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Dance in the island 周防大島に生きる5 ~放送後記~

2021年9月25日、シリーズ5作目となる放送をお聴きくださった皆様、ありがとうございました。これからRadikoなどでお聴きになる方、またSNSや新聞記事を読んで関心をもってくれた皆様も、ありがとうございます。

シリーズ5作目・雑感

今回のテーマは「家業」。地元で育ち、親の仕事を受け継いだ3組。大工さん、花屋さん兼、花火師さん、庭師さん。

前回までもそうですが、とくに「同世代」の皆さんのお話から浮かび上がる「島で育つ」という光景は、僕がまったく想像することができなかったことだし、いまこの話を聞いてやっと追体験できた感覚でした。

「親父のあのときの目つきと言葉がずーっと残ってますよね」(中島さん)

親の仕事を引き継いでいくときの「言葉」や「心情」はともすれば親子ともに恥ずかしい(僕も親とそういう話、できたことがありません)ことかもしれないので、こうして話してくれて、聴いているみなさんとシェアできるのは本当にありがたいです。

周防大島でこれまで幾度もライブを行っている、森田真生さんの出たばかりの新刊「僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回」を読んでいてこの一節があらたに目に留まりました。ラジオのことを思い返しながら。

「僕自身、子どもの頃に自分の父が働く現場を見たことがない。労働の空間と、学びの場が切り離されているのは、近代的な学びの風景の大きな特徴である」(p.84)

家族活動と労働活動が分離していった現代、森田さんがここで考えたいと指摘したのが「人間以外のものと接触する時間の喪失」だといいます。

「人間を含むすべての生物種と共存しながら、いかにすればこの地球環境を、居住可能な場所として営んでいけるか」(p.87)

今回の周防大島のラジオで浮かび上がったのは、もしかしたらそれぞれ、先代は意図していなかったかもしれないけれども(いや、意図していたかもしれないけれど)、広い意味での「居心地のいい場所、住処」の受け渡しの「はざま」の光景だったかもしれません。しかも今ではもう貴重になってしまった、そして、なかなか言葉にする機会がない、という。

総務省のホームページによれば、全国の労働者人口のうち、統計が始まった昭和28年には50%を超えていたという「自営と家族従業」の割合は、昨年令和2年の数字は「約9%」なのだとか。

この受け渡しの考え方、「世代間の倫理」をどう実現したらいいかという問題に対して、森田さんは2つの文献を引用しつつ、「感謝」と「恩」が手がかりになるのでは、と語ります。

「未来世代からの制裁を恐れて」ではなく、「自発的な恩」。「罪の意識」よりも「自分が受け取っている恵みに対する感謝の思い」。それらが人を強く突き動かすことがあるーーー。

「未来からこんなに奪っていると、自分や、子どもたちに教えるより前に、いまこんなにも与えられていると知るために知恵と技術を生かしていくことはできないだろうか」(p.163)
「自分でエネルギーを生み出すことができない人類が、この地上で生きることができているのは、驚くほど多くのものを、自然から与えられてきたからである」(同上)

今回のラジオ5作目は、「仕事の仕方」「家族の仕事の継承」から「地域の継承」という、周防大島だけでなく日本各地で起こっている課題へのひとつの実践例といえると思ったし、もっといえば「今、どう世界を感じて、生きていくか」という世界どこでも通じる根本的な問題に、インタビューでの生の声で応答してくれた。「恩」と「感謝」のサイクルが、このラジオの中にも吹き込まれていた、と思いました。

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番組の「つくり」について

ここで話題はいきなり番組自体のこととなります。

この番組はエフエム山口という、都道府県域に広がるFM電波に乗って放送されるプログラムです。シリーズ1~5まで、「ラジオでのインタビュー」だからこそ初めて吹き込まれた声、浮かび上がる光景、というのは上にも記してきました。ふだんの雑談でせっかくいい話が聞けていても、残らない。またなかなか他の人とシェアできなかったりして。

■公共の電波

ラジオ放送では、局に対して「電波料」というものを払って放送が成立するという背景があります。電波は国(総務省)が所管していて、電波法、放送法に乗っ取って放送されおり、その放送や制作に対する費用の事情から、いわゆるスポンサーが必要となっています。「こんな番組が作りたい」と思っていても、基本的にはスポンサーがつかないとできないという構図です(僕も何度か経験があります笑)。特に都道府県域に電波を飛ばす局になるほどお金がかかるということでもあるそう。

そしてラジオとわず、従来の放送では、スポンサーが「広告」という見返りとともにお金を払ってくれて、番組ができるというサイクルであります。これはテレビでもyoutubeでもおなじみで、皆さんもご存知だと思います。これはいい悪いではなくそういうもの、という感じです。

