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譲り受ける

                             佐藤かれん
 中学生の頃、生物の授業で「樹木観察」をしました。それぞれ観察する木が割り当てられて、月に何度かその木を観察し、気づいたことをレポートにしました。

  私が観察したのは、ゆづり葉でした。厚みのある大きな葉が特徴の木で、観察を始めた春頃は、新しい葉がぐんぐん成長し生命力に溢れていました。晩夏に新しい葉が生え揃うと、あっと驚くことが起きました。古い葉が、新しい葉に命を譲るように次々と木から離れ落ちていったのです。その姿が妙に印象的で、今も鮮明に覚えています。

  それから数年後、私はスウェーデンで織物留学をします。帰国時に、先生の紹介で一台の織り機を譲り受けることになりました。幅が150cmもある大きな織り機で、本も出版されているような染織家の女性のものでした。購入以来、25年間ずっと使っていたそうですが、ご高齢になり譲る決意をしたそうです。

  織り機がスウェーデンから日本に届いたとき、重厚な木箱を開けると、分解されたパーツがキチッと丁寧に梱包されていました。25年前の説明書まで同封されていて、彼女の織り機への愛を感じました。きっとこの織り機は、彼女の大切な仕事の相棒だったのでしょう。織り機を譲り受けることに対し、背筋が伸びるような思いがしました。

  25年の歳月を共にした織り機を手放すときの彼女の気持ちは、まだまだ私には想像しきれません。でも、織り機を譲り受けたとき、これから織りを続けて行く私に、彼女が未来への希望を託してくれたと思っています。

  自宅で織り機を眺めると、ゆづり葉が世代交代する様子を思い出します。新しい葉に命を譲るゆずり葉のように、大切な織り機を譲ってくれた彼女。そんな彼女の想いを繋いで、私も一生懸命に良いもの・美しいものを織り続けたい。

佐藤かれん 山梨在住
染織作品で2019年工房からの風へ出展


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