捨てOONS 第一話「二丁目の衝撃」

この物語はフィクションです。実在する人物とは一切関係がありません。

なんでもない日の帰り道。若干黒ずんだ電柱と、大した物なんて売ってない自販機の間の段ボールを、ぼくは何の違和感も抱かずに通り過ぎようとしていた。
「ひろってください」無責任で無機質な平仮名と毛布にくるまれたなにか。なんだ、これは。まったく、いつの時代にもモラルのない飼い主様はいらっしゃるものだな。ふーん。あ、そういえば今日の夕ごはんってそうめんだったっけ。麺がのびちゃうから早く帰んなきゃ。
嘘である。今日は金曜日。ハンバーグの日である。気づいたらぼくは、このやっかいごとから逃れる方法をどうにか探そうとしていた。
そもそもそんなことなど忘れるはずがない。弟のしゅんが大好きなハンバーグ。金曜は決まってハンバーグ。お母さんがわざわざしゅんのためにハート型にまでしてあげている、あのハンバーグである。別にそんな形になど興味はない。どうせぼくの前に置かれるのはへんてこな形のやつなのだから。はあ。そろそろお母さんも一発で作れるようにでもなったらどうだ。おっと、夕飯のたらこスパゲッティーがのびてしまうではないか。そろそろ帰らなきゃ。ダッ、ダッ、ダッ、と足音を立てて駆け出した、その時だった。
「拾えよお😡」
ん?え?聞こえてはいけない声がした気がする…
「ひ、拾え😊 拾え😊 ならず者😠」
え、もしかして… ぼくは段ボールの中の毛布を、できるだけ触らないよう指先で、そーっとめくってみた。
そこには、捨てOONSがいた。
え?なにこれ?誰がやったの?え、なんで?バレないとでも思ったの?え、これって、警察呼んだ方がいいの…?え、で、でも… 警察を呼んだところで… …どうするの…?
ぼくはとにかくパニックになった。もう、夕飯のお好み焼きのことなど頭からはさっぱり消えていた。落ち着け。落ち着くんだ、ぼく。とりあえず落ち着いて、そっから落ち着けばいい。ああだめだ。だめだもう。
…心臓の鼓動が伝わってくる。そのことがわかりはするくらいには落ち着いたのだろうか。とりあえず、状況を整理する…までもなく、ぼくはひとつの結論を出した。
…うん。かわいくはない。かわいくは、ない。
ただ、これから面白そうなことが起こるんじゃないか、そんな予感はした。嫌というほどした。こいつはかわいくはないけど遊んであげてもいいかも… と、好奇心とでも言うのだろうか、なにか心臓が跳ねるような心地がした。かわいくはないけど。
「思い出」と表紙に書かれた、0.5mmのシャーペンに書き殴られた薄汚いノートに、虹色のインクがぽたっと一滴垂れる音がした。


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