ところがこうなると、行き着くところは「広告効果があるかどうか」が判断基準になる側面で、それに応じてスポンサーがつく。視聴率だったり再生回数だったりも関係したり。これが指し示すのは「内容よりも人気が出ればいい」という傾向から逃れられない、ということだと思います。

人気は「刺激物」としての表現で出やすいこともあり(これも経験ありです)、それ自体は僕も好きだし否定しないのですが、それだけで染め上げられた表現の世界では人は救われない、というのがこの数年の僕の正直な実感です。

これからの時代は、そうではない表現が救いになると思っていて。

ひと昔前よりも社会の経済の余裕はきっとなく、そういった面(手堅い番組にしたくなる)からも番組の多様性も減っているともいえそうな最近。「広告を入れる仕組みにすればいいじゃない」という声も自分の中からも聞こえてきます。でも、何かと引き換えにする場合、やっぱり内容の独立性が情や忖度など、どこかの時点で溶け出してしまう危険もあり、それは本末転倒してしまうと考えています。

「こんな番組があってもいいじゃない」「島のマニアックな話が公共の電波にのるのって楽しい」「どこでも通じる話」「小さな声が未来を示す」。そういう表現を基底にした番組があったら。このプログラムも、回を重ねるごとにそうなっている気がしています。

そしてーーー。

お金がなくなったら番組は放送できない。

そういう現実もあります。その現実との綱渡りで、ここ数回は応援してくださる方々からの貴重な支援と、僕と三浦ディレクターそれぞれ万単位での支払いでなんとかやりくりしているのがいまの状況です。

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■「ラジオがいい!」ラジオ原理主義との抗争

この番組は、周防大島在住の米農家・三浦宏之ディレクターと制作しています。彼の真骨頂をこの5回でまざまざと見て感嘆したので、ここにシェアしますね。

三浦さんは浅黒く日焼けし、土の香りが立ち込める百姓姿で島ではおなじみ。島に出入りする多くの人が通る国道沿いの田んぼを管理しているので、見かけることも少なくないと思います。ですが実は、その姿からは想像できないほどの「ラジオ野郎」だということが、近年わかりました。それも原理主義者といえるほどの・・・。

東京の怪物FM局で叩き上げてきた、植物由来ならぬ”J-WAVE”由来のラジオ魂。本人はいたってさらっとやっているようですが、生放送でも収録番組でも、「1時間なら1時間、4時間なら4時間を1曲としてとらえる」構成と制作。

そういえばこの周防大島特番の編集中も、インタビューを聴きながら「泣いている」とはよく言っています。インタビュー、MC、そして選曲までもを含めての1つのかたまりで、感情の流れも丁寧に描いてしまう。僕も曲を編曲したりエディットするのが日常だったので、そのあたりとても共感します。実際、出来上がったものを「ここで切るのか~」とか「ここでこの曲か~」などといつも放送時に初めて聞いて、新鮮に響いています。

どんなタイミングで、どんな声で、どんな曲をつなぐか声をつなぐか。その製作中はときに厳しさを隠せません(僕も何度もやり直ししてしまいます)。その姿は、5作目のみなさんの「職人仕事」と同じような、仕事への熱を感じずにはおれません。

ここでさらに大事なポイントの一つが「曲」。植物由来のラジオ魂、その妙味は「選曲」と切ってもきれない関係で、そこが三浦Dの大きな魅力。最近はポッドキャストでもできるようになってきていますが、著作権の関係で、音楽を自由に流せるというのはラジオ局だからできること。(youtubeでは多くの場合削除されてしまいます)

そしてさらに。ラジオの最大の魅力は「リスナーとの近さ」。どんなラジオ番組でもSNSなどを通した気軽な交流が見逃せません。R・マクルーハン 「メディア論」によれば、

「ラジオは大多数の人びとに1対1の関係をもたらし(中略)意思疎通の世界をつくり出す」

とあります。これは耳を通したメディアの特徴なのかもしれません。そのリスナーとのコミュニケーションが、風のように出入りし、番組自体が育っていきます。

このシリーズでの製作費の捻出は、製作委員会方式をとって取り組んでいますが、これはざっと調べたところではラジオ番組では前例がなさそうです。

ラジオ主義者の三浦さんとバンド主義者である僕のお金にまつわるアプローチはときに違っており、番組の内容とお金の集め方について、議論がぶつかり合うことが多々あります。それでも、「いい『ラジオ』番組を作る」という一点はお互い揺るがず、これからもずらさずに作り上げていくことを確認しています。

このラジオ番組と取り組みに共鳴してくださる方がいたら、ぜひご支援いただけたらうれしいです。もし仮にたくさん集まったら、これまですごくいいのに泣く泣く削っていたインタビュー箇所を生かして、展開させていくことも可能かもしれません!そして僕たちはまた泣きます。

最後はお金の話になっちゃって、野暮なことでした。

いつもありがとうございます!

中村明珍


Dance in the island ページ

https://www.yorimichibazar.com/danceintheisland

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