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かたつむり

きっかけ

初めて1年生を担任した年の、7月の雨の日の朝、子供たちにかたつむりを渡されました。
お菓子の空き箱に、ぎっしりと。20匹くらいいました。
前の日の帰り道、何人かで紫陽花の花にいるのを見つけたそうです。ランドセルを置いてからまたみんなで集まって、いちごパックに集めて、最終的に一つにざざーっと(アサリを鍋に入れるかのように)入れて、私にプレゼントしてくれたみたいです。
生き物は苦手ではありませんが、さすがにビックリ。でもぐっとこらえて、
「うわー、いいねー。よく集めたねー、可愛いじゃない」と言うと、
「ねえこれ、教室で飼おうよ」と。ま、マジか。
「なるほどねー、生活科のお勉強になるねー。でも20匹は多いなあ」
最終的に6匹に減らして、残りは紫陽花に戻し、キャベツを食べさせてお世話。夏休みと同時に、残りの子たちも紫陽花に戻しました。

俳句ポストに投句したものの・・・

ウン年後(ウン十年後?)。俳句を始め、いつき組を名乗るようになり、俳句ポストに投句を始め、1年が過ぎました。初級で一度金曜日に掲載され、中級に挑戦したくなり、もっと上手になりたいと、「俳句ポスト並盛連盟」に入会して間もない頃。
俳句ポストで、「蝸牛」が兼題になりました。
あの頃の私は、とにかく背伸びしていました。俳並連の先輩たちの素晴らしい句を見て圧倒され(入ってみてわかったこと。メンバーが凄すぎる。並盛ならハードルが低いと思って入ったのに、と、最初は本気で後悔した)、とにかく、「見劣りしない句を作らないと!」と焦っていました。
しかしなぜか、思いつく句は、雨の中淋しそうなかたつむりばかり。おまけに似たような句ばかり。

打開策を求めて、かたつむりの生態を調べたら、かたつむりは貝類なのに肺呼吸をするとの情報を得ました。
へえー、肺呼吸!だから、他の貝類と違って地上にいられるのか。きっと、かたつむりも他の貝に、「僕は青空を水の中からじゃなく、直接見られるんだよ。いいでしょう」と自慢しているかもしれないなあ。
あ、これを句にしたらどうだろう?かたつむりの、生の肯定!ナンチャッテ
そこでできたのが、この句。
「青空眩しででむしの肺呼吸」

事前句会では最高点数を取りました。やった!見劣りしない句が作れたぞ!
もしかしてもしかして、佳作なんか取っちゃったりして?ウキウキ!
ところが、発表週の月曜日、類想ワードの中に「肺呼吸」が挙げられていて、ウキウキ気分は一気に消えました。こ、これは、没ということ!?
下手に背伸びして、自分の今の実力以上のことをしたせいか!?
頭を抱えた1日・・・。
でも幸い、肺呼吸句は、火曜日に並選で採られていました。一安心。

え?例のエピソードはって?
作らなかったわけではないんです。肺呼吸句と一緒に2句投句しました。

「どどどどと箱にでで虫集めたり」
「青い傘くるくる子らの手にまいまい」

まだ、エピソードを結球させるにはどうしたらいいか、経験も知識もありませんでした。

夏の終わりに・・・

「あのエピソードをどうしたらよかったのだろう?」というモヤモヤは、何となく頭の中に残っていました。
当時は俳句の通信添削を受講していました。そうだ、夏が終わらないうちにかたつむりで1句作ってみよう!子供たちは、宝のようにかたつむりを集めてくれたのだから、そこを切り取ったらどうだろう。

「下校時の宝探しやかたつむり」

として提出。1か月後、戻ってきたレポートには、添削してくださった先生から、
「蝸牛を宝と見たところを、読者に通じるのかが難しいところですね」。
との評が。添削例は、
「下校時の数えてゐたる蝸牛」
・・・そうか。確かにこれなら分かりやすい。でも、数えただけじゃないの。集めて詰め込んで、20匹渡されたの。あの衝撃は、これでは伝わらない。いや、そもそも元の句がそれを伝えてないじゃないか。何となく上品だけど、その代わりに迫力も感動も薄れてしまった。これではだめだ。
モヤモヤは解消されないまま、一旦保留となりました。

NHK俳句の兼題に

リベンジは急に訪れました。
約1年後。NHK俳句で、「蝸牛」が兼題となったのです。それも選者は夏井組長。今度こそ、あのエピソードを何とかしよう!張り切りました。
それにしても、何度もうまくいかなかったのはなぜだろう?と考えているうちに、ハッと気づいたことがありました。
「なぜ私は、作中主体を子供にばかりしてきたんだ?」
かたつむりを探す子供、かたつむりを集めた子供ばかり句にしていたけど、子供たちの様子も気持ちも、想像しているだけ。受け取った時の様子も気持ちも、自分が一番分かっているのだから、私が受け取った句にするのが一番いいんじゃないか。大量の蝸牛にびっくりした私、これを句にしよう。

1年俳並連で鍛えていただいて、「びっくりした~」とあからさまに表現するのではなく、びっくりした瞬間の自分の様子を描写するんだ、ということは分かってきていました。
子供たちにとって、かたつむりは、私に喜んでもらうためのプレゼントだった。私はびっくりしたけど、嬉しかった。だってまるで、お中元をもらったみたいだったから。
そうそう!これだ!まさにこれ!

「子に贈らるるででむしの詰合せ」

この句ができるまでのお話でした。

おまけ:指定校推薦重しかたつむり

こちらは伊月庵通信の百轉集で秀作をいただいた句です。
娘が指定校推薦で大学に進学したものの、「後輩に迷惑かけてはいけないと思うと、何だかそれだけで4年間枷を付けられている気がする・・・」と呟いた時、思いついた句でした。のんびりしている娘のペースが、本当にかたつむりみたいなもので。


かたつむりにこんなに思い入れが強くなってしまうなんて、これも俳句の力でしょうか。何にしても、梅雨の季節、雨が降ると何となくかたつむりを探してしまう自分がいます。




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