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風土を映すモノ

                             片岡陽子 
 子供の頃に母から「ごはん一粒一粒にも神様が宿っているから、残さずきれいに食べなさい」と言われて育った。

 そして大人になって家庭菜園を始めると、自分で育てた野菜が愛おしく味わい深く、その言葉の真意を悟った。食物だけでなく、時間と手間をかけて作られたモノにもまた、魂が宿っているのではないか。自分が作るモノだけでなく、毎日仕事につかう道具や暮らしまわりのアレコレも、敬い大切に使えば温もりが生まれ、やがて手に馴染んでかけがえのない家族のような存在になっていく。  

 スペイン北部のカタルーニャの田舎を拠点に伝統的な紅型の技法で制作している。こちらで調達出来る材料で糊を作ったり、友人がスペインで収穫した大豆を色止めに使い、庭の植物で草木染をし、布もスペイン産の綿生地を主に使い、スペインの風土を反映するモノづくり。柄は日々の自然豊かな暮らしからの発想で紡ぐ絵本の様なスタイル。  

 全て自然の素材を使っているので、作業工程自体が自然と対話している様で、その日の湿度やお天気の様子を伺いつつ、祈る様な気持ちで慎重に、時に大胆にのびやかに、唄う様にリズミカルに染めている。
 ゆっくり手間と時間をかけて染めた布は、機械を使わない手仕事ならではの素朴さと優しい風合いがある。使い手の日々の暮らしに彩りと笑顔を添えて、やがては家族の一員となる様なモノづくりを目指して日々精進している。

 今回はるばる初参加の「工房からの風」展にて、実際に作品を手にとって、地中海から吹くゆるい風音を直に楽しんで頂けたら嬉しい。



片岡陽子 スペイン在住
TALLER URARAKA として、型染め作品を2019年工房からの風に出展
https://www.yokokataoka.net/

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