思惑

帝国同盟の抗争を常態化して経済的な漁夫の利を得続けるために両者のパワーバランスを慎重に調整するのが、この時点でのフェザーン自治領主府としての基本方針です。

なので、イゼルローン要塞陥落により回廊内の制宙権と同盟領内に張り巡らせたスパイ網を失い、何より平民階級の叛乱の機運が高まることが予想される帝国側へ適度な勝利を与えることで状況を落ち着かせる。この時点での自治領主ルビンスキーの考えであることは、本編でも明示されています。

ただし、フェザーン自治領の介在の結果、帝国領侵攻作戦は同盟軍自体が壊滅的な打撃を受けるという、適度な勝敗とはとても言えない結果に終わるわけですが。

また、アスターテ会戦で同盟軍は、常設していた宇宙艦隊12個のうちの2個艦隊分の戦力(16パーセント強)を丸々失っています。この戦力の穴埋めに向けて、同盟軍では次世代型新造艦の建造ラッシュがスタートしていたはずです。

アッテンボロー提督の座乗艦<トリグラフ>は、石黒版とノイエ銀英伝ではアムリッツァ後に就役してますが、建造期間を考えるとアスターテ後の穴埋め新造艦だった可能性が高そうです。(ノイエ<ユリシーズ>については、純然たる次世代型新造艦と、従来型戦艦だったのをトイレを含めた損傷個所を次世代型新造艦のブロックと交換したキメラ艦の二通りの可能性があります)

帝国領侵攻作戦が同盟軍の適度な失敗に終われば、さらに目減りした艦艇の穴埋めのために新造艦建造ラッシュが始まるのが見込まれます。その利権にフェザーン系軍需産業や造船産業が食い込ませる、というのがフェザーン資本の代弁者としてのルビンスキーの思惑だった、という見方もできそうです。

地球教団の思惑

本稿では、地球教団は同盟領内に浸透していた地球復権カルトが比較的本伝開始時から近い時期に成立させた、神秘主義と復古主義を化合させた教義と自分たちすら信じ込んだ偽史を看板にした新興宗教だと仮定して推測を進めます。

さらにもうひとつ、帝国領侵攻作戦の提案者のひとりアンドリュー・フォークも、地球教団の入信者かそれに近しい関係だったと仮定します。

フリードリヒ4世時代の帝国は年中行事と言われるほどに頻発する地方叛乱、同盟も星系間の経済格差への不満から、二大勢力は無数の独立勢力群に解体した可能性を指摘されています。

地球教団もその可能性を考慮していたはず。そのような銀河大分裂時代が到来した場合、自分自身の地盤、「王国」を持っておけば勢力拡大に打ってつけです。地球時代でも、第一次十字軍遠征の後に、エルサレムをはじめとした占領地に十字軍国家が誕生したという故事があります。

しかし、「地球教の十字軍国家」を建設しようにも教団単独の武力で領域を切り取るのは不可能。となれば、他人の財布と武力を当てにすればよい

そういう流れで、軍部内の浸透させた地球教シンパを介してサンフォード議長に侵攻作戦のプランを提出させたフォーク准将の「こいつがどうやって士官学校を首席で卒業できた?」と言われる雑な作戦計画についても、表には出せないものの帝国外縁部での地球教徒が内応してくれる手はずだった、と考えれば辻褄もあってきます。

トリューニヒトの思惑

はっきり言って、この男の思惑を類推するのが一番難しいです。そもそもこの男、すべての事象を見通し邪悪な計算をしつくして生き延びてきたのか、単に上っ面の小賢しさだけの男が世の腐敗に便乗してたまたま生き延びてきただけか。その判断が全くつかないんです。

ただ、この侵攻計画に反対票を投じたこと、投じる前には賛成も反対も表明しないこと。以上を彼自身の保身だけをテーマに考えると、実は唯一無二の「正解」ではあります。

まず、失敗に終わった場合(事実そうなるわけですが)、これは「選挙目当ての無謀な出兵計画に反対した真の愛国心の持ち主」として自分を世間にアピールできます。

そして、逆に成功(少なくともある程度の占領地を確保できた場合)はどうか。出兵計画の採決を主導したウィンザー夫人の株は上がるでしょうし、逆にトリューニヒトら反対派の株は下がることになる。そうなれば彼女に国防委員長の椅子を譲ることになるでしょう。

しかし、「その一方でトリューニヒトほどのアジテーターを無役にするのも惜しい」とサンフォード議長らが思ったとしたら、打ってつけの役職があるのに気づくはず。

前述の「地球教の十字軍国家」、すなわち帝国領侵攻作戦の占領地の総督職がそれです。

もしそれが実現すれば、同盟政府から半ば自立し、地球教団とも連絡を密にでき、さらにイゼルローン回廊すら扼した「トリューニヒト王国」が誕生することになります。

トリューニヒトがどのくらいこの作戦の行く末を読んでいたかは、繰り返しますが全くわかりません。ただ、たまたまかもしれないですが、彼がこの採決の際に政治的に生き残るための唯一無二の回答が「最初から出兵計画に反対したという実績を作ること」だった、そしてトリューニヒトはそれをやりきったということは確かです。

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