捨てOONS 第二話「苦みと甘み」

あれは数年前、ぼくのお父さんが株で大儲けして、ぼくたち一家がマンションに引っ越した頃のことだった。不動産屋さんが懇切丁寧に、新居でのルールを説明してくれた。まだガキだったぼくには、言ってることがさっぱりだったが、一つだけ強烈に印象に訴えかけてきたことがあった。
「ペットによる騒音問題が多発してまして、お客様の飼われているOONSなどは連れ込めないことになっておりますが、大丈夫ですか?」
「あ、その点は問題ありません」
なんだそれ。OONSなんて飼いたがるやつがいるだろうか。そもそもOONSは東京の動物園なんかでしかお目にかかれない存在なのだ。どっかの動物園では、OONSのストラップ、OONSのぬいぐるみ、そして極めつけに木彫りのOONSが売っているらしい。狂ってる。この世界は狂ってる。ぼくが狂ってるんじゃない。ぼく以外が狂ってるんだ。
「わかった?しゅんもお兄ちゃんも、道端でOONSが捨ててあっても拾ってきちゃだめよ?」
どういうことだよ。そもそもOONSが道端に捨ててあるなんて、ありえないから。何言い出すかと思ったら馬鹿馬鹿しい。
「えー!やだやだ!しゅんOONSひろいたい!やーだ!」
…この親にしてこの子供ありである。

…どうしよう。ぼくはこの目の前のOONSをどうすればいいのだろう。「ひろってください」って、言われてもなあ… うちのマンション、OONS禁止だからなあ…
「えっ😦 なんでぇ❓😯 拾えよお😡」
あのねえ、そんなわけにもいかないんだ。OONSを飼っちゃうと、隣に住んでる人とかの迷惑になっちゃうから。どうせうるさくするでしょ?
「なんでだよお😡 論証責任😊 論証責任が😀 ありますう☺」
なんでって言いたいのはこっちだ。何故分かってくれないのか。
「分かったよお😡 はい☺ はいっ☺ はいっ☺」
物わかりのいいやつである。
…しかしこのままではOONSがかわいそうである。流石にOONSといえどもかわいそうである。どうにかできないものか。しかし、人間とは無力なものである。基本的に人間は一人では何もできない、無力な生き物である。いや、ぼくが無力なだけである。ぼくは結局人の助けでも借りないと生きることすら叶わない、そういった意味では捨てられるべきはぼくなのかもしれない。
はあ…せめてなにか温かいものでも食べさせてあげられたら…なにか自販機でも近くにあればお汁粉でも買ってあげられるのに…そんなうまい話なんてないか…
あった。ちょうどOONSの左に、自販機があった。だが、不幸にもお汁粉なんてものは売り切れていやがった。ろくに補充がされてないんだろう、あたたかい飲み物で売り切れてないやつは微糖のカフェオレしかなかった。こんなんじゃ腹もふくれんだろうに。ぼくの財布には百円と五十円が1枚だけ。使わないなんて選択肢は、ありやしなかった。気づけば自分はカフェオレの缶を開け、OONSに差し出していた。
「あっ…😦 あったかい……😊」
まあ、とりあえずよかった…と、思った矢先、
「ピピピピピピピピピッピッピッピッピ……ピーッ!ピーッ!ピーッ!」
自販機が、当たっていた。当たったところで貰えるものなんて、水かカフェオレくらいしかないのだが、それでも血が駆け巡るような感覚だ。カフェオレのボタンに手を伸ばし、自分でも驚くようなスピードで飲んだ。甘い。とてつもなく甘い。あたたかい。空虚が詰まった心に、染みわたる糖分。ぼくの口や食道、さらには胃までもが温かさで浮き彫りになってくる。実を言うとちょっと熱い。だが、そんなことなど気にせず、滝のような勢いで飲み、気づけば缶の中が空っぽになっていた。泣いていた。何故だろう、カフェオレの缶を握りしめ、地べたに座り込み、ただただ泣いていた。
「ねえ、OONS… ぼく辛いの… 家では理想のお兄ちゃんとして過ごさなきゃいけないし、学校ではテストも9割とれなきゃ怒られるし、友達からも頼れる存在でなきゃいけないし… もう… みんなから嫌われちゃいけないし……」
「えぇ❓😯なんでぇ❓😦」


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